オットーという男の映画専門家レビュー一覧

オットーという男

2015年にスウェーデンで映画化されたフレドリック・バックマンの小説『幸せなひとりぼっち』を、トム・ハンクス主演でリメイク。孤独と喪失感を秘めた町内一の嫌われ者オットー。近所に引っ越してきた陽気な一家との交流を経て、彼の心に変化が訪れる。監督は「プーと大人になった僕」のマーク・フォースター。
  • 映画評論家

    上島春彦

    感動作なので是非ご覧いただきたいが、ちょっぴり残念なことに優等生的な感動なんだよな。最初を見れば終わりが分かるという。そういう映画はあっていいんだが定型を超える細部の輝きが欲しかった。特に隣人の愉快な黒人青年との絆が失われる過程が説得的に描かれないのは問題。結局、TOYOTAのせいなんですか。不動産屋が一方的に悪者でSNSジャーナリストが善人、という発想にもなじめない。若者時代と老年時代を満遍なく描こうとして虻蜂取らずになってしまった。惜しい。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    断続的なフラッシュバックはつまり自死を目論む男が美しい過去へと何度も手を引かれていることを暗示する。回想の時間的距離はときにガラスの曇りを用いた映像で表現されるが、しかし彼が過去へと連れていかれそうになるたびドアを叩く音などで遮断される。本作は生をこの世に留めようとする何気ない出来事の連なりの美しさを描く。トランスジェンダーの逸話が含まれる以上、誕生した命を祝う場面で「BOY」(割り振られた性別)の文字を強調し青色で彩る描写に再考の余地はある。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    夫婦の出会いの素晴らしさ以外はパワハラじじいのイキり走馬灯観賞にずっとつきあわされているような理不尽な感覚。何よりトム・ハンクス演じる主人公オットーの心理変化の契機がほとんど描けていないので、つぎつぎと都合よく来訪する他者に心を開くようになっていく理由が皆目わからない。開いたから開いたんだという強引であざとい展開はこれ系の映画によくある、生き物ならば落涙せずにはいられない終末に向かって観客を無骨に引きずっていくわけだが、強烈な違和感は払拭できず。

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