有り、触れた、未来の映画専門家レビュー一覧
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脚本家、映画監督
井上淳一
このご時世にオリジナルでこの規模の作品を成立させるのは大したもの。よく出来ているし。だから苦言を少し。群像劇だから長くなるのは仕方ないが、それにしても長い。心情をすべて台詞で語り過ぎ。半分とは言わないが、せめて三分の二に。あれは映画の余白を奪う。あと僕なら演劇パートを切る。演劇、バンド、太鼓、拳闘じゃ表現アイテムが多過ぎ。桜庭ななみが弱いので、演劇友人を桜庭と合体させる。そしたら母の死も不要に。劇中劇でテーマを語るのは御法度。脚本監督の限界か。
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日本経済新聞編集委員
古賀重樹
震災や津波という言葉を一言も出さず、喪失感を自明のものとして、この世に残されて今を生きる者たちに寄り添おうとする。震災だけでなく交通事故やガンやコロナ禍もあるわけだが、そうして何かを失った人々が、芝居にボクシングにバンドに高校生活に向き合うのを温かく見つめ、その背中をそっと押す。青いと言えば青いのだが、そうでもしないとこの心の空白を語れないという切実さは伝わってくる。願わくは、その切実さをもう少し映画的な表現に昇華してほしかった。
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映画評論家
服部香穂里
被災地を主な舞台にしながら、人身事故を機にすべてを失ったヤクザや、青春を先延ばしして岐路に迷う舞台人らを効果的に使い、普遍的な群像劇を志したのが奏功。さりげなくも豪華なキャスト陣の、役どころをわきまえ抑制を利かせた演技が、少々メッセージ性が強めの台詞にも、まろやかで滋味豊かな趣を添える。年齢的にあべこべな生死がありふれ、救えたかもしれない生命さえ失われている今、ネガティヴな思考に支配されがちな心の渇きに、ほんのり潤いを与えるかもしれない意欲作。
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