アンダーカレントの映画専門家レビュー一覧
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文筆家
和泉萌香
始まり、銭湯を舞台にしたなんのドラマかと呑気に想像するも(原作は未読)、すぐに本作は、暗い死のイメージがつきまとうミステリーであることに気づかされる。過去の特定の瞬間、場所に呼び戻されるヒロイン、などというとデュラスの世界だが、ローグの名作「赤い影」なども想起しつつ、死の国からの探偵のようなリリー・フランキーにペースを?まれて…。そして、分かり合うことのできない夫婦/男と女の、もはや不毛となってしまったやりとりはやはりホラーだった。
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フランス文学者
谷昌親
亡父から受け継いだ銭湯を切り盛りするかなえ(真木よう子)の日常を描きつつ、住み込みの従業員としてやってくる謎めいた男の堀(井浦新)とかなりエキセントリックな探偵の山崎(リリー・フランキー)がそこにからんでくる展開をなにげなく組み込んでしまうあたりには、今泉力哉監督の手腕が遺憾なく発揮されている。しかし、後半になって、自身も忘れていた過去の出来事にかなえが向き合う段になっても、タイトルにもある「アンダーカレント」の深みが感じられないのが残念だ。
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映画評論家
吉田広明
水死した友人の代わりに水に沈む夢を見続ける女、嘘をついているうち「本当」が分からなくなる男、「人を分かる」とは、自分こそが他者であると認識することだろうが、その機微が日常的な説話の中に自然に溶け込んでいる。それぞれの心の底流が明らかになってゆき、解きほぐされてゆくだけの持続として二時間半があり、その必然性ゆえに見ている時間が充実している。銭湯なので水や火といった根源的物質が身近にありながら、いかにも象徴的に使うことのない抑制も素晴らしい。
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