映画専門家レビュー一覧

  • 神様メール

    • 脚本家

      北里宇一郎

      この世を支配する神が酔いどれ親父で、パソコンで人間の運命を気まぐれに左右している――なんていう設定からして奇想天外。で、父親に反抗した娘がパソコンを勝手に操作し、人間に寿命を伝えたから、地上の者どもはてんやわんやの大騒動。と次から次へとエスカレートしていく展開は、あれよあれよの面白さ。けど、ちとあわただしく、観ていて頭の整理がつかない。監督はその大混乱をネラッたのだろうが、どうも才気に溺れすぎの感も。おもちゃを散らかしっぱなしの子ども部屋みたい。

    • 映画ライター

      中西愛子

      パソコンで世界を支配する神様。父の傲慢に腹を立てた娘エア(キリストの妹でもある)は、人々に余命を知らせるメールを送り、世界の法則を変えるべく家を飛び出す。宗教チックな題材ながら、ユーモラスで楽しめる。ただし、エアの出会う人間たちはいずれも孤独をこじらせた曲者いやいや変人で、カラフルな映像世界の中、業の深い物語が展開されている。だけど皆して恋愛史上主義なのはどうしたことか? とやや後ずさりしつつ、最後に畳みかけるファンタジーの極め方にシビレた。

  • スノーホワイト 氷の王国

    • 批評家。音楽レーベルHEADZ主宰

      佐々木敦

      前作は観ていない。しかし全く無問題。きっちり楽しませて貰いました。愛は信じるに値するか、この永遠に回帰する問いを、限りなくわかりやすい単純な寓話として中心に据え、あとはとにかく映像の力だけで押しまくる、つまりは最高ランクの大作ハリウッド映画。この手の冒険活劇ファンタジーが大の苦手な私でさえ飽きさせなかった。スノーホワイトが全く出てこないのはもちろんワケありなのだろうけど、うまく逆手に取っている。氷の女王を演じるエミリー・ブラントの「顔」が良い。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      アナ雪を彷彿とさせる姉妹ものと思いきや、チャステインとヘムズワースのラブストーリーがストーリーのメインでもあり、続篇という立ち位置でありながらタイトルロールの白雪姫が一切登場しない露骨な不自然さは前作の監督と主演女優のゴシップが本篇以上に豊富に物語る。新監督はファンタジー映画としてのポイントは最低限おさえたと思うが、制作事情による物語のつぎはぎ感は否めない。小人の女性コンビを含めて女性キャラが強く、女性映画としての側面は楽しめた。

    • TVプロデューサー

      山口剛

      グリム童話の『白雪姫』を原案とした前作では、可憐なヒロインだったスノーホワイトが今回は支配力に取憑かれた氷の女王となり、悪の化身の姉を相手に壮絶な死闘を演じる。童話は本来残酷なものだが、あの原作からここまで壮大なピカレスク劇を創り出した製作者たちの想像力には舌を巻く。シャーリーズ・セロンの使い方が巧い。この姉妹の奇々怪々な恐ろしさはアルドリッチの「何がジェーンに起ったか」に近い。特撮もいいし、フリークス風の七人の小人たちも面白い。

  • マイケル・ムーアの世界侵略のススメ

    • 批評家。音楽レーベルHEADZ主宰

      佐々木敦

      M・ムーアのこれまでの作品同様、一本の映画として評価せよと言われたら限りなく否定的にならざるを得ないが、突撃世直しセルフ・ドキュメンタリーとしては、気持ちはよくわかるし健闘していると思う。各国のエピソードはいずれも興味深いが、中でもチュニジアの女性ジャーナリストが「アメリカ人」に向けたメッセージは感動的。しかし観てて次第に気が滅入ってきた。率直に言ってニッポンはムーアが繰り返し嘆いてみせるアメリカの現状より酷く、更に酷くなっていく可能性が大だから。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      登場する各国の企業は誰もが知る一流どころばかり。業績もネームバリューもあるそれらは対内的にも対外的にも社員制度や福利厚生を充実させる必要とメリットがあり、本作への出演だって恰好のアピールになる。だがそれを国の実態と結びつけるのは危険すぎる。アメリカだってピクサー社の施設は素晴らしいし、日本も有名企業の正社員の待遇はいいが、表に出てこないブラック企業のほうがずっと多い。というところまで考えるきっかけとしては十分に機能している。

    • TVプロデューサー

      山口剛

      年間8週の有給、昼休みが2時間のイタリア、フルコースの給食が出るフランス、大学授業料無料のスロベニアなどなど、各国のすぐれた政策を略奪して母国に持ち帰ろうというマイケル・ムーアの企画。いつもながら彼のキャラクター、話術と相まってワンマンショーの面白さだ。彼の意見は一見、過激で極論に聞こえるが、極めて正論。彼が自虐的に比較してみせるアメリカに無批判に追随している我が国が情けない。知性のある人間が国の方向を決定している国々を羨ましく思う。

  • スティーヴ・マックィーン その男とル・マン

      • 批評家。音楽レーベルHEADZ主宰

        佐々木敦

        マックィーンは今では、なかば忘れられたスターの一人と言っていいだろう。日本のファンには馴染み深い「栄光のル・マン」の製作秘話を中心に、多数の関係者の証言とファウンド・フッテージを駆使して、その人となりを描き出すドキュメンタリー。マックィーンという人間が、彼が好んで演じた役柄とそっくりの性格だったということがよくわかる。一本気で、豪放で、かつナイーヴ。しかし一本の映画をめぐるトラブルが、これほどまでにかかわった人たちの運命を変えてしまったとは!

      • 映画系文筆業

        奈々村久生

        強すぎる愛情は時に破滅を招く。マックィーンがドキュメンタリー的な撮り方にこだわった「栄光のル・マン」だが、それにまつわる彼自身のエピソードこそが、最高にドラマティックで泣ける映画的要素であった。カーレースに対するマックィーン個人の熱狂的な思い入れは、俳優という枠を超えて映画に関わることで、本人の思惑に反して映画そのものを窮地に追いやる。俳優とスターの違いを語る証言は言い得て妙だ。レーシングカーが走り抜ける排気音の通過が何よりの劇版となっている。

      • TVプロデューサー

        山口剛

        監督脚本不在のまま迷走を続ける「栄光のル・マン」の制作裏話はスター映画の裏面を見せて面白い。ジョン・スタージェスはG・ラヴェルの評伝によれば「大脱走」でマックィーンともめた際、「ジェイムス・ガーナー主演で撮り直す、ギャラは払うから降りてくれ」とハッタリをかませ完成させたが、再び対立した今回、金はあるし歳もとったといち早く自ら降板したという。宿敵ガーナー主演のフランケンハイマー「グランプリ」がいち早く先行公開されたのが何とも皮肉だ。

    • シマウマ

      • 評論家

        上野昻志

        人を痛めつける場面は、見るからに痛そうだから、相当に工夫しているといえよう。だが、それが、主人公を含め、何に由来するか、また、何処に向かうのか、不明のままだ。暴力は、当面の相手あるいは、名指された誰かに振るわれるだけで、それが何に動かされ、何を動かすのか見えてこない。だから、見ているうちに視野狭窄に近い感覚になる。つまり、世界がないのだ。原作のマンガにはあるのかもしれないが、暴力表現のリアルさに拘るあまり世界を見失ったのではないか?

      • 映画評論家

        上島春彦

        因縁の源がいじめられっ子といじめっ子の確執である以上、クライマックスは現在の両者の対決でなければいけないはずだが、本篇はそのはるか手前に留まっており評価のしようがない。続篇やるなら是非その線でお願いしたい。一敗地に塗れた福士の復讐戦も当然あるべきだし、須賀がどうやって「壊れた」のかも全く描かれないし、クローン風の美女の正体も不明、即ち続篇への課題しかない映画であった。ただしその元いじめられっ子、須賀ちゃんの凶悪ピエロっぷりは断然見応えあり。

      • 映画評論家

        モルモット吉田

        三池崇史がエラくなってしまったので橋本一の一人プログラム・ピクチャー監督ぶりに毎回、一喜一憂しながら付き合っている。大作より今回のような低予算映画の方がツボを心得た演出を味わえ、若手俳優が生き生きしている。竜星の邪悪な面構え、ジョーカーまんまだが須賀の化けっぷり、福士、日南、高橋ら若手俳優陣の層の厚さを堪能。ただし韓国映画を意識した残虐描写が徹底できないなら、最初から見せずに想像させるべき。それができる技術を持つ監督・スタッフ・撮影所だけに。

    • ディストラクション・ベイビーズ

      • 映画評論家

        北川れい子

        ヤクザたちに血まみれで路上にころがされても、薄く笑ってフラフラと立ち上がる柳楽優弥。誰かを殴りたい欲望と誰かに殴られたい欲望が背中合わせになっていて、そこには衝動以外の理由はない。この虚無や自己破壊とも異なる無機質なキャラクターが斬新で、かなり危険な作品だが、拒否できない魅力がある。それだけに菅田将暉と小松菜奈が加わってアソビ感覚の暴力に移行すると、よくある若者の暴走劇となり、それが残念。地方の路地裏や港町の光景がどこかよそよそしいのも印象的。

      • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

        千浦僚

        素晴らしい。観終えた後、観る前とは世の中が少し違って見えた。固有の価値観を示せることが映画の価値だろう。喧嘩なんてほとんどしたことないし、稀にしてもボコられて虫のように丸まるばかりだったが、あれには何かが、痛みとか怯えとか怒りとかと絡みあう、真実の何かがある。それを思い出した。「ファイト・クラブ」のタイラー・ダーデンや本作の柳楽優弥のように血みどろでもヘラヘラして、負けを認めない=負けない、が出来たならさらにもっと違う景色が見えたかも、とも。

      • 映画評論家

        松崎健夫

        昨今の世相に渦巻く、行き場のない憤怒。それはマグマの如き熱を帯びながら堆積し、突如として世に噴出された末、理由なき暴力と化す。柳楽優弥は、擬人化された“憤怒の塊”のように見える。それは、現実社会で突然起こる不条理な暴力、或いは、世界を震撼させるテロを暗喩させているようでもある。“リアルに見える”演出に長けた真利子哲也監督は、暴力描写に賛否が起こることなど承知の上。観客は痛みを感じるたび「過酷な現実から目を逸らすな!」と叱咤されているのである。

    • 海よりもまだ深く

      • 映像演出、映画評論

        荻野洋一

        事件を起こしたカルト教団の跡地巡りや、感情を持ったダッチワイフ、取り替え子の再交換といった意表をつく設定を仮構し、そこから赤裸々なリアリズムを抽出するというのが、これまでの是枝監督のやり方だった。しかし「海街diary」と並行して撮影された本作では、崩壊家庭が過ごす台風一夜という、平々凡々たる物語を選んだことで、是枝演出がよりくっきりと現れた佳篇に仕上がった。身につまされる脚本と演者の好演が光るが、阿部寛と元妻の彼氏(小澤征悦)の対比が類型に留まる。

      • 脚本家

        北里宇一郎

        家族の再生を夢見る男。そうはいかぬと諭し、拒む女たち。だけど、家族はばらばらでも有りじゃんの結末が沁みる。樹木希林と阿部寛のやりとりが絶妙。ただ全体、ちと主人公を甘やかしの感もあって。興信所の後輩の池松壮亮が阿部に優しいのはなぜ? 「あなたに救われた」という台詞はあっても、その内実は不明。この池松に、息子の未来の姿を暗示させたのか。といった齟齬はあるが、是枝作品の中では一番納得のいく出来で、これまで彼が描いてきたものが、ここで結実したような印象が。

      • 映画ライター

        中西愛子

        是枝裕和作品で、樹木希林と阿部寛の親子共演といえば、「歩いても歩いても」を思い出すが、本作はその変奏曲のようでいて、そこからさらに視点を広げ、家族と人生というテーマを掘り下げている。監督自身が19年間住んでいた団地がメインの舞台ゆえか、作品のタッチは力みなく軽やか。そんな清涼感の中に、登場人物たちの俗や欲や夢が浮かび不穏さもたなびく。人が心の水面下に抱える底なしの深さをふいに感じさせる演出も絶品。息子として父として夫としての監督の観察眼が光る。

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