関心領域の映画専門家レビュー一覧
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映画監督
清原惟
強制収容所のすぐ隣に住む、ナチスの幹部の家族が主人公。とてもグロテスクな設定だが、知らずに関心を払わないというわけではなく、収容所内で何が起きているか理解していてなお、受け入れている家族の様子がおぞましい。塀の中の世界が映されることが一度もないまま、人々の様子や会話、家の中にいても届く音響によって収容所の異常さを描いている。広角レンズで捉えられた家の中や、唐突なネガのような色調のシーン、黒や赤一色の画面で音だけになるシーンなどの映像表現も面白い。
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編集者、映画批評家
高崎俊夫
アウシュヴィッツに隣接する収容所長ルドルフ・ヘス一家の作庭記のような平穏な日常。妻は“アウシュヴィッツの女王”とうそぶく一方、夫は“荷”と称してユダヤ人が灰と化する総量の胸算用をする。すべてのショットは塀の背後に拡がるおぞましき世界とこちら側の牧歌的な光景を非対称的に際立たせるために機能している。その冷徹な定点観測の手法に瞳が慣れ親しんだ頃合いに突如“現在”が介入してくる衝撃はいかばかりか。ナボコフに心酔したポストモダン作家M・エイミスの原作も読んでみたい。
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映画批評・編集
渡部幻
焼却炉の煙、地鳴り、銃声や叫び声の傍らで完璧な生活を築くルドルフ・へスと妻ヘートヴィヒ(比類なきザンドラ・ヒュラー)の無関心と無感覚。アシュケナジム系ユダヤ人の子孫たるグレイザーは迫害と虐殺の歴史を意識しながら、芸術家として憎むべき相手を“人間”として認める作業から始める。非日常と隣接する日常風景の異常を細密に観察し、私たちに彼らとの共通性を気付かせる。壁一枚の隔たりは距離感の問題なのであって、国境や海にも例えられる。誰かの楽園は誰かの地獄の上に築かれるのだ。
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