隣人X -疑惑の彼女-の映画専門家レビュー一覧
隣人X -疑惑の彼女-
「おもいで写眞」の熊澤尚人監督が、パリュスあや子の第14回小説現代長編新人賞受賞作を映画化したミステリー・ロマンス。日本は惑星難民Xの受け入れを発表。人間の姿に擬態し日常に紛れ込んだXに対する不安が広がる中、記者の笹はX疑惑のある良子に近づく。人との関わりを避けひっそりと生きる良子を「虹の女神 Rainbow Song」で熊澤監督と組んだ上野樹里が、良子に惹かれていく週刊誌記者・笹を「ダイブ!!」で熊澤監督と組んだ林遣都が演じるほか、「ガッデム阿修羅」など台湾で活動する黃姵嘉(ファン・ペイチャ)、「ALIVEHOON アライブフーン」の野村周平らが出演、よそものに対する警戒心や、偏見や恐怖を乗り越え隣りにいる人を大切に思う優しさを描く。
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文筆家
和泉萌香
人間に擬態して暮らしているとの惑星難民X。記者の男を主人公にすえたことにより、謎に包まれたXへの偏見をふくめた大衆の態度よりも、どんなことをしてでも売上とPV数を稼ぎたいマスコミたちのあくどさ、醜悪さが全篇に現れている。ロマンスの始まり、ここぞ、というタイミングで雨が降るのは、人間を超えた何やら別の力が影響を及ぼしているのかと想像を掻き立てたり。だが、主人公の見当はずれの償いの発表に続くその着地点は、ふんわりしすぎているのではないか。
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フランス文学者
谷昌親
惑星難民Xが地球にやってくるというSF的な設定のもと、一種の他者論を展開する興味深い作品だ。ただ、Xのスクープを狙う週刊誌記者の笹が、取材対象の良子に惹かれていく過程でカメラの望遠レンズ越しに良子を見つめるだけに、そこでもっと映画的な表現はできなかったのかと考えたくなる。また、留学生のイレンをめぐる物語も一方で展開するのだが、そもそも移民や難民の問題を扱いたいのであれば、むしろイレンのような外国人の存在をこそ正面から描くべきだったのではないだろうか。
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映画評論家
吉田広明
自分と異なる者を排除しようとする社会を糾弾するという骨格は「正欲」と同じ。無理筋が目立つのもよく似ている。異論の余地なく「ポリティカルにコレクト」な物語だからといって(奇矯な設定でもいいが)丁寧な人物設定と造形、自然で説得力のある心理描写と展開をおざなりにしていいはずがない。それを踏まえた上で真に異なる世界への飛躍をもたらすのが映画というものではないのか。「正欲」ともども、独りよがりの理想論振りかざして現実置き去りではどこかの条例案と変わらない。
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