かくしごとの映画専門家レビュー一覧

かくしごと

ミステリー作家・北國浩二の小説『嘘』を映画化。認知症の父を介護するため、田舎に戻った絵本作家の千紗子は、事故で記憶を失った少年を助ける。その身体に虐待の痕を発見した千紗子は、少年を守るため、自分を母親と偽り、少年と3人で暮らし始めるが……。出演は「キングダム 運命の炎」の杏、「さかなのこ」の中須翔真、「花腐し」の奥田瑛二。「生きてるだけで、愛。」の関根光才の長編第2作。
  • 文筆家

    和泉萌香

    「母性観」をめぐっては女性同士も異なるさまざまな意見があるし、個人的にも母性なるものには懐疑的。「母親でありたい」という願いも、大人のある種のエゴには違いない。本作は嘘を重ねてしまった「母親」に同情するでも突き放すでもなく、キャメラは出来事を静かに追い続けるが、「虐待被害者の児童を安全な場所で護りたい」という(社会で広く共有されるべき)彼女の揺るがない心を、なかば強引だが感動的なかたちで尊び通すのには、涙が出る。杏の素晴らしさはここで書き尽くせない。

  • フランス文学者

    谷昌親

    認知症の父親、虐待を受け、記憶をなくした少年、この2人が主人公の千紗子を軸にして絡み合い、さらには、山里の風景や古い日本家屋での生活、造形作品の制作といったエピソードが散りばめられた映画は、すべてが丁寧に準備され、撮影され、編集されたという印象をあたえる。だが、その丁寧さがそれぞれの要素をかえって引き離してしまった。しかも、最後に少年が重大な発言をした瞬間、物語のすべてがその言葉に収斂していき、作品にむしろ亀裂が入ってしまったように感じられる。

  • 映画評論家

    吉田広明

    道端で拾った虐待を疑われる少年が記憶喪失という設定、また性格が妙に素直なのも胡散臭いと思っていると案の定。また奥田が彼に渡すナイフも唐突で、何か伏線なのだろうと思うと案の定。ミステリと謳うならばこれら伏線の分かりやすさは難点だろう。また最大の難は、奥田に対する杏の態度の変化が、認知症がどういう病なのかの医者による説明を聞いて起こったり、また少年が自身の口で真相を語るために、さほど必要と思えない裁判劇が最後に設定されたり、総じて言葉に依存している点だ。

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