燈火(ネオン)は消えずの映画専門家レビュー一覧

燈火(ネオン)は消えず

2010年以来消えつつある香港のネオンサインをモチーフにし、第96回アカデミー賞国際長編映画賞香港代表作品に選出された人間ドラマ。腕利きのネオンサイン職人だった夫が亡くなり、失意の妻・メイヒョンは夫のやり残した最後の仕事を完成させようと決意する。香港の街に輝くネオンサインは香港の象徴的光景であったものの、2010年の建築法等の改正以来、2020年までに9割ものネオンサインが姿を消したと言われている。短編や脚本を手がけてきたアナスタシア・ツァン監督の初長編作品。「妻の愛、娘の時」のシルヴィア・チャンが妻・メイヒョンを演じ2022年第59回金馬奨最優秀主演女優賞を受賞。ネオンサイン職人だった夫を「スリ」などジョニー・トー監督作品の常連であるサイモン・ヤムが演じる。2022年第35回東京国際映画祭アジアの未来部門上映作品(映画祭題「消えゆく燈火」)。
  • 翻訳者、映画批評

    篠儀直子

    香港を離れようとする娘と、香港にとどまって夫の工房を守ろうとする母。工房もネオンも香港の換喩だ。そして一人ひとりの個人史が、香港の歩みと重ね合わされる。—という図式がいったん見えてしまうと、もうそれ以外の見方ができなくなってしまいそうになるのだが、実は事態は最初に思われたほど単純ではない。各人物が互いに負い目や秘密を抱えていたことが明らかになるにつれ、映画はみるみる血がかよいはじめる。光の映画にふさわしく、丹念に工夫された各場面の光の色が美しい。

  • 編集者/東北芸術工科大学教授

    菅付雅信

    香港のネオン職人の夫を亡くした妻が、彼の弟子と共に夫がやり残した最後のネオンを完成させようとする。香港を象徴するネオンの9割が法改正でなくなった現在の香港にて「古き良き日」を回想し甦らせようという設定は、最近の昭和ブームに沸く日本も近いものがある。かつてのアクションやコメディで一世風靡した香港映画ではなく、落日を慈しむ香港映画。この映画のネオンに託されたものは、現在の香港人にとって、ノスタルジーだけでなく静かな抗議活動であることを感じさせる。

  • 俳優、映画監督、プロデューサー

    杉野希妃

    消えゆくものへの哀悼というありがちなテーマゆえに凡作になりそうなところを、レトロ感と近未来感を併せ持つネオンの異様な輝きが作品に視覚的なオリジナリティを与えている。監督デビュー作とは思えない安定した手堅い演出に驚きつつも、感傷的すぎる箇所にはやや白けてしまった。娘の反抗的な態度や弟子の葛藤の要因が見えづらく、物語をドライブさせるための都合上の設定に思える。それでも香港の現状と重なる物語には心打たれるし、終盤のシルヴィア・チャンの顔に痺れる。

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