碁盤斬りの映画専門家レビュー一覧
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文筆家
和泉萌香
確かな四季のうつろいを感じさせるライティングに夜の雨の描写に音楽、もちろん、終盤に向けて(前号でのインタビューの言葉を借りるならば)「汚く」なっていく草なぎ剛はじめ役者陣の演技の、スタイリッシュに映画を支える見事なアンサンブル。終始健気な娘に用意される最終的な場所といい、やや美しくまとまりすぎているような印象の中、クライマックスのアクションシーンからの血飛沫は鮮烈。<正しいこと>の曖昧さに揺れる主人公同様、悪役の複雑な表情ももう少し見たかった。
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フランス文学者
谷昌親
落語『柳田格之進』を基にして、格之進が浪々の身となった背景に武士同士の確執を盛り込み、時代劇らしい展開をうまく作り出している。全体に、初の時代劇に挑んだ白石和彌監督の意気込みが伝わってくるのだが、ダッチアングルや移動撮影を多用せず、もう少し腰を据えて取り組んでもよかったのではないか。さらに、草なぎ剛が演じる格之進は、囲碁の打ち方にもその実直な人柄をにじませてみごとであるものの、実直さゆえの悲劇を感じさせる人物造形にまで至っていないのがやや残念だ。
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映画評論家
吉田広明
古典落語の題目だけあって、話は磨き込まれて堅牢、美術もしっかりした作りで、場面が変わるごとに感心させられる。俳優たちも素晴らしい。ただ、例えば居酒屋の場面で、会話している主人公たちからカメラが後退し、手前の卓の二人を舐めながら回り込んで再び主人公たちに回帰する意味のない長回し、清原が吉原の大門をくぐる場面での妙な画面効果など、小細工が目について五月蠅い。主人公をストイックに作り過ぎていささか堅苦しく、人間としての幅、魅力が感じられないのも難。
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