波紋(2023)の映画専門家レビュー一覧

波紋(2023)

「彼らが本気で編むときは、」の荻上直子が「よこがお」の筒井真理子を主演に迎え、自身の脚本を映画化。新興宗教を信仰し、日々庭の手入れを欠かさない須藤依子。ある日、長いこと失踪したままだった夫・修が突然帰ってくるが、がん治療の費用を助けて欲しいという。共演は、「レンタネコ」以来の荻上組参加となる光石研、「PLAN75」の磯村勇斗。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    義父と末期癌の夫の介護、息子の結婚、ご近所問題、更年期等々、五十女を取りまく問題がこれでもかと列挙される。しかしそれらが深掘りされることはない。極めつきは新興宗教。いつ企画されたのか知らないが、せめて今カルトをやるなら、それ相応の覚悟を持った描き方があるのでは。すべてスケッチ。なぜラスト、お天気雨で踊れるのか。やさしいふりして、結果、誰にもやさしくない。映画も人生もナメているとしか思えない。ミア・ハンセン=ラヴの爪の垢を煎じて飲んでもらいたい。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    人間誰もがもつ普遍的な悪意に迫っている。介護している寝たきりの義父への、家を出ていった無責任な夫への、恋人を連れてきた息子への、理不尽な要求をする客への、庭を荒らす隣の猫への、主人公が抱く悪意。そこから目をそらさない。多くの映画はカルト宗教を社会の病理として描くが、この作品は問題を社会のせいにしていない。ひたすら個人の悪意を掘る。そうすることで、さまざまな社会的規範によってがんじがらめになっている一人の女性の解放を模索する。荻上直子の新境地。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    新興宗教もガンも難聴も独居老人も各々に切実で、安易に扱ってはならぬデリケートな題材と思うが、更年期気味の主婦を襲う波状攻撃の一環として矮小化されて見えることに、違和感も。それらの象徴のごとき続々と現れる人物を、どいつもこいつもな曲者揃いに設定することで、独善的な偏見まみれのステレオタイプからは免れているが、主人公の何にでものめり込みやすい極端な気質をシニカルかつダイナミックに示唆するクライマックスは、見せ場づくりのためかと唐突な印象を与える。

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