風の奏の君への映画専門家レビュー一覧

風の奏の君へ

岡山県美作地域を舞台にしたあさのあつこの小説『透き通った風が吹いて』を原案に、「4月の君、スピカ。」の大谷健太郎が監督した人間ドラマ。美作に来たピアニストの里香に対し元恋人・淳也は冷たい態度を取る一方、淳也の弟・渓哉は彼女に恋心を募らせる。岡山県美作市で育った大谷監督の美作の小説と映画を全国に、との構想から製作に至った。ヒロインの青江里香を実際にピアニストとしても活動する松下奈緒が吹き替えなしで演じ、里香と運命的な出逢いを果たす真中渓哉を実写「東京リベンジャーズ」の杉野遥亮が、その兄で家業の茶葉屋を営む・真中淳也をロックバンドflumpoolのボーカルを務める山村隆太が演じる。
  • 文筆家

    和泉萌香

    異性の浴場に向かって声かけし騒ぐノリなど、高校生にも失礼では? 100歩ゆずって男同士「素直になれよ」系の大喧嘩も、「お姉さんがいうこと聞いてあげる」的台詞も、コミカルな学園ものなら微笑ましいが、こちらは“余命もの”だし、大の大人たちばかりでくすぐったいどころではない。原作は部活を引退したばかりの「空っぽ」な受験生が主人公とのことで、年上の女性への憧ればかりでなく、その喪失感や焦燥にもう少し重点を傾ければ、青春映画の味わいがあったかもしれないが……。

  • フランス文学者

    谷昌親

    冒頭の橋の上の出会いとそこで吹く風が魅力的に感じられないのがまずは致命的だが、その後の展開においても画面には力が感じられず、物語も陳腐なエピソードの羅列にとどまっている。主人公と高校時代の友人たちとの関係をもっと描けば、少しは違ったかもしれないが、それ以前にキャスティングに違和感があり、演出にも冴えがない。同じように女性ピアニストが主人公だった昨年のテレビドラマは、大谷監督らしいセンスを感じさせる出来になっていただけに、残念としか言いようがない。

  • 映画評論家

    吉田広明

    地元を振興したいという善意があればどんな映画であっても良いわけではなかろう。映画としてユルユルであれば、むしろその善意は見る者の反感さえ招く。地場産業に関わる兄弟、元カレであるその兄の方を訪ねて訪れたピアニストが死病を得ていたというメロドラマ。物語の通俗性は措き、その通俗性をただの一瞬すらも超え出ることのない演技、ピアニストが書く楽譜に一枚一枚彼女の「想い」が記される説明臭さ、彼女の演奏にフラッシュバックされる過去演出の凡庸にほとほと閉口する。

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