私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?の映画専門家レビュー一覧

私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?

「エル ELLE」のイザベル・ユペール主演による、実話を基にした社会派サスペンス。会社とその未来、そして従業員の雇用を守るため、中国とのハイリスクな技術移転契約の内部告発者となったモーリーン。肉体的、精神的暴力に屈することなく彼女は6年間闘い続ける。共演は「デリシュ!」のグレゴリー・ガドゥボア。監督は「ルパン」のジャン=ポール・サロメ。
  • 翻訳者、映画批評

    篠儀直子

    事態がどんどんと混沌としていく序盤と、主人公の自作自演をこちらも疑ってしまいそうになる事件後の悪夢的展開を観ていると、たぶんユペール様が主演しているせいなのだけど、クロード・シャブロルだったらこれをどんなスリラーに仕立てていただろうかとも想像してしまう。それはともかく、ゴリゴリの政治サスペンスとして展開されるかと思いきや、最終的には女性の立場の弱さが印象に残る。「過去に性暴力を受けた、あるいは精神的に不安定である女の弱み」が狙われたという卑劣さ。

  • 編集者/東北芸術工科大学教授

    菅付雅信

    名優イザベル・ユペールが仏原子力企業の労働組合代表を演じる、実話を基にした社会派ドラマ。内部告発者となった彼女が自宅でレイプされるという事件を自作自演と扱われ、圧力に屈することなく無罪を勝ち取るまでの話を描く。原発問題という日本人にとって他人事でない題材を、映画は精緻なリアリズムで描く。ただし事実に寄り過ぎて、映画はあまり起伏ない展開に終始する。ユペールの演技は卓越の極みで、映画祭で本作が上映されれば、間違いなく主演女優賞に推すだろう。

  • 俳優、映画監督、プロデューサー

    杉野希妃

    労働者の雇用を守るため奮闘するバリバリキャリアウーマンのモーリーンが、自身のレイプ事件には戦力を失う姿にリアリティを感じた。この手の社会派となると熱演を期待してしまうが、脱力気味に淡々と演じるイザベル・ユペールが新鮮。裁判官に矛盾を指摘され、反論する気力もなくただ涙を流すしかない彼女の、やり場のない思いがじわじわと伝わってくる。奪われた言葉を最終的に取り戻す復活劇に静かな感動を覚える。派手な盛り上がりはないけれど、地に足がついた良作。

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