PERFECT DAYSの映画専門家レビュー一覧

PERFECT DAYS

「パリ、テキサス」「ベルリン・天使の詩」で知られ、小津安二郎を敬愛してやまないドイツの巨匠ヴィム・ヴェンダースが、役所広司を主演に東京で撮影した日本映画。公衆トイレの清掃員、平山の静かな日常を追いながら、人生の豊かさ、切なさ、愛おしさをエモーショナルに描き出す。2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門にてワールドプレミアされ、役所広司が男優賞を受賞。脚本はヴィム・ヴェンダースと、プロデュースも兼ねる高崎卓馬。共演は同僚のタカシに柄本時生、アヤにアオイヤマダのほか、新人の中野有紗、田中泯、麻生祐未、石川さゆり、三浦友和などのベテラン勢が集結。2023年・第36回東京国際映画祭オープニング作品にして、同年10月24日~30日に都内特別先行上映。映画企画の発端となった「THE TOKYO TOILET」プロジェクトと渋谷区内17カ所の公共トイレの意匠が世界的に注目された。
  • 文筆家

    和泉萌香

    今年の春先だったか、その問題が取り上げられていた渋谷のトイレ群が随所でなんともオシャレに画を彩る。編集は快調、ネオンや酒場の灯りも上品に、素敵に整えて描いてもらった東京。観光気分で目に楽しい、のんきな嘘っぽさが続くが、役所広司が刻む表情と身ぶりはただただ素晴らしい。個人的に「些細なしあわせ」とか「喜び」と聞くと見え隠れする欺瞞に不快になる。どんなにそれを毎日見つけたとして、自身が生かされていると思っても、完璧な一日を積み重ねても人は必ず死ぬ。

  • フランス文学者

    谷昌親

    ヴェンダースが30年近く前に撮った「東京画」の劇映画版とも言えるが、「東京画」をはるかに凌駕した作品だ。小津安二郎の映画によく出てきた人物と同じ苗字を持つ男の日常が、それこそ小津さながらに、しかしあくまでヴェンダース的な画面の流れのなかで展開していく。車を運転しながらカセットで昔の歌を聴き、カメラで木漏れ日を撮影するこの初老の男は、ヴェンダースの分身でもあるだろう。首都高、下町、水辺が人物の移動とともに映り、東京の街の風景がにわかに息づいてくる。

  • 映画評論家

    吉田広明

    ヴェンダースが日本で撮った映画にはすべて小津の影が落ちているが、ここでも同様。レトロ(カセット、フィルムカメラ、銭湯、古本)とモダン(ツリー、トイレ)が隣り合う本作の日本に、古典的かつ先鋭的な小津を感じる。「夢の涯てまでも」のハイパーテクノロジーはバブル期の日本のドキュメントでもあったろうが、本作の、ほどほどのところで心の自足を得る日本も、落日の日本のドキュメントであろう。主人公の生き方の理想化には複雑な思いだが、監督は誠実に日本を記録してくれている。

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