福田村事件の映画専門家レビュー一覧
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文筆家
和泉萌香
村の人々、新聞記者たち、行商人の一行、各集まりの中での人間の差──男と女の差であったり、着物を着る者と軍服の者、上司と部下、だったり──そして自分たちよりも下の人間がいるという強烈な意識が、大きなキャンバスの中で同じ質量で描かれ、カメラは惨劇を凝視することを求める。田中麗奈演じる、お嬢様のキャラクターが印象的。本人にとっては非常に切実な夫婦仲の悩み、情事という逃避……欲望を持つことは素晴らしいことだが、気づいたときにはもう社会で第三者ではいられない。
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フランス文学者
谷昌親
関東大震災から100年目の年に向けて、こうした映画が撮られたことに対し、心からの敬意を送りたいし、ひとりでも多くの人に観てもらいたい作品だと思う。事実を丹念に調べたうえで緊迫した物語に仕上げてあり、福田村の人びとの日々と徐々にその福田村に近づく行商団の歩みとが並行して描かれるなかで、緊張が高まる。9月1日以降の展開は圧巻だ。それだけに、福田村にももっとのどかな日常があったのではないかと想像してしまう。日常から狂気への急転こそが恐ろしいのだから。
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映画評論家
吉田広明
確認を待て、日本人だったら人殺しになってしまうという村長に瑛太が言う「鮮人なら人殺しにならないのか」という台詞が肝である。良識派の中にもある無意識的な差別意識。とすれば、韓国で独立運動家の虐殺を見てきた井浦には、それをも撃つ批判が可能だったろうに、慎重派対虐殺派の分かりやすい対決の中で前者の一員に埋没してしまい生かし切れていない。各人物の造形が丁寧だけに惜しい。韓国朝鮮人虐殺をなかったことにしようとしている東京都への抗議も込めて観賞を推奨する。
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