水は海に向かって流れるの映画専門家レビュー一覧

水は海に向かって流れる

第24回手塚治虫文化賞新生賞を受賞した田島列島の同名漫画を「ロストケア」の前田哲監督が映画化した人間ドラマ。叔父・茂道ら曲者揃いのシェアハウスに身を寄せる高校生の直達は10歳上の榊さんに思いを寄せるようになるが、榊さんは恋愛はしないと宣言する。感情を表に出さないクールな主人公・榊千紗を「流浪の月」の広瀬すずが、榊さんに淡い思いを寄せる高校生・直達を「ぼくのおじさん」の大西利空が演じる。
  • 脚本家、映画監督 

    井上淳一

    役者がいい。ショットは的確、台詞もうまい。前田哲に仕事があるのが分かる。やっと褒めることが出来るかも。が、最後まで観て絶望する。広瀬すずが母の不倫出奔を赦す話だと思ってたら、なんと最後まで赦さない。え、不倫って、そんなに悪いこと? という疑義はどこにもなく、世間の不倫絶対悪に完全に阿っている。表現者がそれでいいのか。俗情との結託。母が可哀想。なぜ不倫やむなしの価値観で作れないのか。出来がいいだけに、この罪は深い。前田哲に仕事があるのがよく分かった。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    広瀬すずがりりしい。広瀬にしても、主人公の青年に思いを寄せる當真あみにしても、女の人が啖呵を切るシーンがとてもいい。前田哲の資質だろうか、師の相米慎二から受け継いだものなのか。最後に広瀬が「バッカじゃない」と言って、うれしそうに笑うところなど、拍手を送るしかない。頻出する雨と水の表現も効果を上げている。この一見カラリとして潔い女たちと優柔不断な男たちのドラマを、瑞々しくつややかなものにしている。冒頭に出てくるポトラッチ丼もうまそうだ。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    ここ数年、ジャンル多彩に撮りまくる前田哲監督だが、デビュー作にも通じる青春群像こそ最も自然体で臨めるのではと、本作から推察した次第。高校時代で成長を止めたふうにも見える終始不機嫌な女性と、彼女と奇妙な因縁で結ばれた若き同居人という、年の差十歳も精神年齢は意外に釣り合っている男女の距離を、彼に片想いする陸上少女が、勇気を振り絞ったがゆえに却って縮めてしまう切なさが染みる。各々に波乱の半生が見え隠れする周囲の濃い面々の活躍も、もっと観たかった気も。

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