しから始まるものでの検索結果

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  • 1974年12月1日「映画の日」に制定され、第48回目を迎えた優れた映画脚本を表彰する城戸(きど)賞。本年度は、対象359作品から準入賞に「ひび」と「ぼくたちの青空」の2作品が選ばれました。 今、全世界的にもその存在が取り沙汰されるようになっているヤングケアラーに、瑞々しい感性で触れた「ぼくたちの青空」。そのシナリオ全文を掲載いたします。 タイトル「ぼくたちの青空」福田果歩 あらすじ 小学三年生の凪と、高校三年生の風太は、8年前の交通事故で父を亡くし、その事故の後遺症で、身体麻痺と言語障害が残る母・美歩の世話や家事を行うヤングケアラー。 凪は友達と遊ぶ時間を、風太は水泳部の活動を犠牲にしなければならなかったが、三人で過ごす日々を楽しく、大切に過ごしていた。 そんな中、凪の小学校でヤングケアラーに関するアンケートが実施されたことをきっかけに、凪の担任の鳴海が凪のことを気にかけるようになる。一方風太は、同じクラスで不登校の澪が、精神疾患を患う父の介護をしていることを偶然知り、心を通わせるように。 母の世話と介護に忙殺され、自身の進路について考える余裕がない風太。変わらず三人で暮らしたいと願いながらも、凪に同じ思いはさせたくないと、悩んでいた。 ある日、凪が家に帰ると、台所に美歩が倒れている。誕生日である風太のために唐揚げを作ろうとしたものの、上手く身体を動かせず、転倒してしまったのだ。美歩を助けようとして、腕に火傷を負ってしまう凪。偶然居合わせた鳴海が救急車を呼ぶが、美歩はパニックを起こし、入院することに。 その夜、風太は澪と夜の高校に忍び込み、プールで泳ぐ。束の間、何もかもから解放された自由を味わう風太と澪。しかし、近隣住民の通報によって、二人は補導されてしまう。 風太は水泳部を退部し、停学処分に。そこで風太は、澪が前日に高校を辞めていたことを知る。風太も家族のために高校を辞める道を選ぼうとするが、それを知った美歩は、スーパーで自ら転倒。周囲に助けを求めることで、風太と凪を自分から解放する道を選んだ。 その後。一緒にいることを望んだ三人は、様々な支援を受けることで、共に生活をしながら、それぞれの時間を過ごせるようになった。しかしそれは、三人だけの世界の終焉だった。新たな世界へと産み落とされた風太と凪は、プールから顔をあげると、生まれたての赤ん坊のように、大声をあげて泣いた。                ◆登場人物 月島 凪   (10) 小学四年生 月島 風太  (17) 高校三年生 月島 美歩  (44) 凪と風太の母 真澄 暖   (17) 風太の同級生 佐久間 澪  (17) 風太の同級生 月本 亮介  (38) 風太の担任 神保 つむぎ (9) 凪の同級生 鳴海 璃子  (28) 凪の担任 重岡 奏人  (31) 鳴海の先輩教師 五十畑 麻里 (48) スクールソーシャルワーカー 月島 真守  (故・38) 凪と風太の父 佐久間 徹  (52) 澪の父 佐久間 希和 (45) 澪の母 〇温水プール・水中    プールの中、膝を抱えて、じっと水の中を見つめる月島凪(10)。    青く透き通った水の中は、しんと静か。    無音の水中で、そっと目を閉じる凪。    遠くから、音楽が流れてくる。    榎本健一の『私の青空』。 〇走っている車・中(8年前) T「8年前」    榎本健一の『私の青空』が流れている。    運転席で口ずさむ月島真守(38)。 真守『夕暮れに 仰ぎみる 輝く青空』    助手席の月島美歩(36)、後部座席の月島風太(10)も歌っている。 美歩・風太『日が暮れて たどるは 我が家の細道』 真守・美歩・風太『狭いながらも 楽しい我が家 愛の火影のさすところ』    風太の隣でベビーシートの凪(2)、歌に合わせてご機嫌に声をあげる。    真守と美歩、笑顔で後ろを振り返る。    次の瞬間、激しい衝突音。    暗転。    途切れ途切れに流れ続ける音楽。    ゆっくり目を開ける風太。    前の座席は瓦礫で埋まっている。    ベビーシートで泣き叫ぶ凪を見つける。 風太「……凪」    手を伸ばし、凪を抱き上げる風太。 音楽『恋しい家こそ 私の青空』 タイトル「ぼくたちの青空」 〇月島家・凪の部屋    目覚まし時計の音で、目を覚ます凪(10)。    眠そうに何度か寝返りを打ったあと、ベッドから起き上がり、部屋を出る。 〇同・洗面所    歯を磨く凪の横、洗濯機が回っている。    洗濯機の終了ブザーが鳴ると、歯ブラシをくわえたまま、洗濯カゴに洗濯物を取り出していく凪。 〇同・庭    慣れない手つきで、物干し竿に洗濯物を干していく凪。    洗濯カゴからブラジャーが出てくると、恥ずかしそうに指でつまみ、洗濯バサミに留める。 〇同・居間    凪がドアを開けると、台所で風太(17)が朝食を作っている。 凪「兄ちゃん、おはよー」 風太「おはよ。凪、そこの皿取って」    食卓の皿を持って行く凪。    まな板の上のミニトマトをつまみ食いし、棚の上に飾られている、真守と祖母の遺影の前にもミニトマトを並べる。 風太「(笑って)虫じゃないんだから」    食卓に三人分の朝食を並べる風太。 風太「凪、お母さん起こしてきて」 凪「はあい!」    凪、走って居間を出て行く。 〇同・美歩の部屋    ベッドに寝ている美歩(44)。    凪、窓のカーテンを開ける。 凪「お母さん、朝だよー」    美歩、唸って眩しそうに顔を背ける。    凪、閉じている美歩の瞼を指でこじ開け、目が合うと楽しそうに笑う。 美歩「お、はよう、な、ぎ」 凪「おはよう!」    美歩のベッドに乗り、ぎゅっと美歩を抱きしめる凪。 〇同・居間    凪に支えられて歩いて来る美歩、椅子に座ると、風太は美歩の前にストローをさしたコップを置く。 凪「いただきまーす」    朝食を食べる三人。    たどたどしい手つきで食べる美歩、フォークを落とし、凪が拾ってやる。 風太「今日ヘルパーの人、来るのちょっと遅れるって。俺、それまでいようか?」 凪「ぼくも!」 風太「凪はダメ。遅刻多いって連絡帳に書かれたばっかりだろ」 凪「えー。兄ちゃんもじゃん。ずるい」 美歩「だい、じょうぶ。学校、行きなさい」    凪、人参を避けて食べている。 風太「凪、好き嫌いするな」 凪「だってマズイんだもん」 風太「人参食べないと大きくなれないぞ」    美歩、凪が避けた人参を指でつまみ、凪の口元に持ってくる。    しぶしぶ口を開けて人参を食べる凪、オエッという顔をして、すぐに牛乳で流し込む。    それを見て笑う美歩と風太。 〇同    洗い物をしている凪。    風太、美歩の着替えを手伝っている。 〇同・玄関    ランドセルを背負って出てくる凪。 凪「行ってきます!」    凪、元気よく走っていく。    その後ろを、自転車に乗った風太が追いかけてくる。 風太「凪、忘れ物! 今日体育だろ」    振り返る凪に、体操着を渡す風太。 凪「あ、忘れてた。ありがとう兄ちゃん!」    再び走り出す凪。 風太「車に気を付けろよー」    手を振る凪を見送り、自転車に乗って走り出す風太。 〇梅ヶ丘小学校・三年一組教室(HR)    騒がしい教室内。    凪、隣の席の男子とふざけ合っている。    鳴海璃子(28)、声を張り上げて 鳴海「はーい、静かに! お知らせした通り、今日から体育は水泳です。みんな、水着持ってきたかなー? 忘れた人いるー?」 凪「あ!」    クラスメイトが一斉に凪を見る。    恥ずかしそうに手を挙げる凪に、みんながクスクス笑う。 鳴海「……月島くん。忘れ物多いぞ~」    凪の隣の席の男子、「忘れ物多いぞ~」とからかってくる。 鳴海「他にはいないかな? じゃあ、月島くんは今日は見学! 次は忘れないようにね」 凪「はーい」 鳴海「はい、じゃあ女子は廊下に出てー。男子から着替えてくださーい」    「俺、もう履いてきた!」という男子や、女子に「覗くなよ」と言って「バッカじゃないの」と頭を叩かれる男子など、再び騒がしくなる教室内。    凪の前の席に座る神保つむぎ(9)、振り返って つむぎ「わたしも凪くんと一緒に見学しようかな」 凪「え? なんで? 神保も水着忘れたの?」 つむぎ「……そうじゃなくて。一人で見学、寂しいかなあと思って」 凪「へ? 全然、寂しくないよ?」 つむぎ「(ため息を吐いて)あっそ」    教室を出て行くつむぎ。    不思議そうに見送る凪。 〇同・屋外プール    楽しそうに泳いでいる生徒たち。    一人体操着で見学の凪、プールサイドに腰掛け、プールに足を入れてバタ足をしたり、生徒たちから水をかけられたり、楽しそうに笑っている。 男子A「凪も入っちゃえよー」 女子A「そうだよ、気持ちいいよー」    つむぎ、凪のそばまで泳いできて つむぎ「凪くん、おいでよ」    凪の手を引っ張るつむぎ。    それを見た鳴海、笛を鳴らして 鳴海「こら、何してるの!」    慌てて向かってくる鳴海。    凪、立ち上がって、思い切りプールに飛び込む。    大きく水しぶきがあがり、大歓声をあげる生徒たち。    水から顔をあげ、笑顔で泳ぎ始める凪。 鳴海「月島くん! あがりなさい!」    凪を捕まえようとプールに入る鳴海から、泳いで逃げる凪。    凪を応援する、つむぎや生徒たち。 〇同・職員室    私服に着替えた凪、足元をもじもじさせながら鳴海の前に立っている。    鳴海、ため息を吐いて 鳴海「プールに入りたかったら、ちゃんと水着を持ってくること! プールには体操着で入っちゃいけないの。分かった?」 凪「だってみんなが呼ぶから~」 鳴海「分かりましたかー?」 凪「はーい」 鳴海「分かったら、行ってよろしい」 凪「せんせー、おれのパンツはー?」 鳴海「体操着と一緒に保健室で乾かしてるから、乾くまで待ってね」 凪「スースーするー!」    ズボンをおさえながら、職員室を出て行く凪。    鳴海の隣の重岡奏人(31)、椅子ごと鳴海に近づいてきて 重岡「プールに落ちたんだって?」 鳴海「落ちたんじゃなくて、自分から飛び込んだんですよ」 重岡「ちゃんとお家の人にフォロー入れとかないと。先生の不注意だとか、あとあと文句言われたら大変だよ」 鳴海「やっぱり、連絡した方がいいですよね」 重岡「こないだなんて、5年2組の女子生徒、体育の授業中に転んでほんのちょっと擦りむいただけなのに、父親が学校まで怒鳴り込んできたんだから」 鳴海「ひえー。電話しようっと」    名簿を開き、電話をかける鳴海。    繋がるが、すぐにブチッと切れる。    不思議そうな鳴海、かけ直すが、電源が切れているという音声案内になる。 〇梅ヶ丘高校・三年二組教室(授業中)    スマホの着信音が流れ、慌てて電源を切る風太。    月本亮介(38)、歩いて来て 月本「はい月島、没収ー」    しぶしぶスマホを渡す風太。 月本「放課後、職員室なー」    不貞腐れる風太に、生徒たち「ドンマイ、風太!」とクスクス笑っている。    フン、と顔を逸らす風太、ふと隣の席の空席を見る。    黒板には、「欠席・佐久間」の文字。    風太、声を落として隣の席の男子に 風太「……なあ、佐久間って、このクラスになってから一度も学校来てないよな」 男子「あー。二年のとき同じクラスだったけど、二学期くらいから休みがちになってたかなー。出席日数やばそうよな」 風太「ふーん」    ちらりと空席を見たあと、黒板に視線を移し、大きく欠伸をする風太。 月本「おい月島ー。堂々と欠伸するなー」 風太「すんませーん」    眠そうに答える風太に、再びクスクス笑う生徒たち。 〇同・職員室(放課後)    月本からスマホを返却される風太。 月本「あと月島、進路調査票提出してないの、クラスでお前だけだぞ」 風太「え、俺だけ? 佐久間も出してるんですか?」 月本「あー、いや、佐久間もまだだな。月島、佐久間と知り合いなのか?」 風太「一年の時、同じクラスだっただけですけど」 月本「そうか。いやー、何回か電話してるんだけどなあ。家のことで忙しいって。このままだと、留年になるんだがなあ」 風太「ふーん」 月本「人のことより、自分の将来のこと、真面目に考えろよ。お前の人生なんだからな」 風太「……はーい」    職員室を出て行く風太。 〇同・校庭    野球部やサッカー部、陸上部などが部活をしている中を横切る風太。 〇同・駐輪場    歩いて来る風太。    駐輪場の後ろ、屋外プールで水泳部が準備体操しているのをちらりと見る。    自転車に跨ると、プールにいた真澄暖(17)が風太に気付く。 暖「風太!」 風太「おー、暖。どう、練習」 暖「みんな気合入ってるよ。引退試合もいよいよ来月だからなー」 風太「暖、大学の推薦かかってるんだろ? 頑張れよー」 暖「……なあ、風太も出ようぜ」 風太「いいって、俺は。もうずっと練習出てないし、タイム落ちてるだろ」 暖「放課後出れないなら、朝練しようぜ」 風太「朝もムリ」 暖「じゃあ昼! 昼練! プール使えるように顧問にかけあうからさ。部長特権で」 風太「部長ってそんな権限あるのか?」 暖「なんのために部長になったと思ってんだよ。明日からだからな! 絶対来いよー!」    準備体操に戻っていく暖。 風太「あ、おい暖!」    呆れる風太だが、ふと笑って、自転車に乗り走って行く。 〇同・屋外プール    準備体操に戻る暖。 後輩A「月島先輩って、タイム良かったのになんで水泳部辞めちゃったんですか?」 暖「辞めてねえよ。あいつは幽霊部員」 後輩B「なんか、家事とか弟の世話とかしてるんっすよね」 後輩A「え! 偉すぎ。イクメンじゃん」 後輩B「な。家事できるとか、かっけーよな」 後輩A「それはモテるわ」    後輩たちが盛り上がる中、自転車で去って行く風太を見送る暖。 〇梅ヶ丘小学校・三年一組教室(放課後)    号令が終わると、急いで帰り支度をする凪。    前の席のつむぎ、振り返って つむぎ「ねえねえ凪くん、今日みんなでうちに来てゲームするんだ。凪くんも来ない?」 凪「うーん、行きたいけど、また今度!」 つむぎ「また? ねえ、凪くんってなんでいっつもすぐ帰るの?」 凪「(笑って答えず)また明日!」    ランドセルを背負い、友人たちに挨拶をしながら教室を飛び出す凪。    廊下で、鳴海とぶつかりそうになる。 鳴海「こら! 走らない!」 凪「はーい」    早歩きで廊下を歩く凪を見送る鳴海。    重岡、やって来て 重岡「鳴海先生。月島くんのお家の方から、電話かかってきてるよ」 鳴海「あ、はい!」    急いで職員室へ向かう鳴海。 〇同・職員室    保留にしていた電話を取る鳴海。 鳴海「お待たせしてすみません。私、月島凪くんの担任をしております鳴海と申します」 風太の声「……あ、凪の兄ですが」 鳴海「え、お兄さんですか?」 風太の声「すいません、さっき授業中で」 鳴海「授業中……」 風太の声「あの、凪になんかありましたか」 鳴海「えっと、お母さんに代われますか?」 風太の声「母は、ちょっといま体調悪くて。俺が聞きます」 鳴海「そうですか……」    戸惑っている鳴海。 〇同(時間経過後)    職員会議が行われている。    教員たちに、『ヤングケアラー』に関する資料が配布される。 教頭「えー、今回、教育委員会の要請で、三年生以上の生徒を対象に、ヤングケアラーに関するアンケートを実施することになりました」    資料に目を落とす鳴海。    『ヤングケアラーはこんな子どもたちです』とイラスト付きで説明書き。 教頭「みなさん、ヤングケアラーについてはもちろんご存じだと思いますが、より理解を深めていただくために、今日はスクールソーシャルワーカーの五十畑さんから、ご説明いただきます」    教頭に紹介され、頭を下げて立ち上がる、五十畑麻里(48)。 五十畑「ヤングケアラーとは、家族にケアを必要とする人がいる場合に、大人が担うべき家事や家族の世話を日常的に行っている、18歳未満の子どものことをいいます」 〇同・校門(夕方)    校門から飛び出して来る凪。    走って坂道を駆け下りる。 五十畑の声「例えば、障害や病気のある家族に代わって、買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている」 〇海沿いの道    車が行き交う道路に、何かが落ちているのを見つける凪。    近づいて見てみると、亀の甲羅のよう。    拾ってみると、甲羅の中からニョキッと顔を出す。    亀と目が合い、たちまち笑顔になる凪。    大事に手に持って、再び走り出す。 五十畑の声「障害や病気のある家族の身の回りの世話をしている。家族に代わって、幼い兄弟の世話をしている。そういった子どもたちも、ヤングケアラーにあたります」 〇平屋の一軒家・月島家(夕方)    走って帰ってくる凪。 凪「ただいまー!」    凪が美歩の部屋のドアを開けると、ベッドに寝ていた美歩が目を覚ます。 美歩「おかえり、凪」 凪「見て、お母さん。カメ拾った」    大事そうに亀を美歩に見せる凪。 美歩「かわいい」 凪「家で飼っていい?」    笑顔で頷く美歩。 五十畑の声「いま日本では、ヤングケアラーの割合が年々増えています。厚生労働省の調査によると、日常的に世話をしている家族がいると答えた高校生は、24人に1人。中学生は17人に1人。小学生は15人に1人です」 〇同・洗面所    美歩、風呂場の風呂桶を取ろうとして、代わりに凪が手に取る。 美歩「お水、入れて」    洗面器に水を溜め、亀を入れる凪。    亀、手足を動かして泳いでいる。 凪「泳いでる」 美歩「名前、決めなきゃ、ね」 凪「うん! 兄ちゃんと一緒に決めよう」    凪と美歩、顔を寄せて亀を見ている。 五十畑の声「ヤングケアラーの支援において最も必要なのが、早期把握です。ただ、これが非常に難しい。家族の問題を知られたくなくて隠す子どももいれば、家族から口留めされているケースもあります」 〇同    帰ってくる風太。 風太「ただいま。なにそれ、亀?」 凪「拾った! 兄ちゃん、名前考えよう」 風太「名前? カメ吉とかでいいんじゃん」 凪「やだ! ダサい」 風太「はあ? じゃあ凪が考えろよ」 美歩「こーら」 風太「コーラ? なんで?」    美歩、亀の甲羅を触って 美歩「こうら」 風太「え、親父ギャグ?」 凪「コーラ。いいね。コーラにする!」 風太「えー。カメ吉のがよくない?」    凪と美歩と一緒に亀を覗き込む風太。 五十畑の声「最も多いのは、本人に自覚がない、ということです。家族が大変だからお手伝いをしているだけ、家族なんだからお世話をして当然、と考える子どもが沢山います。日常的な家事やお世話が当たり前になっているから、周りに助けを求めようとしない。それどころか、家族を守れるのは自分だけだと思い込んでしまう」 〇同・風呂場    美歩の髪を洗っている風太と凪。    ドライヤーで髪を乾かす風太と、ブラシで髪を梳いてやる凪。 五十畑の声「家族のために、子どもが家族のお世話をする。そう聞けば美談に聞こえますが、子どもには様々な影響が出ます」 〇同・庭    洗濯物を取り込んでいる風太と凪。    風太、美歩の部屋へ行くと布団を持って、物干し竿に干す。    布団叩きで叩いていると 凪「ぼくもやりたい!」    凪が代わって布団を叩く。    中途半端に掛かっていた洗濯物が風に吹かれて飛んでいき、追いかける風太。 五十畑の声「まず一つは学業。家でゆっくり勉強をする時間がない、家事の疲れで授業中に居眠りをする。成績の低下や、学業に対する意欲の低下。家族の世話を優先し、進学を諦める子どもも少なくありません」 〇同・台所    一緒に料理をしている風太と凪。    玉ねぎを切り、目が染みて涙ぐむ凪と、笑っている風太。 五十畑の声「また、友達と遊ぶ時間を奪われ、部活動に参加することも難しくなります。家族が心配で、修学旅行などの学校行事を欠席する子どももいるんです。遅刻や早退、欠席が増え、友達と過ごす時間が削られていく。子どものうちに経験すべきことを経験できないまま、いつの間にか大人になってしまう」 〇同・居間    風太、凪、美歩でカレーを食べている。    洗面器でパンを齧っている亀。 五十畑の声「そうして本人たちは気付かない間に、子ども時代を奪われてしまうんです」 〇ATM・中(夜)    お金をおろしている風太。 〇大型スーパー・店内    値引きシールが貼られている鶏肉や豚肉をカゴに入れていく風太。    レジで精算中、騒ぎ声が聞こえて振り返ると、佐久間徹(52)が大声をあげて陳列棚の商品を投げている。    慌てて徹を抑える店員たち。    風太、その様子を横目に見ながら店を出ようとすると、ちょうど店に駆け込んできた佐久間澪(17)とぶつかりそうになる。 風太「あれ。佐久間?」 澪「……」    風太を無視し、店に入って行く澪。    暴れる徹を宥めて、店員たちに頭を下げて謝っている。    その様子を見ている風太。 〇月島家・居間    帰ってくる風太。    凪、美歩の爪を切っている。 風太「凪、まだ起きてたのか。もう寝ろよ」 凪「はーい。お母さんも寝よう」    美歩を連れて居間を出る凪。 〇同・美歩の部屋    ベッドの上で、美歩の背中を押して、ストレッチをしてやる風太。    凪は、美歩の枕を6回叩く。    ストレッチを終え、ベッドに美歩を寝かせると、部屋を出る風太と凪。 風太「おやすみー」 凪「明日もちゃんと起きてね。おやすみ」 美歩「おやすみ」    電気を消し、ドアを閉める。 〇同・凪の部屋    目覚まし時計を6時にセットし、枕を6回叩いて電気を消す凪。 凪「おやすみ、コーラ」    水槽に入った亀に挨拶し、布団に入る。 〇同・美歩の部屋(翌朝)    カーテンを開ける凪。 凪「おはよー! 朝だよー!」    閉じたままの美歩の瞼を、指で開く凪。 凪「……あれ? お母さん、顔あつい」    美歩、赤い顔で苦しそう。 凪「兄ちゃーん! お母さん熱出してるー!」    部屋にやってくる風太。    美歩の額に手を当てると 風太「あつっ。凪、体温計持ってきて」 凪「うん!」    バタバタと部屋を出る風太と凪。      *   *   *    体温計を見ると、38度ある。    風太、美歩に飲物を飲ませながら 風太「風邪かな。病院行くか」 凪「ぼくも行く! 行く行く行く!」 風太「病院から戻ったらすぐ学校行くんだぞ」 凪「うん!」    スマホで凪の小学校の連絡網アプリを開き、遅刻の連絡をする凪。 〇同・玄関    美歩に靴を履かせ、車椅子に乗せて家を出る風太と凪。 〇病院・診察室    口を開けて喉の診察を受けている美歩。 医者「うん、喉の腫れもないし、風邪じゃないですよ。ちょっとしたストレスかな。大人の知恵熱みたいなもの。心配ないですよ」 風太「そうですか」 医者「ゆっくり過ごせば、すぐ治りますよ。解熱剤のお薬出しておきますからね」    頷く美歩と、安心した様子の風太。 〇同・受付    美歩の車椅子を押して外に出る凪。    風太、受付で障害者手帳のやり取りをして、支払いをする。 〇海岸沿いの道    凪が車椅子を押しながら歩いている。 美歩「うみ」 風太「え?」 美歩「うみ、行きたい」 風太「いま? 熱あるんだから、また今度ね」 美歩「うみ行ったら、ストレス、なくなる」 風太「そうなの? 海行きたかったの?」 凪「行こう行こう! 海!」    凪、車椅子を押して海岸に向かって走って行く。 〇海岸    砂浜で、上手く進まない車椅子を一生懸命押す凪と、楽しそうな美歩。    方向転換できず、グルグルと同じところを回っている。    その様子を見ている風太、ふと視線を感じて振り返ると、買い物袋を持った澪が凪たちを見ている。    黙って目を合わせる風太と澪。 〇同    階段に並んで座る風太と澪。    澪、車椅子の美歩と凪を見て 澪「月島って、イクメンみたいな噂流れてたけど、本当だったんだね」 風太「(笑って)イクメン、ね」 澪「いつから? お母さん」 風太「8年前。車で事故って、父さんは死んだ。ばあちゃんがいて一緒に暮らしてたんだけど、半年前に死んで、いまは弟と三人」 澪「そっか。うちは、父親」 風太「……昨日の?」 澪「もともと鬱っぽかったんだけど、そのうち幻聴とか幻覚とか出始めて。仕事続けられなくなって、一日中家にいるようになった。勝手に家を出て、あちこちで喚いたり暴れたりするから、ずっと見張ってなきゃいけなくてさ。あたし、見張り役」 風太「それで学校、来てないんだ」 澪「母親はずっと仕事で家にいないから。あたし一人っ子だし。母親、見栄っ張りでさー。父親の病気のこと、恥ずかしいからって親戚にも言ってないの。それであたしに世話押し付けてんだよ。ひどくない?」 風太「学校、行きたいって言ってみたら?」 澪「学校ねー。行くの、嫌なんだよね。月島は嫌じゃないの」 風太「なにが?」 澪「だって、みんな普通に家族が健康でさ。ご飯作ってもらって、家事も全部してもらって、それが当たり前じゃん。悩み事なんて、彼氏と喧嘩したとか、好きなアイドルのコンサートに外れたとかさ。ムカつくんだよね。なんで私だけこんな大変な思いしてんだろって。月島もそう思わない?」 風太「うーん。別に俺は、大変とかはないけど。もうずっとだし。当たり前っていうか」 澪「お母さんのこと、嫌にならないの」 風太「ならないよ。母さんのこと好きだし」 澪「……ふーん。マザコンだ」    風太、怒って立ち上がる。    澪、顔を腕に埋めて 澪「わたしはさ、月島みたいに思えない。昨日も、店員にねちねち文句言われて、ひたすら謝ってさ。その間も父親は意味不明なこと喚き散らしてんの。お父さんなんか、死んじゃえばいいのにって、思った。毎日思うよ。わたしがおかしいのかなあ」    砂浜で、楽しそうに笑う凪と美歩。 〇梅ヶ丘高校・三年二組教室(昼休み)    風太が登校すると、生徒たちが風太を見て、クスクス笑って噂話。    不思議そうにしている風太のもとに、ニヤニヤとした顔で集まる男子たち。 男子A「風太、さっきまで佐久間とデートしてたらしいじゃん」 風太「は?」 男子B「一組の野間が今日腹痛で遅刻だったんだけどよー。海岸でいい雰囲気だった、お前と佐久間のこと見たんだって」    男子B、スマホを風太に見せる。    海岸で座っている、風太と澪の写真。 風太「たまたま会って、ちょっと喋ってただけだよ。弟とかも一緒だったし」 男子A「なになに、もう家族ぐるみのお付き合いってことですかー?」 風太「はあ? ちげーよ」    教室に入ってくる暖、風太を見つけて 暖「おい風太! 今日から昼練って言っただろ。俺待ってたんだぞ!」 風太「あ、忘れてた」 暖「おいー。もう時間ねえぞ。ほら、行くぞ」 風太「何にも持ってきてないよ」 暖「俺の貸すから!」    暖に引っ張られていく風太。 〇同・屋外プール    勢いよく泳ぐ風太。    ストップウォッチでタイムを計る暖、風太がゴールするとガッツポーズ。 暖「なんだよ、お前、大してタイム落ちてないじゃん! さては陸トレ続けてるな?」 風太「まじ? 制限タイムは?」 暖「余裕でクリア。これでまた勝負できるな」 風太「やだよ。いまお前と勝負したら、負けるに決まってんだろ」 暖「ボッコボコにしてやるから覚悟しとけよ」    暖に水をかける風太と、笑う暖。 暖「別に勝負じゃなくてもいいけどさ。お前と一緒に泳ぐのが好きなんだ。だって風太、水泳大好きだろ」 風太「……お前ほどじゃねえよ。水泳バカ」 暖「水泳バカの名に懸けて、大会まで猛特訓するからな! おら、泳げ泳げ!」    暖に水をかけられ、笑う風太。 〇梅ヶ丘小学校・教室(昼休み)    給食の時間。    登校してくる凪に、挨拶する生徒たち。 鳴海「月島くん、おはよう。給食用意してあるから、食べてね」 凪「はーい」    席に座る凪に、振り返るつむぎ。 つむぎ「凪くん、やっと来たー。今日はなんで遅刻したの? 具合悪いの?」 凪「ううん。お母さんが熱出したから」 つむぎ「そうなの? 凪くんが看病したの?」 凪「看病っていうか、病院連れてった。あと、海で遊んだ」 つむぎ「なんだ。遊んでるんじゃん。ずるい。じゃあ、今日は一緒にゲームできる?」 凪「お母さんが熱だから、だめー」 つむぎ「なんでー?」    凪、給食を食べ始める。 〇同・教室(HR)    『ヤングケアラー』のアンケート用紙に記入する生徒たち。    静かな教室の中を、歩いてまわる鳴海。    凪も黙々とアンケートに記入している。 〇同・職員室(放課後)    席でアンケートの回答を見ている鳴海。    凪の回答用紙になると、手を止めてじっと見ている。    重岡、鳴海の手元を覗き込んで 重岡「鳴海先生、知ってる? 子どもが親の世話をするのって、人間だけらしいよ」 鳴海「え? そうなんですか」 重岡「動物の世界では、怪我をしたり病気になったら、群れで保護するんだって。だから人間も同じように、助けが必要な人のことは、社会が守ればいい、ってこと」 鳴海「……社会、ですか」 重岡「家族の問題は家族の中で解決するっていう時代は、もう終わったんだよなー」    自分の席に戻って行く重岡。    鳴海、凪の回答用紙をじっと見る。 〇梅ヶ丘高校・進路指導室(放課後)    月本と面談をしている風太。    月本、空欄の進路調査票を見てため息。 月本「月島ー。お前なあ。いい加減にしないと、もうすぐ夏休みだぞ」    風太のスマホの着信音が鳴り、慌てて消音モードにする風太。 風太「すいませーん。弟の担任からです」 月本「弟の担任? 出なくていいのか?」 風太「またプールに飛び込んだとか、そういう話ですよ。結構やんちゃなんです、うちの弟」 月本「……なあ月島。お前が母親の世話とか、弟の面倒を見てるのは、立派なことだと思う。だけどな、お前にもお前の人生がある。やりたいこととか、お前にだってあるだろ」 風太「別に、ないっすよ。やりたいこと」 月本「真剣に考えたことがないんだろ。家のことが足枷になるんだったら、今の状況を変えることも考えた方がいいんじゃないか」 風太「……別に。今のままでいいです」 月本「お前のためだけじゃない。弟はまだ小学生だろ? お前が進学するにしても就職するにしても、このままだといずれは弟が母親の世話をすることになるんじゃないのか。弟にも、同じ思いをさせていいのか?」 風太「……」 〇同    風太、平積みされている大学や就職のパンフレットをパラパラと捲っている。    その隣、奨学金制度のチラシや冊子が並んでいる中に、『ヤングケアラー相談窓口』のチラシが置いてある。    ふとそのチラシに目を留める風太。    スマホのバイブが鳴り、『着信・凪の担任』の表示。 〇梅ヶ丘小学校・職員室    鳴海、電話をしている。 鳴海「ですから、一度、家庭訪問を……」 風太の声「俺が学校に行くんじゃダメですか」 鳴海「だってお兄さん、高校生ですよね」 風太の声「あ、明日誕生日なんで、18になりますけど。成人ですよね」 鳴海「えっ、そうなんですか?」 〇通学路    自転車を押しながら、電話をしている風太。 風太「凪、何か問題あるんですか?」 鳴海の声「問題、ということじゃないんです。だだ、遅刻や忘れ物が多かったり、宿題もやってこなかったり、授業中に居眠りすることもあるので。お家での様子というか、過ごし方というのを、一度お母さんからお話を聞かせていただければ、と思って」 風太「別に、普通ですよ。勉強はあんまり好きじゃないみたいですけど」 鳴海の声「そうですか……」 風太「忘れ物とか宿題とか、明日から気を付けます。夜更かしして寝坊しないようにも、言っておくので」 鳴海の声「あ、あの、お兄さん」    通話を切る風太。    自転車に乗り、走り出す。 〇月島家・居間    亀と遊んでいる凪。    風太が乾いた洗濯物を運んでくると、畳もうとする。 風太「凪、いいから宿題やれ」 凪「宿題ないよー」 風太「じゃあ授業の予習と復習。あと連絡帳出して。プリントももらったら出して」 凪「今日はないよー」    掃除機を持って廊下に出る風太。    美歩の部屋から、「風太」と呼ぶ声。 〇同・美歩の部屋    部屋に入る風太。 風太「なに」 美歩「のみもの、とって」    枕もとには空の紙パック。    風太、冷蔵庫から紙パックのジュースを取り、ストローを指して美歩に渡す。 美歩「お茶が、いい」 風太「は? 先に言ってよ」 凪「ぼくがやるー」    風太の持つ紙パックに手を伸ばす凪。 風太「凪はダメ。いいから勉強しろって。もう凪は家事しなくていい。母さんの世話も、これからは全部俺がやるから」 凪「なんで? ずるい!」 風太「ずるくない。お前はもう遅刻禁止。忘れ物禁止。プールに飛び込むのも禁止!」 凪「ぼくがやる!」    凪が紙パックを無理やり取ろうとして、床に落とし、ジュースが飛び散る。 凪「……ごめんなさい」    ティッシュでジュースを拭き始める凪。    風太、苛立たしく部屋を出ようとする。 美歩「風太、てつだい、なさい」 風太「……なんで俺がやんなきゃいけないの」    美歩を見る風太。 風太「母さんがやってよ」    美歩、風太を見て、悲しそうな表情。    美歩の顔を見た凪、怒って風太のことをドンドンと両手で叩く。 凪「兄ちゃんのバカ。兄ちゃんなんか出てけ! ぼくがお母さんの面倒みるんだ!」 風太「勝手にしろ」    部屋を出る風太、そのまま玄関へ向かい、家を出て行く。 〇コンビニ・店内(夜)    イヤホンをして、雑誌の立ち読みをしている風太。    横から、片方のイヤホンを取られる。    驚いて顔を上げると、澪がいる。    イヤホンを自分の耳に付け、曲を聴いて不思議そうな顔をする澪。 澪「なにこれ。古い曲?」 風太「……」 〇同・店の前    縁石に座り、片方ずつのイヤホンで音楽を聴いている風太と澪。    榎本健一の『私の青空』。 風太「父さんが好きで、昔、家族みんなでよく歌ってたんだ」 澪「ふーん。月島んちって、絵に描いたような仲良し家族なんだねー。そういうのって、ドラマの中だけの話だと思ってた」 風太「ファザコンだって、思ってんだろ?」 澪「思ってる。マザコンで、ファザコンで、ブラコンでしょ、月島」 風太「そうだよ、どうせ。悪いかよ。ついでにグランドマザコンだよ」 澪「なにそれ! 初めて聞いた」    笑い出す澪。 澪「だから月島みたいな真っすぐな人間が育つんだね。『楽しい我が家』かー。一回も思ったことないわー」    イヤホンを外し、立ち上がる澪。 〇帰り道    アイスを食べ、歩きながら話す、風太と澪。 風太「佐久間って、卒業したらどうすんの」 澪「さーねー。そもそも、卒業無理かも。なんか、どうでもいいんだよねー。先のこと考えると、お先真っ暗! って感じだしさ。考えても無駄っていうかさー」 風太「……だよなー」 澪「月島ってさ、夢ってあった?」 風太「夢?」 澪「小さい頃の夢。あたしはあったよ。洋服のデザイナーになりたかった。リカちゃん人形の服とか集めてたなー」 風太「俺は水泳選手、かなあ」 澪「そっか、月島水泳部だったね。ねえ、クロールしてみてよ」 風太「は? ここで?」 澪「そう。ここをプールだと思って。ほら! よーい、スタート!」    風太、戸惑いながら、両手を回してクロールの動きをする。 澪「おー、さすが水泳部。形が綺麗だね」 風太「バカにしてる? っていうかこれ何?」 澪「次、平泳ぎ!」    呆れながらも平泳ぎの動きをする風太。    澪も真似している。 澪「次ー、バタフライ!」    やけになって、激しくバタフライの動きをする風太に、大笑いする澪。    風太も笑い出す。    曲がり角に着き、立ち止まる澪。 澪「学校はどうでもいいけどさー。月島が泳ぐところは、見てみたかったな」    笑って、手を振る澪。 澪「じゃーねー」    歩いて行く澪を見送り、反対方向へ歩き出す風太。 〇月島家・居間    帰ってくる風太。    凪、洗濯ものの山の上で寝ている。    凪を抱っこして、凪の部屋に運ぶ風太。    ベッドに寝かせると、目を覚ます凪。 凪「兄ちゃん?」 風太「寝るならベッドで寝ろよ」 凪「ねえ兄ちゃん」 風太「なに」 凪「お母さん、死なない?」 風太「……死なないよ」 凪「じゃあ、ずっと一緒?」 風太「そう。ずっと一緒」    凪の頭を撫でる風太。 凪「お母さんの枕、叩いてあげてね」 風太「わかったから、もう寝ろよ」    凪の枕を6回叩く風太。    安心したように目を閉じる凪。 〇同・美歩の部屋    そっとドアを開ける風太。    ジュースが綺麗に片付けられている。    美歩と目が合うと、部屋に入る風太。    枕元に近づき、美歩の枕を6回叩く。 風太「凪がしろってうるさいから」    ベッドに腰掛ける風太。 風太「この寝坊しないおまじないって、母さんが言い出したんだっけ」 美歩「おばあちゃん」 風太「ふーん。効いてんのかなあ、これ。凪、毎晩やってるよね。母さんの分も」 美歩「おばあちゃん、おまじない、するの忘れて、寝て、そのまま、死んじゃったから」 風太「……」 美歩「だから、毎晩、たたくの。わたしの、ぶんも」 風太「ふうん……でも俺、凪に叩いてもらってないけど。俺だけ。ひどくない?」 美歩「風太は、死なない、から」 風太「母さんも死なないだろ」    立ち上がる風太、電気を消す。 風太「おやすみ。枕叩いたんだから、明日寝坊しないでね」    部屋を出て行く風太。 〇梅ヶ丘小学校・廊下(朝)    掲示板に、ヤングケアラー相談窓口の貼り紙を貼っている鳴海。    登校してくる生徒たちに、挨拶をする。    凪も元気に登校してくる。 凪「せんせー、おはようございまーす」 鳴海「おはよう、月島くん。ちょっといい?」    鳴海、立ち止まった凪と向き合い、目を合わせる。 鳴海「ねえ、お家のことで、何か困ってることとか、大変なこと、ない? 何かあったら、先生、いつでもお話聞くよ」    凪、首を横にふる。 鳴海「でも、お母さんのお世話とか、家事もお手伝いしてるんだよね」 凪「兄ちゃんに、もうするなって言われたー」    凪、つむぎに呼ばれて、教室へ向かう。    凪を見送る鳴海。 〇同・職員室(昼休み)    パソコンを開き、ヤングケアラーについて調べている鳴海。    『18歳未満』という文字を見ている。    重岡、職員室に駆け込んできて 重岡「鳴海先生、三年一組で喧嘩ですよ!」 鳴海「えっ?」    慌てて職員室を出て行く鳴海。 〇同・三年一組教室    生徒たち、男女に分かれてワーワーと騒いで喧嘩をしている。    中心にいる凪と、泣いているつむぎ。 鳴海「神保さん、どうしたの?」 つむぎ「凪くんが約束破ったんだもん!」 凪「約束なんかしてないよ」 つむぎ「じゃあなんでいっつもすぐ帰るの? 一度も遊びに来てくれないじゃん」 凪「今日はダメ」 つむぎ「いっつもそうじゃん! 凪くんの家って、お母さんが病気なんでしょ」 凪「病気じゃない」 つむぎ「子どもが親の世話するなんて変だよ」 凪「別に、普通だよ」 つむぎ「普通じゃないよ。変だってうちのお母さん言ってたもん。そんなのお母さんじゃないよ!」    凪、怒ってつむぎを叩こうとする。 鳴海「こら!」    凪の手を掴む鳴海。 鳴海「謝りなさい」    凪、鳴海を睨んでプイと顔を背ける。 鳴海「謝りなさい、神保さん!」    驚いて鳴海を見る凪。 〇海岸沿いの道(放課後)    一緒に歩く、凪と鳴海。    鳴海、手に資料をたくさん抱えている。 凪「学校の先生が家にくるの、初めてだよ」 鳴海「そう。お友だちが遊びにきたことは?」 凪「ない。ヘルパーさんしか来ない」 〇月島家・玄関    ドアを開けて家に入る凪。 凪「ただいま! お母さん、先生来たよー」    鳴海は家に入らず、ドアから顔を覗かせている。    靴を脱いで台所に走って行く凪、台所で美歩が倒れているのを見て驚く。 凪「お母さん!」    お皿に粉をまぶした鶏肉が並び、フライパンには大量の油が熱されている。 美歩「凪、あぶないから、こないで」    凪、美歩を助け起こそうとして、フライパンの取っ手に腕をぶつけてしまう。    ぐらりと傾くフライパン。 美歩「あぶない!」    美歩、凪を守ろうとするが、身体が動かない。    そこへ駆け込んでくる鳴海、寸でのところでフライパンの取っ手を掴むが、跳ねた油が凪の腕に飛んでしまう。 凪「熱い!」 美歩「凪!」    パニックになる美歩。    鳴海、火を止めると、凪を抱え、火傷した腕を水道水で流す。 鳴海「お母さんは大丈夫ですか? 火傷してませんか?」    美歩、床に倒れたまま、起き上がることができず、もがいてる。    帰ってくる風太、倒れて泣いている美歩を見て驚き、慌てて助け起こす。 風太「母さん、どうしたの。転んだの?」    美歩、癇癪を起したように「凪、凪」と言いながら泣き始める。 鳴海「凪くん、火傷して。病院に連れて行きましょう」 風太「は? っていうか、誰」 鳴海「凪くんの担任です。タクシー呼びますね。月島くん、このまま冷やしててね」    スマホを取り出しタクシーを呼ぶ鳴海。    風太、美歩を宥めながら椅子に座らせ、凪に駆け寄る。 風太「大丈夫か、凪。火傷? どこ?」    凪、痛みに顔を歪めて我慢している。 凪「大丈夫」    スマホの通話を切る鳴海、泣き続ける美歩と、風太、凪を見て。 鳴海「……大丈夫じゃない」 凪「え?」 鳴海「大丈夫じゃないでしょ!」    凪、我慢していた涙が、ポロポロとこぼれていく。 〇病院・診察室    医者に包帯を巻いてもらう凪。 医者「これなら痕は残らないよ。痛かっただろう。よく頑張ったね」    付き添っていた鳴海、ホッとして 鳴海「良かったね。ありがとうございました」    医者に頭を下げる鳴海。 〇同・待合室    診察室から出てくる凪と鳴海。    看護師と一緒に風太が歩いて来る。 凪「お母さんは?」 風太「今日は病院に泊まるって」 凪「ぼくも泊まれる?」 風太「ダメ。明日一緒に迎えに来ような」 凪「ちょっとだけ会える?」 風太「薬飲んで、もう寝てるよ」 凪「枕叩くだけ」    困ったように看護師を見る風太。 看護師「大丈夫ですよ。(凪に)おいで、お母さんのところ行こう」    凪、看護師のあとに付いて行く。    風太、疲れたようにソファに座ると、その隣に腰掛ける鳴海に、頭を下げる。 風太「色々、迷惑かけてすみません」 鳴海「迷惑じゃないです。……あの、もっと頼っていいと思う。周りの色んな人に」    鳴海、持っていた資料を風太に渡す。 鳴海「これ、相談窓口とか、色々な支援情報が載ってるから。読んでみて」    風太、資料をちらりと見るが、鳴海に押し返す。 風太「半年前にばあちゃんが死んだとき、そういうところに相談したら、母さんも凪も施設に入れろって言われた」 鳴海「でも……このままでは、いられないでしょう。三人で一緒にいられる方法も、きっとあるはずだよ。今よりみんなが、もっと楽しく過ごせるように、色んな人にサポートしてもらって」 風太「同じことだろ。三人のままでいい」    立ち上がる風太、鳴海を置いて歩いて行く。 〇月島家・台所(夜)    雑巾で床を拭く凪と、乾いてしまった鶏肉を片付けている風太。 風太「なんで急に、唐揚げ作ろうと思ったんだろうな、母さん」 凪「今日、兄ちゃん誕生日だから。兄ちゃんの好きな唐揚げ作ろうって、昨日お母さんと一緒に約束したんだ」 風太「……そっか。俺、今日誕生日か」 凪「ごめんなさい。ぼく、お母さんのこと、守れなかった」 風太「何言ってるんだよ。お前はちゃんと守っただろ。痛いの我慢して、偉かったな」    凪の頭を撫でる風太。 凪「お母さん、一人ぼっちにならない?」 暖「ならないよ」 凪「また会える?」 暖「当たり前だろ。たった一日、入院するだけだよ」 凪「うん」    食卓に、コンビニの唐揚げ弁当を並べる風太。    風太と凪、座って食べ始める。 風太「母さんの唐揚げ、食べたかったな」 凪「うん」 風太「いつか、また食べれるよ」 凪「うん」    冷えた唐揚げを黙々と食べる風太と凪。 〇同・風太の部屋    電気を消した部屋で、ベッドに寝転び無表情でスマホゲームをしている風太。    澪からLINEが届く。    『今から会える?』のメッセージ。    しばらく迷ったあと、起き上がる風太。 〇同・凪の部屋    そっとドアを開ける風太。    凪が寝ているのを見て、ドアを閉める。 〇海岸    階段に座っている澪。    隣に座り、澪を見て驚く風太。    澪の頬、赤く腫れている。 風太「どしたの、その顔」 澪「悪魔だって」 風太「え?」 澪「お母さんに、あんたは悪魔だって言われた。自分の父親なのにって。こんなの父親じゃないって言ったら、叩かれちゃった」    真っ暗な海を見ている澪。    風太も一緒に海を見る。 澪「夜の海って、吸い込まれそうだね」    風太、立ち上がると澪を見て 風太「なあ。いまから学校行かない?」 澪「え?」 〇梅ヶ丘高校・裏門    門をよじ登る、風太と澪。 〇同・屋外プール・入口    風太、鍵を開けて澪を手招きする。    キョロキョロしながら、風太のあとをついていく澪。 〇同・屋外プール    真っ暗なプール。    風太、服を着たままプールに飛び込む。 澪「ちょっと、月島! 何考えてんの」    そのまま、クロールで泳ぎ始める風太。    Uターンして、戻ってくる。 澪「(呆れて)何やってんの」 風太「佐久間も入れば」 澪「えー?」    澪、ためらうが、再び泳ぎ出す風太を見て、思い切って飛び込む。    水の中に落ち、ブクブクと泡立つ中で目を開ける澪。    ユラユラと揺れる、無音の世界。    水面から顔を上げ、プハッと息を吐く。    澪を見て、笑顔の風太。    澪も笑顔になる。      *   *   *    水の中に潜って泳ぐ、風太と澪。    無音の水の中で、目を見合わせて笑う。 澪の声「水の中って、宇宙みたい」 風太の声「宇宙?」 澪の声「いつか、地球がなくなったら、あたしたちみんな、宇宙に放り出されて、消えちゃうのかな」 風太の声「……もし、宇宙に放り出されたら。障害も、病気も、関係なくなる。俺の母さんも、佐久間の父さんも、金持ちも貧乏人も、みんな同じ、一つのあったかい光になって、宇宙の中の一つの星になる」 澪の声「なにそれ」 風太の声「そうやって、また生まれるんだ」      *   *   *    並んで仰向けに浮かぶ風太と澪、頭上に浮かぶ月を見ている。 澪『夕暮れに 仰ぎみる 輝く青空』    小声で口ずさむ澪に、風太笑って 風太「歌詞、覚えてんじゃん」 澪「いい歌だよね」    目を見合わせる、風太と澪。 風太『日が暮れて たどるは 我が家の細道』 風太・澪『狭いながらも 楽しい我が家 愛の火影の さすところ』    笑顔で歌う風太と澪。 風太・澪『恋しい家こそ 私の青空』    澪の頬に、涙が流れる。    その横顔を、驚いて見つめる風太。    懐中電灯の光がプールを照らし出す。 警察官「何やってるんだ!」    懐中電灯に照らされる、風太と澪。 〇警察署・廊下    警察官にタオルを渡され、濡れた身体を拭いている風太と澪。    佐久間希和(45)がバタバタと走ってくると、いきなり澪の頬を叩く。 警察官「まあまあ、お母さん」 希和「勝手なことばっかりして。いい加減にしなさいよ!」    澪の腕を引っ張り、連れて行こうとする希和に、頭を下げる風太。 風太「あの、すみません。俺が誘ったんです」    希和、風太を睨み付けると 希和「二度とうちの娘に近づかないで」    澪を連れて、去って行く希和。 警察官「(ため息を吐いて)君は、本当に誰もいないの。迎えに来てくれる人」 風太「はい」 警察官「親戚とか、誰か大人は? いないの」 風太「俺、大人っすよ。もう。18になったんで」    タオルを警察官に返し、一人で帰って行く風太。 〇月島家・玄関    帰ってくる風太、ドアを開けると、玄関で凪が丸くなって寝ている。    隣には、亀の入った水槽。 風太「凪、なんでこんなところで寝てるんだよ?」    身体を揺すると、目を覚ます凪。 凪「兄ちゃん……?」    凪、寝ぼけながら風太に抱き着く。 凪「帰ってきた」 風太「……うん」 凪「もうどこにも行かない?」 風太「うん。ごめんな」    凪の頭を撫でる風太。 〇梅ヶ丘高校・生活指導室(翌朝)    月本に、水泳部の退部届を渡す風太。 風太「水泳部には、迷惑かけたくないんです。お願いします」    頭を下げる風太。    月本、ため息を吐いてそれを受け取り 月本「これから職員会議で、話してくるから」 風太「あの、俺が佐久間を誘ったんで。処分は俺だけにしてもらえませんか」 月本「……お前、聞いてないのか? 佐久間、昨日学校辞めたんだぞ」 風太「え……?」 月本「まあどのみち、出席日数が足りなくて留年だったんだけどな。実家を出て、遠くの親戚の家に引っ越すって言ってたぞ」 風太「……」 月本「なんだ、何も聞いてないのか?」 〇同・三年二組教室(HR)    黒板の「欠席」の文字の下、空欄になっている。    空いている風太と佐久間の席。 〇同・三年一組教室(休み時間)    慌ただしく教室に入って来る水泳部員たち、暖のもとに駆け寄り 水泳部A「おい暖、風太、停学だってよ」 暖「は? 停学!?」 水泳部B「昨日の夜、学校のプールに忍び込んだのを近所の人に見られて、通報されたらしい。佐久間と一緒だったって」 暖「佐久間? なんで佐久間」 水泳部A「風太、水泳部退部したって。水泳部はお咎めなしだって聞いたけど……」    暖、教室を飛び出す。 〇同・校庭    自転車を押して帰ろうとする風太のもとへ、走って来る暖。 暖「おい、風太! どういうことだよ」 風太「……水泳部には迷惑かけないから」 暖「そういうことじゃなくてさあ!」    風太の腕を掴む暖。 暖「なんで何も話してくれないんだよ。家のこととか。俺、待ってたんだよ。ずっと。お前が話してくれんの。もっと頼れよ」 風太「……お前に話して、何か変わんの」 暖「は?」    暖の腕を振り払うと、自転車に乗り、走り出す風太。 暖「じゃあ、佐久間になら話せんのかよ! おい、風太!」    風太、振り返らずに走って行く。 〇病院・美歩の病室・前(昼)    歩いて来る風太。    部屋に入ろうとすると、美歩と五十畑が話している。 五十畑「お子さんに、家事やお世話をしてもらうことについて、どう思いますか」 美歩「……できる、なら、させたく、ない。わたしが、したい。でも、できない」    風太、足を止め、二人の話を聞く。 五十畑「お子さんたちを、もっと自由にしてあげたいなって、思いますか?」    頷く美歩。 美歩「思い、ます。だけど、わたしだって、母親で、いたい」    声を震わせ、泣きながら話す美歩。    聞いている風太。 美歩「風太と、凪が、いなくなったら。わたしは、ひとりぼっちで、死んで、いくだけ」    風太、部屋へ入ると、五十畑の腕を掴んで部屋の外へ連れて行く。 五十畑「ちょっと、何ですか」 風太「誰? 何なんですか。母さんに余計なこと言わないでもらえますか」    風太、五十畑の腕を掴んだまま廊下を進んで行く。 五十畑「あなた、凪くんのお兄さん? 学校は?」 風太「関係ないだろ」 五十畑「あのね、私は、あなたたち家族の支援をしたいの」 風太「助けてくれって頼んだかよ」    立ち止まり、五十畑を睨み付ける風太。 風太「可哀そうとか、勝手に決めつけんな」    風太、背を向け歩いて行く。 〇同・美歩の部屋    部屋に入る風太、美歩のベッドの傍にある椅子に腰かける。 美歩「なん、で、いるの」 風太「……」 美歩「学校、は」 風太「……しばらく行かなくてよくなった。っていうかもう、行くのやめよっかな。俺、ずっと家にいるよ。家のことも、母さんのことも凪のことも、全部、俺が面倒見る。そうすればもう、誰からも文句言われないでしょ。そうする」    俯きながら言う風太に、机にあった紙パックのジュースを投げる美歩。    上手く投げられず、床にぽとりと落ちる紙パック。    美歩、手当たり次第に風太に物を投げるが、どれも風太に届かず床に落ちる。 風太「……母さん」    美歩、声をあげて泣きながら、もがくように暴れ出す。    立ち上がり、美歩を抱きしめる風太。 風太「母さん。俺、どうすればいい……?」 〇病院・入口(夕方)    ランドセルを背負った凪、嬉しそうに美歩の乗る車椅子を押して出てくる。    あとからついて来る風太。 〇月島家・美歩の部屋(夜)    電気が消された部屋で、美歩のベッドで美歩と一緒に寝る凪と、美歩のベッドに腕を乗せて寝ている風太。    暗闇の中、目を開ける美歩。    寝ている風太と凪の顔を、じっと見つめている。 〇月島家・居間(朝)    台所で朝ご飯を作っている風太と、美歩を連れてくる凪。    三人揃って、朝食を食べる。 〇同    亀に餌をあげている凪。    風太、水着セットを持ってくる。 風太「凪、今日体育だろ。水着、忘れずに持って行けよ」 凪「ぼくも今日休むー」 風太「ダメ」 凪「なんで兄ちゃんだけ休みなのー。ずるい」 風太「ずるくない」 凪「ぼくもお母さんといるー」    椅子に座っていた美歩に、べったりと抱き着く凪。 美歩「……風太。スーパー、行きたい」 風太「スーパー? 何かいるものあるなら俺買ってくるよ」 美歩「ううん、行きたい」 凪「行く行く行く! ぼくも行く!」 風太「凪はダメ。学校行きなさい」 美歩「凪、も」 風太「ダメだよ、凪は学校行かさないと」 美歩「今日、だけ。おねがい」 凪「やったー!」    大喜びの凪に、微笑む美歩。    風太、困った顔で美歩を見ている。 〇大型スーパー・店内    ワクワクした表情で店内を駆けまわる凪と、美歩の車椅子を押す風太。 風太「おい凪、走るな」 凪「お菓子買っていいー?」 風太「いいから、ちょっと待てって」    凪、よそ見をしながら走って、歩いてきた客とぶつかり、転んでしまう。    慌てて駆け寄る風太。 風太「もー、だから走るなって言っただろ」    凪を抱き起す風太、ぶつかった客に頭を下げて謝っている。    その光景を見ている美歩。    突然、身体を横に倒し、わざと車椅子を転倒させる。    車椅子が倒れる大きな音が響き、床に打ち付けられる美歩。    驚いて振り返る風太と凪。    近くにいた店員が駆け寄ってくる。 店員「大丈夫ですか!」    風太と凪も、急いで駆け寄る。 風太「母さん!」 凪「お母さん!」    美歩、風太と凪の方を見ずに、駆け寄ってきた店員の腕を掴む。 美歩「……たす、けて」    驚いて立ち止まる、風太と凪。 美歩「たす、けて、ください」    風太と凪、立ち尽くしている。 〇月島家・庭    誰もいない庭で、水槽の中を歩いている亀。    外に出ようとしている。 〇病院・美歩の部屋(日替わり)    机に資料を広げ、ケアマネージャーと話している美歩。 ケアマネージャー「退院後は、ホームヘルプではなく、デイサービスに切り替えてみましょうか。色んな人と交流もできますし、レクリエーションの時間もあるので、新しい趣味も見つかるかもしれないですよ」 美歩「リハビリ、も、できますか」 ケアマネージャー「リハビリですか?」 美歩「……また、唐揚げ、作れるように、なりたい、です」 ケアマネージャー「(微笑んで)では、デイケアの方で申請してみましょう」    ケアマネージャーの説明を、真剣に聞いている美歩。 〇梅ヶ丘小学校・多目的室    鳴海、五十畑と向かい合って座る凪。 五十畑「月島くん、こないだのアンケートに、友だちと遊びたいって書いてたよね。いま、一番、何して遊びたい?」 凪「……つむぎちゃんの家で、みんなでゲームしてみたい」 鳴海「そっか。神保さんとは、仲直りできた?」    頷く凪。 五十畑「これからは、友達と過ごす時間もたくさん増やしていこうね」 鳴海「勉強する時間もね」 凪「えー」    嫌そうな凪を見て笑う、鳴海と五十畑。 〇月島家・居間    食卓で、パソコンの画面を見ながら、福祉課の職員二人と話す風太。    画面には、『ヤングケアラー当事者・元当事者同士の交流会』という文字の下、様々なリンク先が貼られている。 職員A「家のことや進路のことで、学校の先生や友達には話しづらいけど、だれかに聞いて欲しい時に、こういうチャットルームで相談したり、交流したりしてるの」 職員B「自分と同じ境遇の人が、ほかにもいるんだって分かるだけでも、気持ちがすごく楽になったりするから」    画面を見ていた風太、顔を上げて 風太「……それは、なんとなく分かります」    自分のスマホを見る風太。 〇病院・美歩の部屋    ベッドに寝ている美歩。 ケアマネージャー「いま、お子さんたちに対して、どういう気持ちですか」 美歩「……ありがとう、って、思い、ます。いつも」 〇梅ヶ丘小学校・多目的室    机に座っている凪。 五十畑「いま、お母さんに対して、どんな気持ち?」 凪「早く会いたい! 早く退院して、元気になってほしい!」 〇月島家・居間    食卓に座っている風太。 職員A「お母さんに対して、どんなことを思ってる?」 風太「……できることなら、身体のこと。治してあげたいって、思います」 〇海岸沿いの道(日替わり・昼)    買い物袋を持って歩く風太。    スマホが鳴り、見ると澪からLINE通話がかかっている。    急いで出る風太。 風太「佐久間?」 澪の声「おー、月島。久しぶり」 風太「……久しぶり」 澪の声「連絡返さなくてごめん。色々あってさー。あれ、月島も髪切った?」    驚いて振り返る風太。    後ろから、澪が歩いて来る。 澪「どう? 停学生活は」    笑っている澪、髪が短くなっている。 〇海岸    階段に座って話す風太と澪。 風太「じゃあ、もう今は親戚の家に住んでるんだ」 澪「そう。親戚に父親のこと、バレちゃってさー。そこの子どもはもう結婚してて、部屋余ってるからおいでって言ってくれたの」 風太「学校は?」 澪「通信制の高校に編入した。その親戚がさ、学費出すから大学行けって。勉強するの超久しぶりだから、手が腱鞘炎になった」    自分の手を見せて笑う澪。 風太「そっか。良かったな」 澪「月島は? 停学になって、怒られた? お母さんに」 風太「怒られた。すげー怒られた。あんなに怒ってる母さん、初めて見た」 澪「そっか。……愛だねえ」 風太「……うん」    海を眺める風太と澪。 澪「父親はさ、施設に入れたんだ。入所の日、母親はズルいから来なくて、私が連れてったんだけど。最後に『じゃあね。元気でね』って言ったら、お父さん、『澪』って、呼んだんだ。あたしの名前。いつぶりに呼ばれたんだろうっていうくらい、久しぶりに。それでね、『ありがとう』って言ったの。その瞬間は、病気なんて嘘なんじゃないかって思うくらい、しっかりあたしの目を見てね、言ったんだよ。なんか、その瞬間、これまでの辛かったこととか苦しかったこととか全部、本当に全部、スーッて消えた。あたし、この人の娘に生まれてきて良かったなあって、心からそう思って」    話ながら、ボロボロと涙を零す澪。    風太、黙って聞いている。 澪「もしかしたら、お父さんが言った言葉は、あたしが作り出した幻聴だったのかもしれない。でもね、それでもいいんだ。もういいって思えたんだ。もういい、あたしはあたしの人生を生きようって。いつか、お父さんを施設に入れたことを死ぬほど後悔する日が来るかもしれないけど、っていうかいまも死ぬほど後悔してるけど、でもきっと、お父さんはあたしに恨まれながら一緒に暮らすより、あたりが勝手に楽しく暮らしている方が、嬉しいと思うんだ」 風太「うん」 澪「だからあたし、大学行くよ。死ぬほど勉強して、友達といっぱい遊んで、彼氏も作って、やりたいことも見つけて。それでお父さんに会いに行って、いっぱい話してあげるんだ。全然伝わらないかもしれないけど、でも、いっぱい話してあげるんだ」    涙を拭いて、立ち上がる澪。 澪「もうあんまり会えなくなるけど、月島にもたまには連絡してあげるね」    振り返り笑う澪に、風太も立ち上がる。    風太、澪の隣に並ぶと、海に向かって 風太「頑張れよ、佐久間!」    突然叫ぶ風太に、驚く澪。 澪「(笑って)びっくりしたー。何、急に」    風太、続けて叫び続ける。 風太「佐久間ー! 頑張れー!」 澪「……頑張れー! 月島ー!」    佐久間と澪、顔を見合わせ、笑い合う。 澪「最後に学校行けて、嬉しかったよ。ありがとう」    澪、クロールの動きをしてみせながら、笑顔で去って行く。    手を振り、見送る風太。 〇月島家・外観(日替わり・朝)    デイケアのミニバンが家の前に停まる。    家の中から、車椅子に乗せた美歩を連れてくる風太と凪。    車からスタッフが降りてきて、風太に代わって美歩をミニバンに乗せる。    風太と凪、手を振りミニバンを見送る。    ミニバンが去ると、走って登校する凪。    風太も家の鍵を閉めると、自転車に乗って出かけていく。 〇総合運動場・温水プール(昼)    高校の水泳競技大会が行われている。    観客席に座る風太、スタート台に立つ暖を見つける。    競泳が始まり、勢いよく泳ぎ始める暖。    接戦したのち、一位でゴール。    タイムを見て、拳を突き上げる暖。    プールサイドで、水泳部員たち、暖に駆け寄り、笑顔で祝福している。    その様子を、静かに見つめている風太。 〇同・入口    様々な高校の水泳部員たちが出てくる中、一人で立っている風太。    梅ヶ丘高校の水泳部たちが出てくる。    風太に気付き、驚いて立ち止まる暖。    風太、暖の傍に歩いて行く。 暖「……来てたんだな」 風太「うん。おめでとう」 暖「……」 風太「それと、こないだは、ごめん」    頭を下げる風太。 暖「……はあ? 何が? っつーか、停学中の人がこんなところをうろついてていいんですかー。先生にチクっちゃおうかなあ」    ふざける暖に、ふっと笑う風太。    暖も笑顔になって 暖「風太、俺との勝負、忘れるなよ。ケチョンケチョンにしてやるからな。俺、推薦決まったら、卒業まで引退しねえから!」    大声で言う暖に、後輩たち「えー」「まじっすか」「勘弁してくださいよー」と口々に文句を言う。 暖「おいお前ら! 喜べよ!」    笑っている水泳部と一緒に、笑い出す風太。 〇月島家・美歩の部屋(夜)    風太がドアを開けると、歩行器で歩く練習をしている美歩。    風太、飲物を枕元に置く。 風太「あんまり無理しないでよ」    頷く美歩。 風太「俺、明日から学校行くから」 美歩「ちゃんと、先生に、謝って、ね」 風太「分かってるよ」    リハビリを続ける美歩。 風太「デイケア、どう? 楽しい」 美歩「たのしい。タイピング、早く打てる、ように、なってきた」 風太「そっか」    笑顔で話す美歩に、風太も微笑む。    風太、美歩のベッドに腰掛けると、俯きながら 風太「……俺、さ。大学、受験してみようかなって、思ってて」    美歩、リハビリを止めて、風太を見る。 風太「家から通えて、奨学金が出る大学、調べてみたらいくつかあったんだ。何をやりたいかとか、正直、まだ分かんないけど」    美歩、風太の前に立つと、歩行器から手を離して 美歩「風太」    と、両腕を広げる。 風太、美歩を支えるように両腕を持つと、手を振り払われる。 美歩「そうじゃない」 風太「じゃあなに」 美歩「風太」    もう一度、両腕を広げる美歩。    風太、立ち上がり、おずおずと美歩の腕の中に入る。    風太をそっと抱き締める美歩。    ゆっくり、風太の頭を撫でる。 風太「……なに。俺、凪じゃないんだけど」 美歩「風太」    ゆっくりゆっくり、風太の頭を撫でる。 風太「……もう、いいよ」    美歩、微笑んで、風太を撫で続ける。    涙を堪える風太。 〇梅ヶ丘小学校・校庭(放課後)    クラスメイトたちと、ドッヂボールをして遊んでいる凪。 男子A「凪! 行くぞー!」    ボールをキャッチし、笑顔の凪。    廊下の窓からそれを見て、微笑む鳴海。    凪、楽しそうに遊び続ける。 〇同・校門    クラスメイトたちに手を振って校庭を出る凪。    校門でつむぎが待っている。 つむぎ「凪くん、遅い」 凪「ごめん」 つむぎ「ううん。行こ!」    笑顔のつむぎに手を差し出され、照れくさそうにしながらその手を握る凪。    凪とつむぎ、手を繋いで帰る。 〇アパート・月島家・居間(夕方)    帰ってくる凪。 凪「ただいまー!」    凪、椅子に座っている美歩に抱きつく。 美歩「おかえり、凪。学校、楽しかった?」 凪「うん! 今日みんなでドッヂボールして、ぼく、最後まで残ったんだよ」 美歩「すごい、ね」    笑顔で凪の話を聞く美歩。 〇同・庭     庭に置いていた水槽を見に来る凪。    水槽の中は空っぽ。 凪「コーラ?」    庭の中を探しまわる凪。    帰ってくる風太、外から凪を見て 風太「凪? どうした?」 凪「コーラがいなくなった!」 〇家の周り    風太と凪、「コーラー」と呼びかけながら探し回るが、見つからない。    辺りが暗くなってくる。 風太「もう帰ろう、凪。コーラも、自分の家に帰ったんだよ」 凪「コーラの家は、ぼくの家だよ」 風太「きっと、新しい家を見つけたんだよ」    凪の手を取り、家へ歩き出す風太。    凪、何度も後ろを振り返りながら歩いて行く。 〇同・居間(夜)    机に勉強道具を広げ、宿題をしている風太と凪。    凪、元気がない。 風太「大丈夫だよ、凪。コーラは、新しい家で元気にやってるよ」 凪「うん……」    凪、宿題を片付けて席を立つ。 凪「おやすみなさい」    元気なく居間を出て行く凪。 〇同・玄関(日替わり・朝)    デイケアのミニバンが家の前に停まる。    車椅子に乗せた美歩を押して、家から出てくる風太と凪。    スタッフが美歩をミニバンに乗せると、風太と凪も乗り込む。 〇リハビリテーションセンター・屋内プール    美歩、スタッフと風太と凪に支えられ、プールで歩くリハビリをしている。    ゆっくりと、足を動かす美歩。 凪「お母さん、歩いてる!」    嬉しそうな風太と凪。      *   *   *    スタッフに手を引かれ、ゆっくりとだが歩いている美歩の様子を、プールサイドから見ている風太と凪。 凪「お母さん、楽しそうだね」 風太「うん」 凪「もう、ぼくたちがいなくても、平気だね」 風太「え?」    凪、プールに入り、泳ぎ始める。    プールの真ん中へ泳いでいくと、膝を抱えて、じっと水中を見つめる。    青く透き通った水の中は、しんと静か。 風太の声「もし、宇宙に放り出されたら。障害も、病気も、関係なくなる。金持ちも貧乏人も、みんな同じ、一つのあったかい光になって、宇宙の中の一つの星になる」    無音の水中で、そっと目を閉じる凪。    いつまで経っても顔を上げない凪に、心配そうな風太。 風太「……凪?」    無音の世界で、目を閉じ、たった一人で浮いている凪。    膝を抱える腕に力を込め、自分を抱きしめるように、小さく丸くなる。 風太「凪、おい、凪!」    慌ててプールに飛び込む風太。    急いで凪のそばまで泳いでいくと、凪を水中から抱え上げる。 風太の声「そうやって、また生まれるんだ」    水から顔を上げた途端、爆発したように泣く凪。    驚く風太に抱えられたまま、凪は赤ん坊のように、大声をあげて泣く。    泣く、泣く、泣く。    風太、途方に暮れたように凪を抱き締め、抱き締めながら、風太も泣く。 〇月島家・帰り道(夕方)    美歩の車椅子を押しながら、家へ帰る道を歩く、風太と凪。 美歩『夕暮れに 仰ぎみる 輝く青空』    たどたどしく、歌い始める美歩。    驚く風太と凪。    凪、嬉しそうに笑って 凪『日が暮れて たどるは 我が家の細道』    元気良く歌う凪と、目を見合わせて微笑む美歩。 美歩・凪『狭いながらも 楽しい我が家 愛の火影の さすところ』    凪、風太の手を握る。    風太、笑って凪の手を握り返す。 美歩・風太・凪『恋しい家こそ 私の青空』    家へ帰る美歩、風太、凪。    輝く夕焼けが空に広がっている。                   (了)
  • 1974年12月1日「映画の日」に制定され、第48回目を迎えた優れた映画脚本を表彰する城戸(きど)賞。本年度は、対象359作品から準入賞に「ひび」と「ぼくたちの青空」の2作品が選ばれました。 35歳、失恋して心が“ひびだらけ”の浅沼深子。一度ひび割れた心は果たして修復できるのか? 「ひび」のシナリオ全文を掲載いたします。 タイトル「ひび」竹上雄介 あらすじ  浅沼深子。35歳。恋人に捨てられてから全てが億劫だ。着替えるのも、髪をとかすのも、部屋を片付けるのも。ボサボサ髪で街を歩き回り、スーパーの値引き商品を漁り、ケガで飛べない鳥にエサをやる。フラれてからの3年間、心を閉ざし、喜怒哀楽を忘れ、生きる楽しみを失った女は、ひび割れた心をなんとか保ちながら過ごしている。  そんな時、隣の部屋に蟻田陽平(45)が引っ越してくる。手土産を持って挨拶してくるなり、怒濤の質問攻めで深子の世界にズケズケと侵入。深子の心はさらにひび割れていく。  ある夜、深子はカギをなくして立ち往生する蟻田に遭遇。自分の部屋へ入れてあげるも、部屋を漁られる。すると元カレから届いた結婚式の招待状が出てくる。一週間後に迫った元カレの結婚式。深子は恋の終止符を打つべく、出席で返事をしていた。しかしやっぱり行けない。その現実を目の当たりにしたら、自分が壊れてしまいそうで。  そんな深子に対し、無神経に質問攻めを繰り返す蟻田。深子は否応無しに人生を振り返る羽目になる。悲しくなり、怒りも募り、なんだか笑ってしまうことも。深子は蟻田に振り回されるうちに、感情を吐き出すようになる。  その最中、蟻田が「見れば嫌なことから解放される」という怪しげなソフトを売りつけていることを知る。蟻田が深子に近付いたのも、それを買わせるためだった。嫌なことだらけの深子はつい買ってしまう。しかしソフトに映っていたのは、ただただ蟻田が物を破壊する映像であり、気持ちが晴れるわけではない。深子は蟻田に文句を言うも、「あんたみたいに自分で壊せない人の代わりにやっている」と言い返されてしまう。  迎えた元カレの結婚式当日。深子は、ケガしていた鳥が懸命に空を飛ぼうとする姿を見る。アタシはこのままでいいのだろうか……。  人は誰でも簡単に心にひびが入ってしまう。しかしそれを壊さないように耐え忍ぶのではなく、時には感情を吐き出して、気持ちをリセットし、再出発すればいい。  深子は、ひびだらけの自分をぶっ壊すべく、結婚式場へと走り出した。   ◆登場人物 浅沼 深子 (35) フリーター 蟻田 陽平 (45) 隣人 佐野 匠  (9) 小学3年生 徳永 美海 (27) エステティシャン、俊介の妻 乾 一郎  (40) スーパーの店長 桜 いちご (9) 小学3年生、匠の元クラスメート リリカ   (20) スーパーのバイト 徳永 俊介 (32) 深子の元カレ いちごの父 いちごの母 リリカの彼氏 エステの女店長 警察官 住人の女 タクシー運転手 ○アパート・201号室    昼下がり。    脱ぎ捨てられた服やスーパーの袋で散らかった部屋。    カーテンの隙間から差し込む光が、布団で寝ている女の背中を寂しく照らしている。    すると外からピーッピーッと車のバック音。耳障りな人の声。ガタンガタンとうるさい作業音が響き始める。    ようやくその背中がもぞもぞと動く。    髪をくしゃくしゃに掻き乱す。    はぁーあと大きなあくびをする。    その女、浅沼深子(35)。    ×   ×   ×    隣の部屋からドンドンと物を運ぶ音がする中、薄汚いスウェット姿で部屋を物色している深子。       床に捨てられたレジ袋から、真っ黒になったバナナを見つける。 深子「(見て)……」    と、スマホのバイブ音。    美容院からのクーポン情報が待ち受け画面に表示されている。    その待ち受け画面には深子と男(俊介)のプリクラ写真。    『2019・1・21』と昔の日付け。    『ミコ』『シュンスケ』の名前がハートマークで囲まれている。    そこに写っている笑顔の深子。 ○スーパーマーケット・外観    住宅街にある小さなスーパー。    入っていく深子。    ボサボサ髪。スウェット姿のままで。 ○同・中    深子、安売りコーナーを物色中。    カゴの中には値引きシールが貼られた賞味期限ギリギリの食べ物たち。    ウロウロと漁り続ける深子。    やる気なくレジに立つリリカ(20)が蔑んだ目で見ている。    と、奥から小太りの店長・乾一郎(40)がやってきて、 乾「深子ちゃん……いいのあった?」    深子、カゴの中から黒くなりかけたバナナを掴む……が、弁当コーナーに積み上がった焼肉弁当が視界に入り、 深子「……焼肉弁当」 乾「そ、今日からまた発売開始」 深子「……いくらですか」 乾「英世ちゃんだったかなぁ」 深子「……余ったらこん中に入りますか?」 乾「売り切れると思うけどねぇ……(耳打ちして)けど、サービスしてくれんなら取っておくよ?」 深子「……サービス?」 乾「ちょちょいのペロッって」    乾、ニンマリと笑う。 ○川沿いの土手    深子、岩の下を覗き込んでいる。 深子「ご飯だぞ……シュンスケ」    そこにいたのはセキセイインコ。    元気がないのか、その場から動かない。    深子、黒いバナナを小さくちぎって、 深子「食べれるか、ほれ、ほれ……」    が、じっと座ったままのインコ。    すると、ほかの鳥たちが深子目がけて飛んでくる。    あっという間に囲まれる。    頭をつつかれ、さらにはバナナも奪われる。 深子「ちょっ……シュンスケの……返して、返してよ……」 ○アパート・前    さらにボサボサ髪になった深子、アパートへ戻ってくる。 深子「(ちらっと見て)……?」    駐車場にとまっている薄い黄色の車。 ○同・201号室~玄関    寝転がっている深子、スマホの待ち受け画面を見ている。    深子と俊介のプリクラ写真。    ハートマークを指でなぞってみる。    何度も何度もなぞってみる。    と、インターホンの音。 深子「……」    さらにインターホンが連打される。 深子「……シュンスケ?」    深子、玄関へ急ぎ、ドアを開ける。 深子「シュンスケ!」    しかし立っていたのは蟻田陽平(45)。    薄らヒゲの生えた不潔感が漂うおじさん。 蟻田「どうも、隣に越してきた蟻田っす」 深子「……」 蟻田「仲良くしましょうね」    シシシッと笑う蟻田。    顔が引きつる深子。ちょっと苦手なタイプだ。 蟻田「あ、これどうぞッ」    蟻田、白い箱を見せる。 深子「……なんですか」 蟻田「まぁまぁまぁ開けてみなはれ」 深子「いやぁ……」 蟻田「遠慮しない遠慮しない。開けて結構、コケコッコ〜」    そう言って自分で箱を開ける蟻田。    入っていたのは大きなバームクーヘン。 蟻田「この前結婚式行ったんすよ、友達の。そしたら引き出物がこれ。でもボクってバームクーヘン嫌いじゃないっすか? だからプレゼントフォーユーっす」    シシシッと笑う蟻田。     さらに顔が引きつる深子。やっぱり生理的に無理だ。 蟻田「あれれバームクーヘン嫌いでした?」 深子「あ、いや……」 蟻田「どこが嫌いっすか? 色? 食感?」 深子「いや、嫌いとかではなく……」 蟻田「ボクはあの形っす」 深子「……形」 蟻田「ボクって数学得意じゃないっすか?」 深子「……知らないです」 蟻田「なのに間違えたんすよ、高校受験で。大きい円柱から小さい円柱をくり抜いた図形の体積を求める問題」 深子「……はい」 蟻田「それで志望校に落ちちゃって……それ以来、バームクーヘンの形を見ると身体にイボイボが」 深子「……そうですか」 蟻田「でも女の人でバームクーヘン嫌いなんて珍しいっすね」 深子「……別に嫌いってわけじゃ」 蟻田「え、嫌いじゃないんすか? え、どっちっすか、どっちっすかもうッ!」 深子「……嫌いです」    深子、ドアを閉める。      ×   ×   ×    敷きっぱなしの布団に寝転がっている深子、相変わらずスマホの待ち受け画面を見ている。    SNSを開く。    慣れた手つきで『徳永俊介』と検索。    俊介がアップした写真一つ一つに目を通す……と、俊介と女(美海)が焼肉デートに行った写真が一枚。    写真を拡大し、女をくまなくチェック。    露出多めの服、オシャレな巻き髪、可愛い笑顔……そして肉を持ち上げる女の指には結婚指輪が。 深子「(指輪を見て)……」    しかし身体は肉に反応。    お腹がグーッと鳴る。    ハァと溜め息をついてスマホを放る。    と、放った先、誰かと目が合う。    散らかったタオルの下から、野口英世がこっちを見ていた。 ○スーパーマーケット・中    千円札を握り締めた深子、早足で弁当コーナーへ。    焼肉弁当がラスト一個残っている。 深子「(小さく頷き)……」    さらに早足で近付き、見事ゲット。    嬉しそうに小さく笑う。    が、隣にいた男の子・佐野匠(9)と目が合う。 匠「オラの焼肉弁当」 深子「え……」    途端に泣き始めた匠。    それを見ていた品出し中のリリカ。 リリカ「譲ったら」 深子「でも……アタシが先に」 リリカ「泣いてんじゃん」 深子「……」    深子、仕方なく弁当を匠の胸へ。 匠「(泣きながら)……いいの?」     深子、頷いたような、いないような。    しかし匠、弁当を受け取ろうとした瞬間、ニヤリと笑う。 深子「……!」    嘘泣きとわかった深子、瞬時に手に力を込め、弁当を渡さない。 リリカ「(呆れて)おばさん」    が、その言葉に力が抜け、匠に弁当をとられてしまう。 匠「ありがとう、おばさん!」    匠、レジへ走っていく。    ガックリ……いや、モヤモヤしている深子、リリカの前にそろっと立つ。  リリカ「なに」 深子「アタシ、まだ35……」 リリカ「それがおばさんだっつってんの」 深子「……」 リリカ「早く着替えろよ」    スウェット姿で立ち尽くす深子。 ○ゲームセンター(夕)    大学生たちがパンチングマシンで遊んでいる横で、メダルゲームをしている深子。    「おりゃ、おりゃ」と小さく声を出しながらメダルを流し込む。    しかし呆気なくメダルがなくなる。    そしてやっぱり、お腹が鳴る。    ○アパート・2階の廊下(夕)    深子、お腹をさすりながら201号室の前へ。 深子「?」    ドアノブに紙袋が掛かっている。    中を覗くと、見覚えのある白い箱。 ○同・201号室(夕)    バームクーヘンにがっついている深子。 深子「……悪いかよ、35で悪いかよ、なんだよ、なに着たって自由じゃんかよ、なんだよ……これうまいじゃんかよ」 ○狭い路地(夜)    アジアンエステ・『さみしがり』の小汚い看板。     ○『さみしがり』・小部屋(夜)    深子、紙パンツを履いたうつ伏せの男を施術中。 深子「……はい、仰向けです」    仰向けになる男、乾である。 乾「ねぇ、そろそろいいんじゃない?」 深子「……はい?」 乾「サービス」    乾、股間を突き上げる。 乾「入れておくからさー、焼肉弁当。明日の朝、値引きのカゴに」 深子「いやぁ……」 乾「少しでいいからさぁ。少し少し、アリトル、アリトー」 深子「……それってどこまでですか?」 乾「だから、ちょちょいのペロッって」 深子「……それはアリトーじゃないです」  乾「えー……ってかなんで買えないの?」 深子「……はい?」 乾「焼肉弁当。たかが1000円じゃん」 深子「……お金がないので」 乾「もっとシフト入ればいいじゃん」 深子「……そんな元気ないです」   乾「じゃあ他で働くとか?」 深子「ここしかないんで……家の近くにあるエステ」 乾「エステじゃなくていいじゃんって」 深子「……エステじゃないとダメなんです」 乾「なんで?」 深子「元カレの結婚相手がエステティシャンだから……」 乾「え? ……あいたたたたッ!」    思わず力が入ってしまった深子。 深子「あ……すみません」 乾「痛かったー……でもなんか気持ちかったかも」 深子「きっとお疲れなんじゃ……?」 乾「確かにストレスも溜まってるからねぇ。店長なのに少ない給料でずーっと働かされてさ……あーあ、あんな店、いっそ台風で吹き飛ばないかなぁ」 深子「……台風?」 乾「今夜来るじゃん。こんぐらいデカいの」    股間を突き上げる乾。 ○アパート・2階の廊下(夜)    大雨。    深子、へし折れた傘を閉じて2階へ。    と、202号室の前に蟻田が座っている。 深子「(目が合ってしまい)……」    が、ゆっくりと目を逸らし、そそくさと部屋に入ろうとする。 蟻田「ちょいちょいちょ〜い」    動きを止める深子。 蟻田「お隣さんなら、どうしました?くらい言うでしょもうッ」 深子「……どうしました?」 蟻田「どうしたもこうしたもないっすよ」 深子「……」 蟻田「なくしました、カギ」 深子「……カギ」 蟻田「どっかに落としたんすかね?」 深子「……知らないです」 蟻田「あぁもうどーすれば」 深子「……管理人さんに電話は?」 蟻田「あー、その手があったっすね」    スマホを取り出す蟻田。 蟻田「やべ」    と、手が滑ってスマホを床に落とす。 蟻田「この瞬間って怖くないっすか?」 深子「……はい?」 蟻田「こういう、裏っかわというか、うつ伏せの状態でスマホを落としたとき」    液晶画面が下の状態で床に落ちているスマホ。 蟻田「パッと拾えばいいだけの話なんすけどなんか勇気がいるというか……もしデータが飛んでたり、画面にひびが入ってたら、ガン萎えするじゃないっすか」 深子「……はぁ」 蟻田「じゃいきますよ、いきますよ……」    蟻田、「えいッ」とスマホを拾う。 蟻田「……セ〜フ」    と、綺麗な液晶画面を見せて、シシシッと笑う。    深子、部屋に入ろうとする。 蟻田「ちょいちょいちょ〜い」 深子「……まだなにか」 蟻田「部屋入れてくれないっすか?」 深子「……はい?」 蟻田「ベランダ開けっぱなんすよ。だから飛び移りたくて」 深子「……ヤです」 蟻田「え、なんでっすか?」 深子「部屋に入れたくないといいますか」 蟻田「まさか汚いんすか?」 深子「まさか……(苦笑い)」 蟻田「どんなに汚くても絶対に、きたなっ!なんて言わないっすよ?」 深子「別にそこを気にしてるわけじゃ……」 蟻田「あ、まさかそっちっすか?」 深子「……はい?」 蟻田「困るなぁ、そっちの心配とは……安心してください。ボク若い子好きなんで」    少しムッとした深子、今度こそ部屋に入ろうとする。 蟻田「それに食べましたよね? バームクーヘン」    動きが止まる深子。 蟻田「なのに見捨てるんすか?」 深子「……食べてないです」 蟻田「(ドアノブを見て)なくなってるじゃないっすか」 深子「……邪魔だったので捨てました」 蟻田「いや、その顔絶対食べましたよね?」 深子「いいえ……」 蟻田「ボク、嘘は嫌いです」 深子「アタシも……嘘は嫌いです」    蟻田、顔をグッと近付けて、 蟻田「美味しかったですか?」 ○同・201号室(夜)    深子、ベランダのドアを開ける。 深子「どうぞ……」    しかし部屋を見渡している蟻田。 蟻田「きたなっ」 深子「……」    蟻田、部屋を漁り始める。 蟻田「なにがあったらこんな生活に?」 深子「あの……早く飛び移ってください」 蟻田「これなんすか?」    蟻田、深子の名刺を見つける。   深子「……勝手に触らないでください」 蟻田「ここで働いてんすか?」 深子「……昔の名刺です」 蟻田「え、なんでやめたんすか?」 深子「……なんでもいいじゃないですか」 蟻田「気になります」 深子「……気にならないでください」 蟻田「そういえば気になってたんすけど、ここら辺にカフェってあります?」 深子「……質問ばっかりしないでください」 蟻田「それ聞いたら飛び移りますから」 深子「……駅前にドトールがありますけど」 蟻田「あ、これなんすか?」    蟻田、今度は白い封筒を見つける。    『浅沼深子様』と書かれた封筒。 深子「(焦って)ちょっと……」    蟻田、躊躇なく封筒を開ける。    出てきたのは結婚式の招待状。    『○月××日(日曜日)挙式 12時……』とある。 蟻田「一週間後じゃないっすか」 深子「……返してください」   蟻田「トクナガシュンスケさん……」    招待状の差出人は『徳永俊介』。 蟻田「男友達っすか?」    封筒を奪いとる深子。 深子「……誰でもいいじゃないですか」    と、スマホのバイブ音。    光っている深子のスマホ。    ネイルサロンからのクーポン情報が待ち受け画面に表示されている。 蟻田「(スマホを拾い)お、ネイルサロンからクーポンが……って、へー、意外とネイルとかするんすね」 深子「だから……」 蟻田「ってかこれ彼氏さんっすか?」 蟻田、待ち受け画面の深子と俊介のプリクラ写真を見る。 深子「いい加減に……」 蟻田「彼氏さん、イケメンっすね……え、これあなたっすか? 写り良いっすね。目細めればボクでもギリいけ……あ、え、2019年?」    『2019・1・21』の日付け。 蟻田「ってことは3年前……」 深子「……だから勝手に見ないでください」    深子、蟻田からスマホを奪う。    が、蟻田、プリクラに落書きされた『シュンスケ』の名前を見ていて、 蟻田「シュンスケ……あれ、さっきの招待状も確か……あ、ってことはもしかして元カレっすか? で、元カレから招待状が届いたってことっすか?」 深子「……いいえ」 蟻田「あれ、嘘は嫌いなんじゃ?」 深子「……」 蟻田「え、行くんすか? 式」 深子「……」 蟻田「え、もしかしてまだ好きなんすか?」 深子「……早く飛び移ってください」 蟻田「もうもうもう〜、その感じ未練たらたらじゃないっすかもうッ」 深子「もう……警察呼びます」    深子、スマホで『110』を押す。 蟻田「警察ってもう……わかりやしたよ〜」    蟻田、ようやくベランダへ。    雨が激しく降っている。 蟻田「これ、足滑ったら死ぬっすね……」 深子「はい」 蟻田「はいって」 深子「死んだらそこらへんに埋め……あ」    何かを思い出す深子。    慌てて部屋に戻ってテレビをつける。    ニュース速報。    各地の河川状況が映っている。 テレビ音声「不要不急の外出は控え、家で安静に過ごしましょう」    『大雨警報』の文字。 深子「……死んじゃう」 蟻田「え?」 深子「……シュンスケが死んじゃう!」    深子、ダッシュで玄関へ。 蟻田「?」    バタンとドアが閉まる。 ○川沿いの土手(夜)    激しい雨。    へし折れた一本の傘に入って歩いている深子と蟻田。 蟻田「どこ行くんすか?!」 深子「……ついてこないでください」 蟻田「警報出てるっすよ?!」 深子「……だから助けに来てるんです」 蟻田「助けにって……シュンスケさんがこんなところにいるんすか?」    二人、言い合いながら川へ到着。    川の流れが速い。 深子「シュンスケ……」    深子、川に駆け寄る。 蟻田「……危ないっすよ?!」    深子、岩の下を覗き込むも、インコはいない。 深子「シュンスケ、シュンスケどこ……シュンスケ!」    深子、スマホを放って川に入っていく。 蟻田「ちょっ……なにしてんすか!」    浅瀬で溺れる深子。    不器用に助ける蟻田。 ○屋根付きベンチの中(夜)    蟻田、頭をトントン叩いて耳に入った水を抜いている。 蟻田「(ちらっと見て)……」     びしょ濡れのまま座っている深子。 蟻田「平気っすか?」 深子「ケガしてたんです……」 蟻田「え?」 深子「シュンスケ……」 蟻田「シュンスケ……えっと、どっちの?」 深子「インコのほうですよ……なんでわからないんですか」 蟻田「鳥に元カレの名前つけるからっすよ」 深子「だからシュンスケは飛べないんです。もし流されたら……」 蟻田「そんなに大事なインコなんすか?」 深子「……仲間です」 蟻田「仲間?」 深子「実は……結婚しようって言ってくれてたんです」 蟻田「インコが?」 深子「元カレが」 蟻田「(モヤモヤ)……」 深子「でも5年も付き合って、結婚式の話もしてたのに、急に別れようって……なんか他に付き合ってた人がいたらしくて、どうやらアタシは二番目の女で、それはつまり、嘘をつかれていて……」    頭を叩きながら片手間に聞く蟻田。 深子「けど諦められなくて、いつか戻ってきてくれるかもって待っていたら、結婚式の招待状が届いて……それからは、働くのも、着替えるのも、髪とかすのも、全部面倒臭くなって、もう死ぬのもありかなぁって川に行ったら、シュンスケがいたんです」 蟻田「……」 深子「すぐ意気投合しました。傷を負った者同士、心が通じ合ったのかなって……」    頭を叩いていた蟻田、ようやく耳から水が出てシシシッと笑う。 蟻田「引きずりすぎじゃないっすか?」 深子「……」 蟻田「別れたの、3年前っすよね?」 深子「……そんなすぐに断ち切れないです」 蟻田「でも浮気されてたんすよね? なのにまだ好きなんすか?」 深子「……5年付き合ってたんですよ? 5年……アタシは本気だったんです。シュンスケと結婚するって決めたんです」 蟻田「元カノを式に呼ぶような無神経な男でも?」 深子「でも、深子は俺にとって大切な存在だから来て欲しい……って言ってくれました」 蟻田「沼ってますねぇ……ならもうこの際、取り返せばいいじゃないっすか」 深子「……え?」 蟻田「結婚式までは一週間。まだ猶予があるじゃないっすか」 深子「でも取り返すって……?」 蟻田「シュンスケの家に押しかけるとか?」 深子「そんな無礼なことしたら嫌われます」 蟻田「もう嫌われてんじゃ?」 深子「……はい?」 蟻田「あぁいや……じゃあ逆に女のほうに会いに行って、宣戦布告でもしてくればいいじゃないっすか」 深子「……宣戦布告?」 蟻田「取り返しにきたぞー!って」 深子「取り返しにきたぞー……?」 蟻田「ちなみに相手の女のことは知ってるんすか?」 深子「少しだけですが……」 蟻田「少しだけ?」 深子「……27歳の乙女座でB型。月火休みのエステティシャン。結婚するまでは麻布住み。麻布といっても、ユニットバスの激ダサ物件。犬を一匹飼っているが、これがまた絶妙にブサイクでざまあみろ」 蟻田「……ざまあみろ?」 深子「趣味はピラティスだがヒップラインを見せたいだけのミーハービッチ。麦焼酎が好きで頭の悪そうな友人とバーに行くこともしばしば。しかしお酒以上に自分が好きで、結婚したのに百年の孤独を呑んでる自分に酔いしれる」 蟻田「……全部調べたんすか?」    深子、スマホでSNSを開く。    慣れた手つきで『mimi』と検索。    美海のアカウントを見せる。    麻布の風景、家の写真、犬の散歩の写真、身体のラインが強調されたピラティスの写真、『百年の孤独』のボトルを片手に友人と微笑む写真など。 蟻田「なるほど……でも綺麗な人っすね」 深子「……え?」 蟻田「顔もスタイルもよくて」 深子「顔とスタイルがいいだけです」 蟻田「その二つって大事」 深子「はい?」 蟻田「あぁいや……さすがにこれは相手が悪いというか、やっぱりやめたほうがいいっすね。宣戦布告なんて」 深子「……」 蟻田「ここは大人しく引き下がりましょう。引き下がって寝ましょう。メシ食って風呂入ってクソして寝れば、大抵のことは忘れられるっすよ?」   深子「……」 蟻田「聞いてます?」 深子「はい……そうですよね。宣戦布告なんて……」    雨雲に覆われた夜空を見上げる深子。       ○高層ビル・前(日替わり)    高層ビルを見上げる深子。    高級エステ・『Happy Beauty SPA』の綺麗な看板。 深子「(小さく頷き)……」    ○『Happy Beauty SPA』・待合室    ふかふかのソファに座っている深子。    緊張した様子で待っている……と、徳永美海(27)が入ってくる。 美海「お待たせしましたぁ。担当の徳永美海で~す」    可愛くてスタイル抜群の美海。    おまけに萌え声。 美海「本日はよろしくお願いしまぁ~す」 美海、深子の真向かいに座る。    胸の膨らみが目立つ。    深子、負けじとグッと胸を張る。 美海「えっと~ご予約した深子さんですね。え〜ミコって名前可愛い〜!」 深子「……」 美海「あ、美海の名前は美海で~す。あれ、なんかヘン? あ、美海、自分のこと美海っていうんですよ~!」 深子「……」 美海「ってか~、なんか美海たちって卓球のペアみたいですね~。深子と美海で、ミコミミペアみたいなぁ……サーッ!」 深子「……」 美海「あ、すみませ~ん、なんか盛り上がっちゃいましたね~。さ、仕事仕事!」    しばし圧倒される深子。 美海「えっと~、深子さんは~、どうして今日エステに来たんですか~?」 深子「……忘れられなかったからです」 美海「忘れられなかったぁ?」 深子「……メシ食って風呂入ってクソして寝たのに、忘れられなかったからです」 美海「クソ食ってメシ入って……?」 深子「メシ食って風呂入って」 美海「クソ食って風呂入って……?」 深子「メシ食って風呂入って」 美海「クソ食って……」 深子「もういいです」 美海「えええ、どゆこと~? 美海、わかんなぁ~い」 深子「とにかく……取り返しにきたぞー」    弱々しい宣戦布告をした深子。 ○同・小部屋    美海、うつ伏せの深子を施術中。 美海「深子さんは〜、普段は何をされてるんですかぁ〜?」 深子「普段は……特に」 美海「え、何もしてないんですか〜?」 深子「強いて言うならインコにエサを……」 美海「インコ〜? えええ、もしかしてペットショップの店員さんですか〜?」 深子「違いま……」 美海「可愛い〜。美海もやってみた〜い。ペットショップの店員さんって〜……」 深子「あの、違います」 美海「え〜?」 深子「ペットショップの店員じゃないです」 美海「あ、すみませ〜ん。美海、こういうところあるんですよ。おっちょこちょいっていうか〜、ダーリンにもよく怒られて」 深子「……ダーリン」 美海「あ、そうなんですよ〜。(小声で)実はここだけの話、美海、最近結婚して〜」 深子「結婚……」 美海「ありがとうございます〜」 深子「……どんな人なんですか?」 美海「え〜?」 深子「その……ダーリンは」 美海「う〜ん、どんな人かなぁ〜」 深子「……どこが好きなんですか?」 美海「え〜、どこかなぁ〜」 深子「……どうして結婚したんですか?」 美海「え〜、なんでだろう〜」 深子「結婚して良かったですか? お互い不満はないですか? 別れる気は……」 美海「怖い怖い怖い〜、質問ばっかり〜!」 深子「あ、すみません……質問ばっかりは怖いですよね……でも教えてください。少しでいいんで教えてください……!」 美海「少しって言われても〜」 深子「少し少し、アリトル、アリトー」 美海「そんなにぐいぐい聞いてくると、美海もぐいぐいしちゃいますよ〜?」 深子「え? ……あいたたたたッ!」    ○道    腰を押さえながら歩いている深子。 深子「痛ってぇ……」    渡された名刺を見る。    『徳永美海』の名前と『またのご来店お待ちしてまぁ〜す』のコメント。 深子「……二度と行くか」    名刺をくしゃくしゃに丸めて向こうに投げる……と、向こうの洋菓子店に長蛇の列。 深子「?」    列の先頭に蟻田の姿。    バームクーヘンを買っている様子。     その満足げな顔。 深子「バームクーヘン嫌いなんじゃ……」    と、身体がバームクーヘンに反応。    お腹がグーッと鳴る。 深子「あぁ……」    腰と腹を押さえながら歩く深子。 ○スーパーマーケット・中〜外(夕)    深子、安売りコーナーを物色中。    レジ当番のリリカ、相変わらず蔑んだ目で見ている。    深子、ウロウロと漁り続ける……と、弁当コーナーに焼肉弁当がラスト一個残っている。    ポケットに手を突っ込むと、あの時の千円札が入ったまま。 深子「(小さく頷き)……」    一歩踏み出す。    が、またしても匠がやってくる。 深子「あ」    匠、悠々と焼肉弁当をとる。 深子「あぁ……」    しかし不審な動きで周りを見渡している匠。    次の瞬間、弁当を服の中に入れた。 深子「!」    リリカの前を堂々と歩く匠。     が、仕事中にも平然とスマホをいじっており気付いていないリリカ。    匠、店を出る。    深子、サササッと追い、匠の腕を掴む。 深子「ねぇ……」 匠「(振り返り)……」 深子「盗った……よね?」 匠「……」 深子「……君いくつ?」 匠「なーんだ、おばさんか」 深子「……え?」 匠「ってかセクハラ」    深子、匠の腕を放す。 匠「いきなり腕をわし掴み、舐め回すように身体を見ながら、君いくつ?って……署までご同行願えますか?」 深子「……は、なんでアタシが警察に」 匠「ヤなら泊めて」 深子「……泊める?」 匠「今家出中。だから泊めて」 深子「そんなの無理に……」 匠「じゃ警察行きましょう」 深子「え、いや……罪逃れたいからって適当なこと……」    途端に泣き始める匠。 深子「……どうせまた嘘泣きでしょ」    が、通りかかったサラリーマンに怪訝な顔で見られる。    深子を指差して泣きじゃくる匠。 深子「わかった、わかったから……見逃したことにするから……」    匠、一瞬泣き止んで、 匠「じゃあ泊まってもいい?」 深子「それは……無理」    再び泣きわめく匠。    サラリーマンが深子に近付いてくる。 深子「……」 ○アパート・201号室(夕) 深子「……」    呆然としている深子。    視線の先、ムシャムシャと焼肉弁当を食べている匠の姿。 匠「感謝しろよ。被害届け出さなかったんだから」    深子「……で、君は誰?」 匠「君って言う人嫌い」 深子「だって名前知らないし……」 匠「だって聞かれてないし」 深子「じゃあ名前は?」 匠「え、言う必要なくね?」 深子「……聞かれても答えないじゃん」 匠「これうっめぇ〜」 深子「親に連絡は?」 匠「家出中なのに?」 深子「……じゃあなんで家出してんの?」 匠「じゃあマイナンバー教えてくれたら言ってあげる」 深子「じゃあ……結構です」 匠「じゃあ家泊めてくれる代わりに一口あげるよ」 深子「……え?」 匠「好きなんでしょ? 焼肉弁当」 深子「(迷うも)……いらない」 匠「そ」    見せつけるように肉を頬張る匠。       お腹がグーッと鳴る深子。 深子「やっぱ一口……」 匠「もうダメ」 深子「……」   匠「ってか好きなら自分で買えば良いじゃん……っていう暮らしでもないか」    部屋を見渡す匠。 匠「なんか可哀相になってきたから、ご飯ならあげる。肉ワンバンさせたご飯」 深子「……」 匠「肉はダメだよ」    匠、深子に弁当を渡す。    深子、タレがついた白米を一口分とって、しばし眺める。    そしてゆっくりと口に入れる。    深子「美味しい……美味しい美味しい」 匠「(笑い)そんなに?」 深子「……思い出の味だから」 匠「え?」 深子「……シュンスケと食べた思い出の味」 匠「……シュンスケ?」 深子「付き合った1年目の記念日に、牛角行って……けど、激混みで入れなくて、でもお腹空いてたから、この焼肉弁当買って、公園のベンチで食べたの……」 ○(回想) 公園(夜)    ベンチに座っている深子と俊介(32)、焼肉弁当を食べようとしている。 俊介「あんなに混んでるとはなぁ」 深子「予約すればよかったね」 俊介「な……結局こんな小ちゃい弁当かぁ」 深子「また今度行こうよ!」 俊介「よしっ……今日はこれで我慢してやるか! いただきまーす!」 深子「……いただきます!」    焼肉弁当を一口食べる二人。    瞬間、口に含んだまま、すぐに目を合わせて、 深子・俊介「うっめぇ〜!!」   深子の声「それがすごい美味しくて、美味しくて、美味しくて……」 ○元の201号室(夕) 深子「……楽しかった」    米を口に含んだまま、思い出す深子。 匠「もう別れちゃったんだ」 深子「……」 匠「恋ってムズかしいよね」 深子「……知ったような言い方」 匠「おばさんよりは知ってると思うけど」 深子「ってか……おばさんってやめて」 匠「おばさんはさ、シュンスケのことまだ好きなの?」 深子「……」 匠「まだ諦めてないの?」    少しの間。     深子、答えず、ふらっと立ち上がる。 匠「どこ行くの」 深子「バイト……それ食べ終わったら、お家帰りなよ」    バタンとドアが閉まる。 ○狭い路地(夜)    『さみしがり』の小汚い看板。    数カ所にひびが入っている。 ○『さみしがり』・小部屋(夜)    深子、うつ伏せの乾を施術中。 乾「え、その……元カレの結婚相手に会ってきたの?」 深子「……はい」 乾「なんでまた?」 深子「……宣戦布告をしに」 乾「宣戦布告?」 深子「……でも、ボロ負けでした」 乾「そんな強敵だったの?」 深子「はい……頭はぶっ飛んでて、声はかっ飛んでました。おまけに、またのご来店お待ちしてまぁ〜すとか……二度と会いたくもないのに、仰向けです」 乾「仰向け? あぁ……」    乾、仰向けになる。 乾「でも、会うじゃん」 深子「え?」 乾「結婚式で。招待状来たんでしょ?」 深子「あぁ……」 乾「行ったら会っちゃうね。しかも3万も払わなきゃいけないし」 深子「3万……」 乾「ご祝儀。相場は3万でしょ? 3万も払って元カレの結婚式はキツいなぁ」 深子「……」 乾「なんか深子ちゃんの気持ち考えたら、すんごい萎えてきた。ほら」    乾、股間を振る。 乾「サービスは?」 深子「……」 乾「焼肉弁当、もう余ったやつ無料であげるからさ、サービスしてよ」 深子「あ……」 乾「食べたいんでしょ?」    思い出して口を拭う深子。  深子「じゃあ……サービスしたら、焼肉弁当もらったことにしていいですか?」 乾「うん……ん? もらったこと?」 深子「じゃあ……いきますよ」 乾「え……あ、うん!」    股間に意識を集中させる乾。 深子「では……ごちそうさまでした……!」    深子、思い切り乳首をつねる。 乾「いたぁぁぁぁあい!!!!!!」 ○アパート・2階の廊下(夜)    深子、階段をのぼって部屋の前へ。 深子「……?」    部屋に入ろうとするが、中からドンドンとうるさい音がする。 ○同・201号室(夜)    深子、入ってくる。    と、蟻田と匠がプロレスをしている。    匠、蟻田をサソリ固めした瞬間、突っ立っていた深子と目が合う。 匠「あ、お帰り」 深子「……なにしてんの」 匠「プロレス」     「ギブギブ」と床を叩く蟻田。 匠「よっし、オレの勝ち!!」 蟻田「痛ってぇ……」    深子、蟻田を睨む。 深子「……なんでいるんですか?」    蟻田「え、開いてたんで…(腰を押さえて)いてててて……」 深子「……なんでですか」 蟻田「なんでって、サソリ固めかけられたから痛いんすよ」 深子「じゃなくて、なんで勝手に入るんですか?」 蟻田「だからカギ開いてたんでちょっと覗いてみたら、このガキが出てきて入れてくれたんすよ」    深子、今度は匠を睨む。 深子「……なんで帰ってないの?」 匠「家出中だから」 深子「……なんで入れたの?」 匠「シュンスケかと思って」 深子「……は?」 匠「見た目的にもおばさんとお似合いだったからさ」    膝から崩れ落ちる深子。限界だ。 深子「もう……通報します」 蟻田「通報しても捕まるのそっちっすよ」 深子「……はい?」 蟻田「弁当万引きしたそうじゃないっすか。しかも子どもまで誘拐して……このゴミ部屋、その服装、ボサボサ髪、あなた疑われたら一発っすよ」 深子「万引きしたのはアタシじゃないです」 蟻田「でも食べたんすよね?」 匠「ばっくばく食ってた」 深子「いや一口……でも、弁当はさっき店長から許可を得たんで平気です」 蟻田「許可?」 深子「あと誘拐なんてしてないです。家出の理由聞いても言わないし……」 蟻田「(匠に)え、言ってないの?」 匠「このおばさんに恋愛相談してもねぇ」 蟻田「確かにアドバイスできないよなぁ」 深子「……?」    深子を見てクスクスと笑う二人。 匠「とにかく明日よろしくね。車」 蟻田「えー」 匠「だって負けたじゃん!」 蟻田「ったよ……(深子に)あなたも明日来てくださいね」 深子「……どこにですか?」 蟻田「さっきそう決まったんで」 深子「……なにがですか?」 蟻田「だってどうせ暇っすよね?」 深子「……だから何があるんですか?」 蟻田「では迎えにきますんで」 深子「……会話できないんですか?」 蟻田「了解っす、じゃ明日!」    バタンとドアが閉まる。      ×   ×   ×    布団に横になっている深子。    タオルを布団代わりにして横になっている匠。 深子「告白?」 匠「うん」 深子「その……ずっと好きな人に?」 匠「桜いちごちゃん」 深子「まとめると、そのずっと片想いしてた桜いちごちゃんに想いを伝えるため、明日会いに行く……ってこと?」 匠「いちごちゃんは一ヶ月前に転校して、茅ヶ崎ってとこに引っ越しちゃったんだ。そんでおじさんに車出してってお願いしたら、プロレスで勝ったらいいよって」 深子「……家出は?」 匠「最初は母ちゃんに車出してってお願いしたんだけど、断りやがったから。子どもの恋愛だからってバカにして……だから子どもらしく万引きでもして、迷惑かけてやろうって思ったの」 深子「それであんな堂々と万引きを……でもちゃんと連絡しなよ。このままじゃアタシ、誘拐犯になる」 匠「……わかったよ。友達ん家泊まるってラインする」    匠、スマホをいじる。    と、待ち受け画面がいちごちゃんらしき女の子の写真である。 深子「(見て)……」    匠と自分を重ねてしまった深子、しばし見つめる。 匠「……どうしたの?」 深子「ううん……(ごまかして)そのタオルじゃ痛いでしょ?」 匠「え?」 深子「これ使う? アタシが床で寝るから」 匠「その布団はいい」    至る所にシミがついた布団。 深子「……汚いもんね」 匠「だってシュンスケの温もりがいっぱい詰まった布団でしょ?」 深子「……え?」 匠「だからオレはこっちでいい」 深子「……」 匠「おばさん、明日見せてあげるね」 深子「?」 匠「諦めなければ、絶対に成功するところ」 深子「……」    ニッと笑う匠。 匠「おやすみ」 深子「おやすみ……」    布団をギュッと抱く深子。 ○高速道路(日替わり)    走っている薄い黄色の車。 ○走る車の中    運転席に蟻田、助手席に匠が座っている。 蟻田「ってかよう、いちごのライン知ってんだろ? だったらラインで告白しろよ」 匠「せっかく住所聞いたんだもん。それに気持ちはビシッと直接伝えたいし」 蟻田「あーあ、手加減しなきゃ良かったよ」 匠「してなかったじゃん」 蟻田「してなかったら逆水平からのコブラツイストからのナガタロック2でスリーカウントだよ」 匠「なにそれ」 蟻田「つーか、いちごは彼氏いねぇのか?」 匠「いても奪うから平気!」 蟻田「おー……見習って欲しいもんだねぇ」    と、バックミラーを見る。    後部座席に深子が座っている。 蟻田「もしや久しぶりの遠出っすか?」 深子「……だったらなんですか?」 蟻田「冬眠してたクマみたいな顔して」 深子「……どんな顔ですか」    と、眩しそうに外を眺める深子。 ○住宅街    車がとまる。 ○車の中    向こうの一軒家を見る深子、蟻田、匠。 蟻田「あの家だな」    表札に『桜』。 蟻田「よし、行ってこい」 匠「え?」 蟻田「え?って、告白すんだろ? ほら!」    無理矢理に車から降ろされた匠、おどおどしながら家の前へ。    車の中から見守る深子と蟻田。    しかし突っ立ったまま、なかなかインターホンを押さない匠。 蟻田「なにやってんだ」 深子「……?」    と、匠が車に戻ってくる。    匠「おしっこ」   ○ファミレス    トイレから出てきた匠、深子と蟻田が座っているテーブルへ。 匠「お待たせーい」    テーブルの上にいちごパフェ。 匠「お、きたきた。いっただっきまー……」   蟻田「ちょっと待て」 匠「ん?」 蟻田「お前、アレだな。ビビってんな」 匠「え?」 蟻田「だから逃げたんだろ?」 匠「……急に尿意がしただけだし」 蟻田「フられるのにビビって逃げたか……なにがビシッと伝えたいだ」 匠「……」 蟻田「女なんて強引にハグしてチューすりゃ一発だよ。サッサと告っちまえ」 深子「……告白って、そんなにサクッとするもんじゃないかと」 蟻田「え?」  深子「だからそんなにサクッと……」 蟻田「もしや同情したんすか?」 深子「……はい?」 蟻田「あなたも逃げてばっかっすもんね。フられた現実から逃げて逃げて逃げて……もしかして鬼ごっこしてんすか?」 深子「……どういうことですか?」 蟻田「現実という鬼から逃げて、冬眠中のクマみたいにずっと部屋に隠れてるじゃないっすか……ってあれ、かくれんぼもやってます? 楽しそっすね〜」    と、隣のテーブルに座る三人家族がひそひそ話をしている。 父「なんの言い合いだ?」 母「ヘンな夫婦喧嘩」 深子・蟻田「……夫婦?」    その家族を睨む深子と蟻田。    と、いちごパフェを食べていた匠が立ち上がる。 匠「……いちごちゃん?!」    父と母と一緒にいた、桜いちご(9)。    その家族、いちごの家族であった。 いちご「匠くん?」 母「お友達?」 いちご「前のクラスメート」 母「あら……お世話になっております〜」   深子「あ、えっと……お世話になっております〜……」 母「家族でお出かけですか?」 深子「えぇ……」    無理矢理に笑顔を作る深子と蟻田。 蟻田「あ……ちょうどよかったっす! 娘さんのこの後のご予定は?」 母「……予定?」 蟻田「(匠の肩を叩き)うちの息子から一世一代の大事な話があるみたいで」 匠「おじさん……!」 母「いちご、匠くんから一世一代のお話があるみたいよ」    テンパる匠。      匠「ちょっと……まだ心の準備が……あぁもう、おしっこ!」 ○公園    うじうじと立っている匠。    髪の毛をいじっているいちご。    その二人をジャングルジムから隠れて見ている深子と蟻田。 蟻田「いけっ、いけっ」 深子「……あんなパスじゃいけないですよ」 蟻田「あぁでもしないと告んないっすから」 深子「あと……300円いいですか?」 蟻田「はい?」 深子「ファミレスのパフェ代600円、アタシが立て替えたんで」 蟻田「割り勘っすか? それぐらい払ってくださいよ……え、まさかっすけど、あんまお金持ってない感じっすか?」 深子「持ってても払いません……あなたが負けたんですから、サソリ固めで」 蟻田「あ、始まるっすよ」    もじもじしていた匠、勇気を出して、口を開く。 匠「あの……」 いちご「ごめんなさい」 匠「……え?」 いちご「匠くんとは付き合えません」 匠「まだ何も言ってないけど……」 いちご「告白しに来たんじゃないの?」 匠「え、まぁ……」 いちご「ってか似てないね。お父さんと」 匠「お父さん? あぁいやあれは……」 いちご「お父さん、カッコ良かった」 匠「……え?」 いちご「匠くんみたいにうじうじしてなくてさ。一世一代の話がある!って誘い方も、ザ・男!って感じがして……私ああいう男らしい人がいい。強引にハグしてチューしちゃうくらいの」 匠「……」 いちご「まぁ一世一代じゃないけどね。だって何回目? 私に告白するの」 匠「えっと……1、2、3…6、7?」 いちご「15回目」 匠「……」 いちご「しつこい!」 ○海・浜辺(夕)    どこへ向かうわけでもなく、走っている匠。    追いかけている深子と蟻田。 蟻田「おーい!」 深子「待ってー……」 蟻田「ったく鬼ごっこかよ……にしてもまさか15回目とは」 深子「それは……まさかです」 蟻田「よくあんな発狂できんな……普通慣れんだろうよ」    「わー!」と叫びながら走っている匠。      ×   ×   ×    打ち寄せる波の音。    石段の上に並んで座っている三人。    沈黙。    泣いているのか、俯いている匠。 深子「……大丈夫?」 蟻田「シッ!」 深子「でも慰めてあげたほうが……」 蟻田「いいから黙って」 深子「……じゃあ今はなんの時間ですか?」 蟻田「黙って海を見る。何も語らない。それ で良いんすよ」 深子「普通逆じゃ……」    再びの沈黙。    と、いびきが聞こえる。 深子・蟻田「?」    だらんと横になる匠、ずっと寝ていたようだ。 ○走る車の中(夜)    後部座席で爆睡している匠、大きないびきをかいている。    深子、助手席から外を眺めている。    と、運転席の蟻田が、紙パックのいちごジュースを取り出す。 蟻田「どうぞ。ファミレスのお返しっす」 深子「……現金で返してください」 蟻田「現金は生々しいじゃないっすか。あ、生々しいついでに聞きたいんすけど、貯金額ってどれくらいっすか?」 深子「……はい?」 蟻田「バイトしてたっすよね? 使い道もなさそうだし、結構貯まってんのかなって……ズバリいくらっすか?」 深子「……いきなりなんですか」 蟻田「いいから教えてくださいよ。ドライブする仲じゃないっすか」 深子「ドライブじゃないです」 蟻田「照れない照れない。で、貯金額は?」 深子「しつこいです」 蟻田「いえ、ボクは男らしいっすよ。byいちごちゃん」    いちごジュースにストローをさしてチュッチュと飲む蟻田。 蟻田「しかしあなたも早く切り替えたほうがいいっすよ?」 深子「……」 蟻田「見ましたよね? どんなに好きでも、何回告っても、無理なもんは無理。サクッと諦めて、新しい相手を探したほうがいいんすよ」 深子「……」 蟻田「アプリでもやったらどうっすか。あ、ボクいいアプリ知ってますよ……なんてやつだっけな」    蟻田、スマホを取り出す……が、手が滑ってスマホを落とす。 蟻田「あ、すいやせん、とってくれます?」    深子の足元に、液晶画面が下の状態で落ちたスマホ。 深子「(見て)……前に言ってましたよね?」 蟻田「はい?」 深子「スマホを落とした時、拾うのが怖いって」 蟻田「……え?」 深子「もし画面にひびが入ってたらガン萎えするって」 蟻田「そんなこと言いましたっけ?」 深子「あれ、逆ですから……」 蟻田「逆?」 深子「ガン萎えするのはスマホのほうですよ……ある日突然地面に落とされて、ひびまで入る羽目になって……なのになんで落とした側のあなたがガン萎えするんですか? ガン萎えなのはスマホのほうですよね? ある日突然ポイって捨てられて、身体中ひびが入って……ガン萎えなのはアタシのほうですよ……」 蟻田「……」 深子「アタシは、自分が崩れないように、これ以上ひびが入らないように、なんとか保ってるんです……穏やかに休憩してるんです……それのどこが悪いですか?」 蟻田「別に悪いとは……」 匠の声「おじさん、ここら辺でいいよ」    目覚めた匠、窓の外を見ている。 蟻田「おぉ起きたか……大丈夫か?」 匠「うん……なんかスッキリした」 蟻田「あんだけ走ってあんだけ叫んであんだけ泣きゃ、スッキリするわな」    一方、浮かない顔で座っている深子。 ○道(夜)    向こうで手を振っている匠。 匠「またねー!」    匠、走って帰っていく。    見送った蟻田、車に戻ろうとするが、 蟻田「どこ行くんすか?」    匠とは逆方向に歩き出している深子。 深子「……アタシもここで結構です」 蟻田「ここからじゃ遠いっすよ?」         無視して歩く深子。    追う蟻田。 蟻田「なんすか、怒ってんすか?」 深子「……ほっといてください」 蟻田「え、まだファミレスの300円、根に持ってんすか?」     と、そこにカップルが通りかかる。 リリカの声「あ、バナナおばけ」 深子「(気付いて)……」    その女、リリカである。 彼氏「なに、バナナおばけって」 リリカ「うちのスーパーにさ、賞味期限ギリギリのやつが入ってるカゴがあんの。で、その周りをさ、毎日髪ボサボサのままウロウロしててさ、結局黒くなったバナナを買ってくの」 彼氏「(笑い)それでバナナおばけ」 リリカ「同情すんじゃね? 旬が過ぎたバナナ見ると」 深子「……」 リリカ「たまには野菜食えっつーの」    突っ立ったままの深子。    リリカ「ってかウケる。彼氏いたんだ」 彼氏「旦那さんじゃね?」 リリカ「ないない。あんな女が結婚できるわけねぇじゃん」    そう言い放ち、去っていくリリカ。 蟻田「知り合いっすか?」 深子「……」 蟻田「ちょっとは言い返せばいいのに……悔しくないんすか?」    黙ったままの深子。    深子の表情を見た蟻田、リリカを追う。 蟻田「ねぇ」 リリカ「(振り返り)なに」 蟻田「ちょっと言い過ぎじゃ……?」 リリカ「は?」 蟻田「とりあえず謝りましょ」 リリカ「なんで?」 蟻田「いいから謝りましょ」 リリカ「いや、もういないけど」 蟻田「……え?(と、後ろを振り返る)」    既に向こうへ歩き去っていた深子。 ○アパート・201号室(日替わり)    陽が差し込んでいる。    歩き疲れたのか、ぶっ倒れるようにして布団で寝ている深子。          ×   ×   ×    深子、部屋を物色中。    レジ袋から、黒くなったバナナを見つける。 深子「(見て)……」 ○スーパーマーケット・中    買い物カゴに白菜やらネギやら野菜を    突っ込んでいく深子。       乾がやってきて、 乾「おはよー……ど、どうしたの?」    深子、リリカのレジへ突き進み、野菜で溢れたカゴをドンッと置く。 リリカ「んだよ」 深子「バナナは……黒いほうが甘くて美味しいから……」 リリカ「……は?」    深子、一万円札をパンッと置く。 深子「釣りはいらねぇ……!」    ○コンビニ・中    ATMの前に立っている深子。    両手にはスーパーの袋。    ネギが何本も飛び出ている。  深子「(画面を見て)……やっちまった」    貯金残高は3万円ほど。     ハァと溜め息する深子。 ○川沿いの土手    スーパーの袋を置いて、岩の下を覗き込んでいる深子。    インコはいない。    さらにハァと溜め息する深子。 ○道    スーパーの袋を重そうに持って歩いている深子。 深子「(何かに気付いて)……」    カフェのテラス席に蟻田がいる。 ○カフェ・テラス席    蟻田、向かいに座る男に熱弁中。 蟻田「ストレス溜まってないっすか? っすよね? 溜まってるっすよね? じゃあ買いましょ。毎日30分これ見て寝るだけ! 簡単でしょ?」    蟻田、男にDVDソフトを渡す。 蟻田「そうすれば、ヤなことから全部解放されるっすよ! 解放解放!」    シシシッと笑っている蟻田。    物陰に隠れて盗み聞きしていた深子。 ○狭い路地(夜)    『さみしがり』の小汚い看板。    以前よりもひびが増えている。 ○『さみしがり』・控え室(夜)    びりびりに破れかけたソファで待機中の深子。    他にも若い女の子が数人いる。       女店長が入ってきて深子のもとへ。 女店長「3番にフリーのお客さん」 ○同・小部屋(夜)    深子、うつ伏せの乾を施術中。 深子「……はい、仰向けです」    仰向けになる乾。 乾「深子ちゃんってさ、毎週何曜日にシフト入ってんの?」 深子「……特に決まってないですが」 乾「じゃあ僕たちってすごい運命だね!」 深子「……え?」 乾「僕がここ来るといつも深子ちゃんが担当してくれるじゃん? すごくない? 僕フリーで入ってんだよ?」 深子「……ですね」 乾「ねぇねぇライン教えてよ」 深子「……すみません、あまりスマホを見ないもので」 乾「えぇ、そんな人いる?」 深子「はいー……」 乾「教えてよー、お願い、お願ーい」 深子「だからあまり見ないもので……」 ○アパート・201号室(夜)    スマホの待ち受け画面を凝視する深子。    深子と俊介のプリクラ写真。 深子「(じっと見て)……」 ○(回想) 同・同(夜)    鍋をつついている深子と俊介。 俊介「正月さ、実家帰るんだけど、来る?」 深子「え?」 俊介「いやぁ、ほら、挨拶がてら……」 深子「(遮り)行く! 絶対行く! え、なに着てこう……その前に美容院だ、あとネイルも予約しないと!」 俊介「(笑い)そんな気合い入れなくても」 深子「入れるに決まってんじゃん!」 俊介「……じゃあ俺も滝行でもして、気合い入れてこよっかな」 深子「滝行?」 俊介「祓いたまえ清えたまえ〜!って」 深子「(笑い)なにそれ」    嬉しそうに鍋を食べる深子。    勢い余って「あちちちッ」と唇をヤケドするも、楽しそうに笑って―。 ○元の201号室〜玄関(夜) 深子「(唇を触り)……」    おもむろに立ち上がる深子。    キッチンへ向かい、鍋を引っ張り出す。    懐かしそうにじっと見る。    と、スーパーの袋が視界に入る。    昼間に爆買いした白菜やネギなどの野菜たち。 深子「食べよ、鍋食べよ……シュンスケ、鍋にしよ、いいよね……待っててね、今作るから待っててね……」    取り憑かれたように包丁を握り、野菜を切り始める深子。    と、インターホンの音。 深子「……シュンスケ?」    深子、玄関へ急ぎ、ドアを開ける。 深子「シュンスケ!」    が、立っていたのは蟻田。    現実に引き戻される。 蟻田「入れてくれないっすか?」 深子「……」 蟻田「お願いっす、入れてください」 深子「……またカギなくしたんですか?」 蟻田「じゃなくて、座薬」 深子「……座薬?」 蟻田「座薬を入れてほしくて」 深子「……どういうことですか?」 蟻田「寒くて寒くて……たぶんメイビー風邪っす。けど、今座薬しか持ってなくて」    座薬を見せる蟻田。 深子「だから?」 蟻田「だからボクのお尻に座薬を……」 深子「だからそれがどういうことかって」 蟻田「ボク腰やってるんすよ。だからお尻に手が届かなくて」 深子「だからなぜそれをアタシにお願いするのか聞いてるんです」 蟻田「お隣じゃないっすか」 深子「理由になってないです」    深子、ドアを閉める。 蟻田「ちょちょちょ……入れてくれないんすか? 座薬」 深子「当たり前です」 蟻田「もしかしてそっちの心配っすか?」 深子「はい?」 蟻田「ボクこう見えてもお尻は綺麗っすよ」 深子「……それ聞いて誰が入れる気になるんですか?」 蟻田「お尻ならアカデミー賞とれます」 深子「……意味がわかりません」 蟻田「お願いします……ボクに座薬を、座薬を!!」    そのやりとりを他の住人(女)に見られていて、 深子「……」      ×   ×   ×    鍋を作っている深子。 深子「(睨み)……」    視線の先、床に寝転んでいる蟻田。 蟻田「意外と料理できるんすね」 深子「……」 蟻田「花嫁修行してたからっすか?」 深子「……」 蟻田「怒ってます?」 深子「はい」 蟻田「今度ご飯奢るんで」 深子「結構です」 蟻田「遠慮しないでください」 深子「してないです」    深子、鍋をテーブルに運ぶ。 蟻田「わぁ……ありがとうございます」 深子「昨日の借りを返しただけですから」 蟻田「借り?」 深子「言い返してくれたんで……クソ女に。これでチャラです。さ、どうぞ」    なかなか鍋の蓋を開けない蟻田。 深子「どうぞ食べてください」 蟻田「鍋の蓋を開ける瞬間って楽しくないっすか?」 深子「……はい?」 蟻田「ジャーンって感じで」 深子「ジャーンって開けてください」 蟻田「でもボクが開けていいのかなって」 深子「……え?」 蟻田「作ってもらった上に、ジャーンまで奪ってしまっていいのかなと」 深子「じゃあアタシが開けます」 蟻田「待ってください……ジャンケン、ジャンケンしましょう」 深子「いや、アタシ別に開けたくないんで」 蟻田「でも本当はジャーンしたいのに我慢されてたらヤなんで」 深子「だからしてないです」 蟻田「あれ? 開けたすぎて怒ってます?」    深子、もう疲れた。    思い切り、蓋を開ける。 蟻田「ジャーンッ」 深子「……言うのかよ」 蟻田「うまそっすねぇ……いただきやす」    食べ始める蟻田。 蟻田「おいしいっす。おい……ん、あれ(口をもごもごさせて)なんすかこれ……」    ペッと吐き出す蟻田。    フフッと笑う深子。 蟻田「まさか……」 深子「だって入れろって言いましたよね?」 蟻田「だからって……鍋に座薬入れます?」    フフフッと笑い続ける深子。 蟻田「でも……初めてっすね、笑ったの」    シシシッと笑う蟻田。      ×   ×   ×      鍋が空っぽになっている。 蟻田「え、出席で出したんすか?」 深子「……はい」 蟻田「元カレの結婚式なのに?」 深子「ケジメつけようって思って……けど、やっぱり行けません……誓いのキスとか見たら、アタシどうにかなっちゃいそうで……痛いじゃないですか、35の、おばさんが、元カレの結婚式で泣いてたら」 蟻田「泣けばいいじゃないっすか」 深子「泣いたら余計辛くなる気がして……」 蟻田「よくないっすよ、我慢。最近多いっすよね。弱み見せたくないのか、クールがカッコイイって思ってんのか、これぞサムライ魂!って思ってんのか知んないすけど、我慢する人」 深子「……」 蟻田「走りたい時は思い切り走る。鍋の蓋を開けたいときはジャーンって開ける。笑いたい時は声に出して笑う。泣きたい時は狂ったように泣く……それだけで意外と解放されるもんっすよ」 深子「解放……(思い出して)そういえば言ってましたよね? ドトールで」 蟻田「え?」 深子「見ればヤなことから解放されるソフトがあるって」 蟻田「まさか見られていたとは……」 深子「どういうソフトなんですか?」 蟻田「いやぁ……まぁ簡単に言えば、今大食い動画とか見てスカッとする人多いじゃないっすか? 欲求を満たしてくれるというか、それみたいなもんす」 深子「……買う人いるんですか?」 蟻田「さっきも言ったっすけど、今のご時世ストレス抱えてる人多いじゃないっすか。家にいることが多くて、発散する場所もないというか……だからそれ見て気持ちをリセットする人、結構多いんすよ」 深子「へぇ……」 蟻田「今日も喜んで買ってくれたっす」 深子「カフェで話してた人?」 蟻田「えぇ。今日の人はちっさいスーパーの店長やってるって言ったかな」 深子「……店長?」 蟻田「で、面白いんすよ。普段どうやってストレス発散してんすかって聞いたら、メンエスに行ってるって」 深子「……メンエス」 蟻田「あぁメンエスってのはメンズエステの略っす。まぁ言えばエッチなサービスしてくれるとこっす」 深子「……」 蟻田「で、カネないから可愛い子期待してフリーで入るらしいんすけど、いっつも同じ女の人らしくて……それも30を越えたおばさん。しかもこれがブスのくせにガード固いから最悪だっつって。で結局スッキリできず、せめてお店の子紹介してもらおうとライン聞くんすけど……って、え、どうしました?」    一点を見つめている深子。 深子「……買います」 蟻田「え?」 深子「……そのソフト」 蟻田「え、どうしたんすか?」 深子「だってそれ買ったら……ヤなことから解放されるんですよね?」 蟻田「まぁ……」 深子「……いくらですか」 蟻田「3万っすけど」 深子「3万? そんな大金持って……」    財布の中を覗く深子。    ATMで下ろした一万円札がちょうど3枚あった。      ×   ×   ×    蟻田はいなくなっている。    深子、押し入れから、埃まみれのパソコンを取り出して電源を入れる。    DVDソフトを見る。    『ぶっ壊せ!』と書かれたパッケージ。 深子「ぶっ壊せ……?」    ディスクをパソコンにセットする。 深子「……(じっと画面を見入る)」    画面に小部屋が映る。    机、イス、鏡、銅像などいろんな物が置かれた部屋だ。    そこにヘルメットを被った蟻田が金属バット片手に登場。 蟻田「ぶっ壊せ! ぶっ壊せ! ぶっ壊せ!」    と、叫びながらバットでそれらを壊していく、ただそれだけの30分程度の映像。 深子「……」    「ぶっ壊せ!」と連呼する声が、部屋に虚しく響き渡る。 ○道(日替わり)    ボサボサ髪、スウェット姿のまま歩いている深子。    目にクマができている。    と、乾とすれ違う。 乾「深子ちゃん、おはよー……なにそれ?」    手に紙を握り締めている深子。 乾「……どうしたの?」    深子、乾をキッと睨んで、去る。    ○『さみしがり』・控え室    深子、ズケズケと女店長の前へ。 女店長「……なにその格好」    クスクスと笑う他の女の子たち。    深子、無言のまま紙を差し出す。    汚い字で『退職願』と書かれている。    女店長、それを見るまでもなく、 女店長「あ、まだ伝えてなかったよね? うちの店ね、若返りを図ることにしたの」 深子「……え?」 女店長「だからお疲れ様でした。えっと……名前なんだっけ?」 ○川沿いの土手    深子、『退職願』をビリビリに破く。 深子「シュンスケ、助けてよ……」    岩の下を覗くも、インコはいない。 深子「どこ行ったの……」    ○公園    深子、上着を脱ぎ、木の枝にかけて、    輪っかを作る。    そこに首を通す。      が、木の枝が折れてドンッと落ちる。    首吊り失敗。 深子「なにもうまくいかない……」    深子、寝転がったまま横を見る。    ベンチで焼肉弁当を食べているカップルの姿。    リリカと彼氏である。       楽しそうに焼肉弁当を食べている二人。 ○(フラッシュ)    焼肉弁当を食べる深子と俊介。 ○元の公園    涙が出そうになる深子。    が、グッと堪える。    横になったまま、目を閉じる。 ○『Happy Beauty SPA』・小部屋    横になっている深子、目を開ける。 美海の声「また来てくれて嬉しいです〜」    深子の背中にオイルを塗る美海。 美海「結構張ってますね〜。どこが一番お疲れですかぁ〜?」 深子「心です……アタシの心、張って張って張り裂けてると思います……」 美海「もしかして〜……恋ですかぁ?」 深子「……」 美海「やっぱり〜! 恋ってうまくいかないですよね〜」 深子「……いってるじゃないですか……好きな人と結婚できたんですから」    フフッと笑う美海。 美海「美海、こう見えても、うまくいってなかったんですよ〜?」 深子「……え?」 美海「実は他に好きな人がいたんです。長いこと付き合ってて〜、結婚の話までしてたのに、フられましたけどね〜。なんか他に彼女がいたらしくて、美海、遊ばれてたんですよ〜」 深子「……」 美海「もうムカつきすぎて、滝に打たれにいきましたもん。祓いたまえ清えたまえ、祓いたまえ清えたまえ、えいっ〜!……って叫びながら、ボロボロに泣きました」 深子「……」 美海「そしたらなんかスッキリして……しかもその滝行した時に、今のダーリンと出会ったんです〜」 深子「……」 美海「今じゃ元カレのことなんてさっぱりですし〜、むしろダーリンのことしか考えられません」 深子「……」 美海「だから気持ちをリセットするのって結構大事なんだなぁ〜って……あ、なにが言いたいかっていうと〜、美海、今最高にハッピーで〜す!!」    と、深子の背中をぐりぐり押す美海。    しかし痛みも何も感じない深子。 ○ゲームセンター(夕)    メダルゲームをしている深子。    覇気なくメダルを流し込む……と、隣から「パンパンッ」と叩く音。    隣でゲーム中のおじいちゃんがおせんべいを割っている。    ひびが入り、ほぼ粉々のおせんべい。 深子「(見て)……」    と、深子の台が大当たり。    メダルが溢れ出てくる。    しかしふらっと立ち上がる深子。    パンチングマシンの前に立ち、小銭を入れる。    マシンが動き出し、小さいサンドバッグが起き上がる。    画面に『GO!』の合図。 深子「……」    ただならぬ雰囲気でグローブをつける深子。    ふーっと小さく息を吐く。    助走をつけて、思い切り振りかぶり、力一杯にパンチ!     が、空振り。    くるっと回ってずっこける。 ○道(夕)    無表情で歩いている深子。    と、前から小学生の男女が歩いてくる。 深子「(見て)……」    その男の子、匠である。    隣の女の子はいちごではない。    新しく好きな人を見つけたようだ。    女の子と夢中になって話している匠。    深子に気付くことなく、真横を通り過ぎていく。 ○アパート・201号室(夕)    布団の上でスマホをいじっている深子。    アルバムを見る。    俊介と撮った写真が残っている。    ラインを見る。    俊介との通話履歴が残っている。    俊介に電話をかけようか迷う。 深子「(小さく頷き)……」    電話マークを押そうとした時、登録していない番号から着信が入る。 深子「シュンスケ……?」    慌てて電話に出る。 深子「もしもし……!」 声「浅沼深子さんですか?」 深子「はい……」 声「警察です」 ○交番(夜)    突っ立っている深子。    視線の先、事情聴取を受けている蟻田。 蟻田「この人に聞けばわかるっすから」    机の上に名刺が一枚。    深子が昔働いていた会社の名刺だ。    そこに載っている深子の携帯番号。 深子「……」 警察官「先ほど大通り沿いにあるドトールからですね、怪しいソフトを売りつけている人がいると通報がありまして」 蟻田「だから売りつけてないっすよ…(深子に)なんかボクが無理矢理買わせたみたいになってて……助けてください」    突っ立ったままの深子。 警察官「あなたもソフトを購入したと聞きましたが……彼に脅されましたか?」 深子「……(キッパリと)はい」 蟻田「ちょっ……違いますよ!」    警察官、蟻田の身体を掴む。 蟻田「いや確かに最初は売ろうとしましたよ? 幸薄そうな人だから、仲良くすれば買ってくれるかなぁって」 深子「……は」 蟻田「けどしてないっす。おカネ持ってなさそうだからやめたんすよ。だってパフェ代の300円を根に持つ人っすよ? でもそしたら自分から買いたいって」 深子「違います、アタシは被害者です……何度も家に入られて、その名刺も盗まれて、終いにはただただ物を破壊してる意味不明のソフトまで買う羽目になって……どうしてあれを見たらヤなことから解放されるんですか? ああいうのは自分で壊すからスカッとするもんなんです!」 蟻田「自分で壊せないじゃないですか」 深子「……はい?」 蟻田「あんたみたいに自分で壊せない人のために、代わりにやって疑似体験させてあげてるんすよ」 深子「アタシみたいって……」 蟻田「だってそうっすよね? 元カレにフられたくらいで人生終わったみたいな顔して、うまくいかないこと全部をフられたせいにして、被害者面しながらバカみたいにずーっと引きずってて」 深子「……」 蟻田「一生元カレとの復縁を願っててください。一生鳥と意気投合しててください。一生賞味期限が切れた人生を送ってください。一生部屋でかくれんぼしながら、真っ黒のバナナになってください!」    シシシッと笑う蟻田。    深子、無言のまま蟻田に掴みかかる。 警察官「ちょっと……落ち着いて!」    取っ組み合いになる二人。    と、深子のスマホがバンッと落ちる。 深子「!」    液晶画面が下の状態で落ちているスマホ。    深子、拾って画面を見る。    ひびが入っている。 深子「……」    蟻田、走って出ていく。 警察官「ちょっとあなた……!」     深子、逃げる蟻田の背中に向かって、 深子「……3万返せー!」 ○アパート・201号室(日替わり)    陽が差し込んでいる。    布団で寝ていた深子、もぞもぞと動く。    スマホを見る。    ひび。    待ち受け画面のプリクラ写真、ハートマークが真っ二つに割れている。 深子「……」    枕元にDVDソフトがある。    『ぶっ壊せ!』と書かれたパッケージ。 ○同・2階の廊下    部屋から出てきた深子、ソフト片手に202号室へ。    ソフトをドアに投げつける。    201号室へ戻る。    と、郵便受けに一万円札が3枚、雑に挟まっている。 深子「(それを引き抜き)……」    再び202号室へ。    ドアを叩く。    何度も何度も叩く。 女の声「出ていきましたよ」    住人の女が立っている。 女「それ……買ったんですか?」    DVDソフトを顎でさす女。 女「私も売りつけられたんです。ってか、たぶんこのアパート全員。詐欺みたいなもんでしょうね」 深子「……」 女「怪しいなって思ってたんですよ。バームクーヘン片手に挨拶来たときから」 深子「……」 女「でも安心してください。管理人に連絡して追い出してもらったんで。これでスッキリですね」 深子「……キリしません」 女「え?」 深子「あの……出ていったの、いつですか」 女「ついさっきですよ。車で」 ○道    一万円札3枚を握り締めたまま、ダッシュしている深子。    向こうに、薄い黄色の車が見える。 深子「……んな」 ○川沿いの道    走って車を追っている深子。 深子「……けんな」    疲れて歩き始める深子。 深子「……ざけんな」    やがて立ち止まる深子。 深子「……ふざけんな! 逃げんじゃねぇ、バームクーヘン!」    薄い黄色の車は走り去ってしまう。    その場にしゃがみ込む深子。    と、真横をタクシーが通る。 ○走るタクシーの中    深子、猛烈に指示。 深子「絶対逃がさないで……前の車!」 運転手「は、はい!」 深子「もっとスピードあげて、スピード!」    と、窓の向こう、何かが視界に入る。 深子「シュンスケ……?」    インコが飛んでいる。    飛んだり落ちたりを繰り返してうまく飛べない様子。 深子「……シュンスケだ、シュンスケ!」 運転手「?」 深子「ケガしてたんです……シュンスケ」    不器用にも必死で空を飛ぼうとしているインコ。    深子、じっと見る。 ○(フラッシュ) 蟻田「自分で壊せないじゃないですか」 ○元の走るタクシーの中 深子「……」    と、ラジオの音声が耳に入る。 ラジオ音声「今日は日曜日。予定がない人は思い切って外に……」    深子、握っているものを見る。    一万円札が3枚。 深子「運転手さん……」 運転手「……はい?」 深子「今……何時ですか」 運転手「えー、11時半です」 深子「行き先……変更してもいいですか?」 ○結婚式場・前    綺麗な格好をした人ばかり。    そこにタクシーがとまる。    中から慌てて出てくる深子。    ボサボサ髪、スウェット姿のままで。 運転手の声「ちょっとお客さん!」    深子を追って出てくる運転手。 運転手「代金は」 深子「……今度払います」 運転手「今度って、持ってるでしょそれ」    深子、握っている一万円札を見る。 深子「これは……ダメです」 運転手「え?」 深子「これがないと見れないんで……」    時計台が12時を指そうとしている。    深子、運転手に掴みかかる。 深子「お願いです……行かせてください。見ないと、誓いのキス見ないと、何も始まらないというか、スッキリしないというか、冬眠したままというか、一人でかくれんぼしたままというか……やっぱり、バナナおばけなんて言われたくないし、ただただ黒くなっていく人生もヤだし、このままだと百年…いや千年の孤独になりそうで、それはやっぱり寂しくて……もう35だけど、ネイルして、髪を巻き巻きさせて、好きな人とドライブしたり、海に行ったり、焼肉に行ったり、鍋したいから……だから、このままじゃ、こんなひびだらけの自分のままじゃ……悔しい!! すみません、よくわからないですよね……とにかく、なにが言いたいかというと、キスを見て、誓いのキスを見て、アタシを、今のアタシを……ぶっ壊したいの!!!」    涙でボロボロな深子の顔。 運転手「(気味悪がり)わ、わかったよ……早く行け!」    深子、結婚式場の中へ走っていく。                    了
  •   〈大映4K映画祭〉の連動企画として、大映の秀作・レア作を揃えたもう一つの映画祭〈Road to the Masterpieces〉が1月6日(金)より角川シネマ有楽町で開催。同映画祭で大映全盛期の貴重な特別映像「1963年大映スタア花の年賀状」(26分)、「1964年大映スタア花の年賀状」(26分)、「特別映像集/永田社長新年の挨拶+大映芸能ニュース映像+スポニチ映像集」(21分)が上映されることが決定し、その抜粋映像が到着した。     特別映像の見どころは、なんと言っても華やかな出演陣。「1963年大映スタア花の年賀状」では後に「白い巨塔」で大ブレイクする田宮二郎が爽やかにナビゲーターを務め、京マチ子、若尾文子、市川雷蔵、勝新太郎、山本富士子らが新年の挨拶をする(今回公開された120秒の編集版には、田宮二郎、京マチ子、船越英二、若尾文子のみ登場)。 さらに〈Road to the Masterpieces〉上映作である「白い巨塔」の場面写真も公開。田宮二郎の鬼気迫る表情が印象的だ。         「白い巨塔」コピーライト:©KADOKAWA1966   〈大映4K映画祭〉 1/20(金)〜角川シネマ有楽町(東京)、1/28(土)〜シネ・ヌーヴォ(大阪)ほか全国順次開催 〈Road to the Masterpieces〉 1/6(金)~角川シネマ有楽町で開催 配給・宣伝:KADOKAWA ©KADOKAWA ▶︎ 名作が美麗に甦る〈大映4K映画祭〉、スターの声を凝縮した予告編と写真が到着
  •   名優ショーン・ペンが監督を務めるとともに娘のディラン・ペンと共演し、“大好きな父親がアメリカ最大級の贋札事件の犯人だった” という衝撃の実話を映画化した「フラッグ・デイ 父を想う日」が、12月23日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかで全国公開中。ショーン・ペンのインタビュー映像とメイキング画像が到着した。     「僕が映画を作る場合、最初にイメージが浮かんで脚本を書くか書かれた脚本を読んでイメージを作るかどちらかだ。必ずまずイメージが浮かぶ。そのイメージは大抵全体像なんだ。景色だったり凝縮されたようなイメージだ」と言うショーン。 だが本作で浮かんだのは、娘のディランの顔だったといい、「この映画を作るのであれば、(主人公の娘ジェニファーは)彼女の顔でなければならないと思った。彼女が聞いていることが本当でもウソでも、それは見ていて美しいと思った」と説明する。 なお、当初は監督するだけのつもりだったが、プロデューサーの要望もあり出演を決めたとのこと。「仕方なくこの映画に出演した。でも引き受けて本当によかったと思っている。いつも、同じ映画の中で監督と主演を担う人に驚いていたし、自分がそうするなんて今まで考えたこともなかったよ。予想していた通り、力を全て吸い取られた感じで、またやるかと言われたら微妙だよ(笑)」             Story 1992年、アメリカ最大級の贋札事件の犯人ジョン(ショーン・ペン)が、裁判を前に逃亡したというショッキングなニュースが全米に流れる。彼にはジェニファー(ディラン・ペン)という娘がいた。父の犯罪の顛末を聞いたジェニファーは、「私は父が大好き」と呟く。史上最高額の贋札を高度な技術で製造したジョンとは、どんな男だったのか? 父の素顔を知っても変わらず愛し続けた娘との関係とは? ジェニファーと「平凡な日々を見違えるほど驚きの瞬間に変えてきた」父との尊くも切ない日々が紐解かれる。   © 2021 VOCO Products, LLC 配給:ショウゲート ▶︎ 父は犯罪者だった──。ショーン・ペン監督・主演のカンヌ出品作「フラッグ・デイ 父を想う日」 ▶︎ 名優ショーン・ペン監督&主演 父娘共演の衝撃の実話「フラッグ・デイ 父を想う日」予告編解禁
  •   2023年4月に国立機関に一挙収蔵される大島渚監督作の中でも代表的な一本「戦場のメリークリスマス 4K修復版」が、最後の大規模ロードショーとして1月13日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷、立川シネマシティ、アップリンク吉祥寺ほかで上映。 また、〈12ヶ月のシネマリレー 第6弾〉としてベルナルド・ベルトルッチ監督作「ラストエンペラー 劇場公開版 4Kレストア」が、1月6日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館、シネ・リーブル池袋ほかで公開される。 ともに坂本龍一が音楽を手掛け、出演している2作のコラボ動画が到着した。     「ラストエンペラー 劇場公開版 4K レストア」では、アカデミー賞作曲賞に輝いた坂本龍一の壮大で優美なスコアとともに、同氏が演じた日本陸軍人・甘粕正彦の姿が確認できる。 「戦場のメリークリスマス 4K修復版」では、英国アカデミー賞作曲賞を受賞した『Merry Christmas, Mr. Lawrence』にのせ、坂本龍一演じるヨノイ大尉とデヴィッド・ボウイ演じるセリアズ少佐の魂の接近が映し出される。 なお、1月17日には坂本龍一の約6年ぶりのオリジナルアルバム『12」がリリース。そして3月にはデヴィッド・ボウイの公式ドキュメンタリー「ムーンエイジ・デイドリーム」が日本公開される。「戦メリ」の上映と併せて両者の才能に改めて触れる好機となる。     「ラストエンペラー 劇場公開版 4K レストア」 監督:ベルナルド・ベルトルッチ 製作:ジェレミー・トーマス 音楽:坂本龍一、デイヴィッド・バーン、スー・ソン 出演:ジョン・ローン、ピーター・オトゥール、ジョアン・チェン、坂本龍一 1987年/イタリア、イギリス、中国/163分/カラー/シネスコ 配給:東北新社 © Recorded Picture Company 公式サイト:https://12cinemarelay.com/ 「戦場のメリークリスマス 4K修復版」 監督・脚本:大島渚 脚本:ポール・マイヤーズバーグ 原作:サー・ローレンス・ヴァン・デル・ポスト「影の獄にて」 製作:ジェレミー・トーマス 撮影:成島東一郎 音楽:坂本龍一 美術:戸田重昌 出演:デヴィッド・ボウイ、トム・コンティ、坂本龍一、ビートたけし、ジャック・トンプソン、ジョニー大倉、内田裕也 1983年/日本=イギリス=ニュージーランド/英語・日本語/123分/ビスタサイズ/ステレオ 協力:大島渚プロダクション 配給・宣伝:アンプラグド ©大島渚プロダクション 公式サイト:oshima2021.com

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