バビロン(2022)の映画専門家レビュー一覧

バビロン(2022)

「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼル監督がブラッド・ピットを迎え、1920年代のハリウッドを舞台にしたドラマ。サイレント映画の大スターのジャック、新人女優ネリー、映画製作を志すマニー。彼らの運命は、トーキーの革命の波に巻き込まれていく。出演は、「アムステルダム」のマーゴット・ロビー。音楽は、「ラ・ラ・ランド」のジャスティン・ハーウィッツ。第80回ゴールデン・グローブ賞で作品賞を含む主要5部門にノミネートし作曲賞を受賞。
  • 映画評論家

    上島春彦

    サイレント映画時代のアメリカを描く撮影、美術は最上で、最後のフィルム引用も美しい。しかしケネス・アンガーを批評意識なしにアダプトするコンセプトには疑問を覚える。妄想に映画マニア監督が寄りかかってるみたい。昔、『知ってるつもり!?』という番組があったが、「分かってないのに知ってるつもり」で書かれた脚本だ。エピソードを「雨に唄えば」からまんま借用するのも問題。初めてのトーキーのロングテイクをトラブルを乗り越えて何とかやりこなす場面での女優の好演が光る。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    「ラ・ラ・ランド」ではオープニングで味わった疾走感とリズムによる快楽が本作ではラストにくるが、ゴダール、ベルイマン、ドライヤーなどの映画史における名作がコラージュされたシークェンスにまんまとシネフィル心を擽られた。決して大文字の映画に対するノスタルジー的な陶酔のみに堕さず、映画産業が抱え込んできた泥臭さや暴力性を包み隠さずあらわにし、映画へのアンビバレントな感情を描いている。いま映画についての映画を撮ろうとするのであれば、必然的にこうなるのだろう。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    いやはや実におぞましいものを見たというのが率直な感想だ。くすりとも笑えないユーモア、とめどなく滑りつづける3時間。タイトルが出てくるまで象のクソのように浴びせかけられる優等生による想定内の「やさしい」享楽や狂気には思わずギブアップしたくなる。そこにはなんびとの人生も映っていない。製作者の適度な映画愛と行儀の良い配慮以外は。映画自体がタイトル通りに空虚なバビロンと化しているというアイロニーは買うが、残念ながら映画史は本作に固く門を閉ざすだろう。

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