少年(1983) デジタルリマスター版の映画専門家レビュー一覧

少年(1983) デジタルリマスター版

1983年第20回金馬奨最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀脚本賞を受賞した、台湾ニューシネマ初期を代表する傑作。未婚の母シウインは息子アジャの将来のためにターシュンと結婚。やがてシウインとターシュンの間に子供が二人生まれ、アジャは不良になる。共に映画製作をしていたチェン・クンホウ監督とホウ・シャオシェンが1982年に台湾四大紙のひとつ『聯合報』の文芸欄に掲載されたチュウ・ティエンウェンの短編小説に目をつけ、ふたりが設立した映画製作会社最初の作品の原作として採用。チュウ・ティエンウェンは「風櫃の少年」以降ホウ・シャオシェン監督作品の脚本を手がけている。日本では特集『台湾巨匠傑作選2023』にて劇場初公開。
  • 映画監督

    清原惟

    声も聴こえないくらい遠くから、皆を見ている映画の視点が印象的で、どこか寂しい。母の笑顔がずっと見えないことに、うっすらと不安を感じながら観ていたが、最後に訪れる結末は悲しいものだった。ジャンヌ・ディエルマンのことを思い出す。日々積み重なったものが毒となり彼女を蝕んでいたのかもしれない。繰り返し流れる能天気なテーマ曲の?み合わなさが、この映画を単純なメロドラマにしないでいる。少年の物語であり、彼に人生を捧げた母の孤独についての物語でもあった。

  • 編集者、映画批評家

    高崎俊夫

    悪ガキたちの喧嘩が始まるといきなり画面が活気づき、脚本に参加している侯孝賢の傑作「風櫃の少年」を否応なく想起させる。朱天文と思しき隣家の少女の視点で綴られる危うい均衡を抱えたある家族の年代記だが、回想から徐々に浮かび上がるのは主人公アジャと母の運命論的ともいうべき痛ましい受難のメロドラマだ。「秋立ちぬ」にも似た甘やかな感傷を滲ませた結末も深い余韻を残す。そういえば昔、侯孝賢に取材した際、日本映画で最も偏愛する監督は成瀬巳喜男だと述懐していたのを思い出す。

  • 映画批評・編集

    渡部幻

    この秀作にして日本初公開に驚く。原題を「小畢的故事(シャオビーの物語)」といい、ほとんど哀れなまでに問題を起こしてしまう少年と家族の物語。同時代の日本映画とも通じる懐かしい時代の風が吹いてくるのを感じたが、見事に抑制された演出で思春期のリアリティを切り取っている(夜、懐中電灯で読み耽る『チャタレイ夫人の恋人』の可笑しさ)。しかしこうした追想の語り部は女の子であり、国籍を越えた普遍性と簡素な映像と音楽の細部から70年代台湾・淡水の歴史が立ち上がってくるのだ。

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