青いカフタンの仕立て屋の映画専門家レビュー一覧

青いカフタンの仕立て屋

「モロッコ、彼女たちの朝」のマリヤム・トゥザニ監督によるヒューマンドラマ。失われゆくモロッコの伝統を守る路地裏で小さな仕立て屋を営むハリムとミナ夫妻。夫を誰よりも理解し支えてきたミナは、病に侵され余命わずか。そこに若い職人のユーセフが現れ……。出演は「モロッコ、彼女たちの朝」のルブナ・アザバル、「迷子の警察音楽隊」のサーレフ・バクリ。
  • 映画評論家

    上島春彦

    知らなかったがプレスによればモロッコでは同性愛はタブーらしい。そう分かって見るほうがスリリングだ。描写もかなり踏み込んでいる。仕立て屋夫婦と助手の話で、舞台設定とか冒頭は成瀬巳喜男とかの職人家庭劇路線なのだが、性愛が絡んできて様相が変わる。特に公衆浴場の場面。いわゆる発展場っていうやつですかね。また、ちゃんとした夫婦なのに奥さんが母親みたいな雰囲気を醸し出すのも面白い。職人気質の旦那さんとの対照の妙。奇妙な三角関係劇で爽やかなのに不気味さも。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    前作「モロッコ、彼女たちの朝」でも女同士がパン生地を捏ねる手の触れ合いが官能的に映し出されていたが、本作ではより触覚性が深化されている。布地のクロースアップからはじまり、薄皮が?かれてゆく蜜柑、病に蝕まれ骨が浮き彫りになった妻の背中、蒸気が立ち籠める大衆浴場などはすべて触覚性に関する。クローゼットのゲイと妻のもとに現れた男なる三角形の構図はこれまでのクィア映画においても繰り返し変奏されてきたが、この難しいプロットを高次元で美しく描き切っている。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    布に触れる。果実に触れる。愛する人に触れる。本作には触れることの官能があちらこちらにちりばめられていて、闇の階調を精確にあぶり出す撮影技術の高さもあいまって、画面から目を離せない。一方で、「難病もの」ふうの筋書きにはなかなか乗れずにいたが、映画なかばで訪れる思いもよらぬ展開によってそれも打ち消された。何の名前も肩書きもつけられず、ただの人間として存在することがいかに難しいか。何よりイスラム教国でこの作品を成立させられたことは讃えられるべき。

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