ソウルに帰るの映画専門家レビュー一覧

ソウルに帰る

異国の地で自分の原点を探す女性を描き、ボストン映画批評家協会賞作品賞を受賞したドラマ。韓国で生まれ、フランスで養子縁組されて育った25歳のフレディは、母国である韓国に戻る。そこで、韓国人の友人テナの手助けにより、実の両親について調べ始める。監督・脚本は、パリとプノンペンを拠点に活動し、「ダイアモンド・アイランド」で2016年カンヌ国際映画祭批評家週間SACD賞を受賞したダヴィ・シュー。出演は、本作が初演技となるビジュアルアーティストのパク・ジミン、「ファイター、北からの挑戦者」のオ・グァンロク、「三姉妹」のキム・ソニョン。
  • 映画監督

    清原惟

    冒頭、主人公フレディとゲストハウスの女性のささやかなやりとりのカットバックで、すぐにこの映画のリズムに惹き込まれた。生まれた国である韓国を異邦人として旅するフレディと、旅に同行し彼女をサポートするゲストハウスの女性のシスターフッドに着目していたのに、唐突に終わりがきてそこから全然違う映画のようになって戸惑う。しかしそれは突然自分の立つ場所がわからなくなり、直感を頼りにそのときそのときの判断を持って人生に立ち向かう彼女の感覚でもあったのかもしれない。

  • 編集者、映画批評家

    高崎俊夫

    国際養子縁組をめぐるドラマは、畢竟、自分はどこに帰属するのかというアイデンティティの探求に帰着する。風貌は典型的な韓国人でありながら韓国語は碌に話せず、中身はフランス人であるフレディは肉親を探す旅に出る。その過程で彼女は否応なく自己同一性の激しい揺らぎに直面し、プライドは打ち破られ深く傷つく。冒頭、彼女が初見で楽譜を見て演奏することの醍醐味を得々と語る場面がある。そんな彼女の地獄めぐりの果てに、バッハの旋律が流れてくるラストには不思議な感銘を覚える。

  • 映画批評・編集

    渡部幻

    カンボジア人の両親とフランスで育った監督は、韓国からフランスに養子に出された知人女性の経験に触発されたという。まずこの前提の個人性が現代的である。映画はフランス育ちの若く自由で大胆な韓国系女性を登場させる。彼女は今、韓国にいる。なぜなら、この国に「生物学的な母親」がいるはずだからだ。異なる言語と文化の翻訳、自己同一性の問題を通して普遍性をもったが、演出は生熟れである。時折、別の映画のイメージ(ソフィア・コッポラ等)を借りてきてしまい、他の誰でもない作品独自の力を弱めてしまうのだ。

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