私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスターの映画専門家レビュー一覧
私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター
「エディット・ピアフ 愛の讃歌」のマリオン・コティヤールと「わたしはロランス」のメルヴィル・プポーが姉弟を演じるヒューマンドラマ。何が理由だったかはわからないが、長らく憎み合い、顔を合わせることもなかったふたりが、両親の事故をきっかけに再会する。共演は「パターソン」のゴルシフテ・ファラハニ、「歓楽通り」のパトリック・ティムシット。監督は「あの頃エッフェル塔の下で」のアルノー・デプレシャン。
-
翻訳者、映画批評
篠儀直子
姉弟が憎み合っているだけの話をすらすら一気に見せてしまうあたり、やはりデプレシャンの強みは語りの巧さにあるのだなと思う。不和の原因の解明と、ふたりの和解とを観客は当然期待するが、M・コティヤールに鼻血を出させ、M・プポーに空を飛ばせるデプレシャンが、それだけでハッピーエンドとするはずはないのだった。憎しみを手放さないかぎり人は憎悪の対象に縛られたままであり、自分の人生を生きられないのだということを、唐突に見える結末があらためてわたしたちに教える。
-
編集者/東北芸術工科大学教授
菅付雅信
長年憎み合う姉と弟を軸にしたテンション激しいファミリー・ドラマ。姉をマリオン・コティヤール、弟をメルヴィル・プポーという魅力的なキャストを配し、アルノー・デプレシャン監督はこの姉弟関係をフランス的躁鬱劇場のように描く。過剰なまでの情緒不安定な人物造形を「これぞフランス映画」と褒めるか、疲労感を感じるかで評価が分かれるだろう。姉弟の憎悪の理由が希薄なため、物語が魅力的にドライブしない。キャストの力に依存しがちなフランス映画の悪い癖が出ている。
-
俳優、映画監督、プロデューサー
杉野希妃
舞台女優の姉と詩人の弟。創作の世界に生きる子ども大人な二人がいがみ合い、憎しみから解き放たれるまでが描かれる。ベルイマン風カメラ目線、ピーターパンのごとく空を飛ぶ姿、舞台上の雪降らしなど、フィクショナルな美しいショットで満ちているのに、ときめきが持続しないのはあらゆる事象がぶつ切りだからか。デプレシャンは感情そのものを人間の手には負えない生き物のように扱い、可視化しようとしているのかもしれない。コティヤールの深い瞳とプポーの皺の説得力に尽きる。
1 -
3件表示/全3件