メイ・ディセンバー ゆれる真実の映画専門家レビュー一覧
メイ・ディセンバー ゆれる真実
ナタリー・ポートマン&ジュリアン・ムーア共演による「キャロル」のトッド・ヘインズ監督作。90年代に実際に起きた13歳の少年と36歳の女性のスキャンダル“メイ・ディセンバー事件”の真相を多角的に見つめた、過去と現在、真実と憶測が混ざり合う心理ドラマ。第58回全米批評家協会賞、第89回NY批評家協会賞で助演男優賞(チャールズ・メルトン)、脚本賞(サミー・バーチ)を受賞。第96回アカデミー賞 脚本賞ノミネート。
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映画監督
清原惟 |メイ・ディセンバー ゆれる真実
子どもと大人の恋愛が客観的には犯罪と位置付けられたとしても、本人たちにとっては真実の愛として存在できるのか。そのようなテーマを内包する本作は、今の時代にかなりアクチュアルな内容。当時少年だった彼の眼差しは不安げで見ていて苦しくなるが、それでも簡単に被害者とは割り切れないように描かれていることの奥行きもある。知らず知らずのうちに近づいてくる暴力について考えさせられた。ナタリー・ポートマン、ジュリアン・ムーアをはじめとする俳優たちの演技がすごい。
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編集者、映画批評家
高崎俊夫 |メイ・ディセンバー ゆれる真実
ミシェル・ルグランの傑作「恋」のスコアが耳にこびりつく。トッド・ヘインズは「あるスキャンダルの覚え書き」と同工のテーマを全く異なるアプローチで自家薬籠中のものとする。事件の当事者に取材する女優がいつしか対象と同一化し、危うい共犯関係へと踏み入ってゆくのだ。「仮面/ペルソナ」「三人の女」といった人格交換劇の記憶を喚起させながらも、ヒロインの無意識の悪意が感染症のごとく他者に浸透してゆく恐怖をこれほど澄明なトーンで描ききった映画は稀ではないだろうか。
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映画批評・編集
渡部幻 |メイ・ディセンバー ゆれる真実
36歳の女性が13歳の少年と不倫し、逮捕されたのちに刑務所で出産。23年後、彼らの人生を映画化すべく主演女優が取材に来て……。異才トッド・ヘインズの腕が冴え渡る“解釈の迷宮”である。分裂し多層化したアイデンティティの混乱に、“演じること”と“同化”の問題が絡んでくる。ピンターとロージーの「恋」のテーマ曲(ルグラン)を編曲した音楽が強力で、精妙な細部を敷き詰めた一流の映画と同様、二度見るとさらに興趣を増す。蜘蛛の巣に捕らわれた元少年(チャールズ・メルトン)の哀れが胸に残る。
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