箱男の映画専門家レビュー一覧

箱男

ダンボールを頭から被り、一方的に世界を覗き見る“箱男”になろうとする男を描いた安部公房の同名小説を「almost people」の石井岳龍監督が映画化。1997年に製作が決定するもクランク・イン前日に撮影が頓挫していたが、27年越しに実現した。出演は、「GOLDFISH」の永瀬正敏、「モータルコンバット」の浅野忠信、「ひとつの空」の白本彩奈、「せかいのおきく」の佐藤浩市。第74回ベルリン国際映画祭ベルリナーレ・スペシャル部門正式出品作品。
  • ライター、編集

    岡本敦史

    石井岳龍監督の「映画表現と文学表現を横断する」一連の試みの集大成とも言うべき力作。前衛的文芸作でありながら「ELECTRIC DRAGON 80000V」顔負けのアクション娯楽作にもなっていて、確かにこれは石井監督にしか作れない。長年にわたり紆余曲折を繰り返した執念の企画だが、出来上がってみれば「ほら、だから面白い映画になるって言ったじゃないか!」という監督の声が聞こえるような、清々しい快作となった。箱をまとった永瀬正敏の所作の美しさ、キレのある動きにも惚れ惚れ。

  • 映画評論家

    北川れい子

    安部公房の原作は遙か昔、背伸びをして読み、リアルな観念小説という記憶以外、ほとんど忘れていたのだが、石井監督がその観念を人物たちの言動と挑発的な映像で具象化しようとしていることに敬服する。戦後の昭和。箱の中から外の世界を覗き見る正体不明の箱男。そんな箱男に惹かれる訳ありの男たち。ただ原作が書かれた当時はともかく、ダンボール生活というと、どうしてもホームレスを連想してしまい、それが観ていて落ち着かない。“箱男を意識するものは箱男になる”という言葉も皮肉に聞こえて。

  • 映画評論家

    吉田伊知郎

    90年代日本映画にどっぷり浸かった身としては「暴走機関車」「連合赤軍」より実現を夢見た幻の企画だけに感無量。意外や緻密に原作を解体再構築しており、箱男たちが全力疾走し、過剰なまでのアクションを見せる野放図な石井の世界と接合させる荒業が成立してしまう。永瀬、佐藤、浅野に囲まれ、伝説とは無縁に堂々たる存在感を見せる白本彩奈も出色。ただ、ヒッチコックの「裏窓」が観客を一体化させてスクリーンが覗き窓と化したことを思えば、本作の終盤は説明過多にも思える。

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