十一人の賊軍の映画専門家レビュー一覧
十一人の賊軍
「日本侠客伝」や「仁義なき戦い」シリーズなどを手掛け、東映黄金期の礎を築いた脚本家・笠原和夫による幻のプロットを60年の時を経て映画化。1868年の幕末を舞台に憎き藩のために「決死隊」として砦を守る任についた罪人たちの死闘と葛藤を描く。かつて笠原和夫は「勝てば官軍、負ければ賊軍」の言葉どおり、勝敗によって善悪が決まるのが当たり前の時代に“果たして勝つことだけが正義なのか?”と一石を投じるべく物語を構想した。だが、当時の東映京都撮影所所長・岡田茂は結末が気に入らずボツとし、怒り狂った笠原は350 枚ものシナリオを破り捨ててしまった。その巨匠が手掛けたプロットを企画・プロデュースの紀伊宗之と監督・白石和彌、脚本・池上純哉たち「孤狼の血」チームが受け継ぎ、令和に新たな集団抗争劇を誕生させた。主演は「凶悪」や『全裸監督』の山田孝之と、「熱のあとに」や『新宿野戦病院』の仲野太賀。
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ライター、編集
岡本敦史
監督の基本的に生真面目で大仰な作風が、大仕掛けのアクション時代劇に驚くほど合致していた。しかも「権力の腐敗、機能しない秩序」「そのなかで生きのびようともがく人々」という過去作に通じるテーマでもあるので、嘘がない。仲野太賀の圧倒的な素晴らしさに負うところも大きい。本誌読者に観てほしいかどうかという基準で考えると、星を減らす理由が見当たらなかった。マイベスト岡本喜八作品「斬る」にも少し似ているところ、去年たまたま新発田城を見物した記憶も味方した。
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映画評論家
北川れい子
賊軍として捨て駒にされた十一人にとって戦う理由はただ死なないため。官軍から砦を守るという使命よりも、血まみれ、泥まみれで生き残るための死闘を繰り返す。そんな彼らそれぞれに壮絶な見せ場を用意する脚本と演出が痛快で、155分の3割近くを占める戦闘場面も多種多様。けれども最も口中が苦くなったのは、新発田藩の家老による官軍向けの斬首パフォーマンス! 北野武監督「首」が冗談に思える蛮行で、がこれが結果として。嘘も方便ならぬ,蛮行も政治的方便とは、現実にもあるある。
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映画評論家
吉田伊知郎
笠原和夫の原案プロットをほぼ生かして脚色しており、よくぞ作り上げたと感嘆。ただし、追加された阿部サダヲのパートが尺を取りすぎ、155分は長い。白石作品ではおなじみの、演出に介入する美術監督・今村力の不在が惜しまれるが、砦に吊り橋と空間のお膳立ては申し分なし。だが、戦いの場面は夜・煙・雨と視界不良が続き、戦場の空間の広がりが見られず。各キャラの描き分けも俳優の資質に負う部分が大きく、埋没する者も。贅沢を言えば、往年の時代劇スターが重しに欲しかった。
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