マネーボーイズの映画専門家レビュー一覧

マネーボーイズ

田舎の両親に仕送りを続けるために男娼として生きるフェイと、その恋人シャオレイの葛藤を追う青春ドラマ。中国を舞台としながらも、地方から都会に出た若者が直面する経済的軋轢や、さらに自己の存在が否定される保守的社会に立ち向かう若者たちの姿を、世界中どこでも起こりうる物語として普遍的に描き出す。撮影は台湾で行われ、主演のフェイを「あの頃、君を追いかけた」(11)のクー・チェンドン、シャオレイをドラマ『お仕事です!~The Arc of Life~』(21)のリン・ジェーシーといった台湾スターが演じた。中国で幼少期を過ごし、オーストリアに移住、ウィーン・フィルム・アカデミーにて巨匠ミヒャエル・ハネケに師事したC.B. Yi(シー・ビー・イー)監督の長編デビュー作。2021年カンヌ映画祭ある視点部門に正式出品。台湾の金馬奨最優秀新人監督賞、最優秀主演男優賞にもノミネートされた。オーストリア、フランス、台湾、ベルギー合作映画。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    貧困や家族・親戚らの偏見といった要素を交えながらも、ハネケの弟子とは思えないストレートな恋愛映画の要素をもあわせ持つ物語、主人公の多彩な衣裳などは決して悪くないのだが、とにかく撮影と演技が冴えない。やや引いた位置のカメラが正面から人物を画面中央に捉える、単調なワンシーンワンカットの連続はメリハリに欠け、長回しの利点を生かすような感情の高まりがシーン内の演出や俳優の演技によって十分に表現されている箇所も皆無。橋口亮輔の爪の垢を煎じて飲んでほしい。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    異性愛が前提の旧態依然とした家族の在り方や結婚観がいまだに根強く残る社会の中で、男娼として生きる人々の物語を描くことは非常に意義深い。本作はそんな物語を過度にセンセーショナルに煽ることもなく、静かにただしっかりとした痛みを伴いながら映し出している。皮肉なのは、家族や社会から閉め出されてもなお、彼ら彼女らが求めるものは家族であるということだ。そこで見出されるのは、家族的な価値観の解体か、再構成か。決定的な結論を出せぬまま、映画は終わる。

  • 文筆業

    八幡橙

    「ブエノスアイレス」や「スプリング・フィーバー」にも連なる、同性愛を基軸とした孤独と彷徨の物語。全篇を覆う倦怠と虚無の匂い、田舎の慣習や古い倫理観に押しつぶされ、壁に阻まれる閉塞感が、端正で美しい画の内に映し出されてゆく。「あの頃、君を追いかけた」とは正反対の静の魅力を見せるクー・チェンドンの物憂げな佇まいも、いい。複雑に絡まった人間関係がもたらす重い空気をひと時忘れ、刹那の愉楽に浸り踊り狂うラストのフラッシュバックに、幾重もの感情が込み上げた。

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