ラ・メゾン 小説家と娼婦の映画専門家レビュー一覧

ラ・メゾン 小説家と娼婦

身分を隠し2年間、娼婦として活動した作家エマ・ベッケルの自伝小説を映画化。作家としての好奇心と野心から娼婦たちの裏側に惹かれ、ベルリンの高級娼館“ラ・メゾン”に潜入したエマ。危険と隣り合わせの日々は、エマにとって新たな発見に満ち溢れていたが……。出演は「パリのどこかで、あなたと」のアナ・ジラルド、「プロヴァンスの休日」のオーレ・アッティカ、「パラレル・マザーズ」のロッシ・デ・パルマ。監督は「ワンダー・ボーイ」のアニッサ・ボンヌフォン。
  • 翻訳者、映画批評

    篠儀直子

    主人公が最初に勤める娼館が暗く非人間的な空間として描かれるのに対し、「ラ・メゾン」はまるで女たちの楽園のようだ。プロである娼婦たちは自己決定権を持ち、本名も知らぬまま互いに助け合う。けれどもそれは、そこがあくまで虚構を演じる世界であるからだ。なぜ彼女たちがそこへ来たのかわたしたちは知ることがなく、いったん暴力が乱入すれば、楽園の幻想などあっけなく崩壊してしまう。性の非対称性をめぐる古くからの論争は、この挑戦的な作品でもやはり解決されることはない。

  • 編集者/東北芸術工科大学教授

    菅付雅信

    フランスからベルリンに移り住んだ女流小説家がネタ探しとして高級娼館で働いた実話を基にした原作の映画化。極めて魅力的な題材に思えるが、主人公は自分が何を求めているのかはっきりしないため、映画も文芸性とポルノ性の間で揺れ動く。数多くの濡れ場を演じるアナ・ジラルドは惜しげもなくすべてをスクリーンにさらけ出すが、娼婦の同僚からも見透かされるように常に冷静で「我が心ここにあらず」な視点を維持し続ける。半端な客観性が本作をフラットな体験談実写版に留めていることが惜しい。

  • 俳優、映画監督、プロデューサー

    杉野希妃

    内容的にも性描写の多さからしても衝撃作である事は間違いないだろう。難題に挑戦した心意気は称えつつも、エマがなぜ娼婦として2年間も働いたのか、どんな過去がその衝動に導いているのか、空虚さや欲望がどこから来るのか、エマの内部が窺い知れず終始戸惑う。そのほかのキャラクターも上っ面しか描かれないので魅力を感じられない。売春で自分自身を試し、「女性の解放」や「自己受容」を目指すのはあまりにも安易だし時代遅れではないか。複雑な問題を曖昧に誤魔化している。

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