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香港へ「越境通学」する女子高生の青春を描く──「THE CROSSING ~香港と大陸をまたぐ少女~」白雪監督インタビュー 2000年代、中国の大陸から香港に渡り出産するケースが増えた。生まれてくる子に香港の身分証を取得させ、優れた教育の機会を与えることが目的だ。こうして誕生した子供たちは、香港のIDを持ち、深圳など大陸にある家から「越境通学」するようになる。 中国映画「THE CROSSING ~香港と大陸をまたぐ少女~」は、そんな越境する少女ペイのヒリヒリするような青春を、躍動感のある映像で切り取った白雪監督の長篇第1作目だ。原題の「過春天(春を過ぎる)」は、ペイが心の拠り所を求めて足を踏み入れる密輸団が「商品が無事税関を通った」ことを表す言葉。ボーダーを越えて、難関を越えて、このデビュー作は、中国から若き才能がまた一人世界へ羽ばたく宣言なのかもしれない。 ボーダーで起こる物語に心惹かれます 第14回大阪アジアン映画祭コンペティション部門で上映され、「来るべき才能賞」を受賞した本作は、深圳に住みながら香港の学校に通うという特異な環境下で日常を送る女子高生を主人公とした青春ドラマでありサスペンスだ。これが長篇デビュー作となった白雪監督に、映画づくりについて、そしてアイデンティティの所在の問題や近年の若手中国人映画監督の活躍について、多岐にわたって話を聞いた。 ──深圳から香港に越境通学する少女ペイが主人公です。資料で中国の西北部のご出身だと読みましたが、この地域に詳しかったのですか? 白雪:生まれは甘粛省の蘭州です。1990年代の改革開放の影響で、チャンスを求めて南へ行く人が多かった時代に、私の両親も香港に隣接する深圳に移り、私は6歳から18歳までそこで育ちました。あの地域のことは多少詳しいと言えますね。私自身も香港の文化にかなり影響を受けて育ちました。 ──越境通学生を主役に映画を撮ろうと考えたきっかけは? 白雪:深圳にいた頃、香港とのイミグレーションでペイのような越境通学生をよく見かけて、面白い集団だなと思っていました。世界的にも珍しい人たちではないでしょうか。彼女たちは、さまざまな面で二重の環境や教育から影響を受け、1人で2つの価値観を持っています。北京電影学院でMFA(芸術修士)取得のために学んでいた時、初の長篇作品のテーマとして、そんな特殊な集団をテーマに物語が作れないかと考えました。そこで知り合いなどを通じて越境通学する子供たちの取材を始めたのです。 ──取材に2年間費やしたそうですが、具体的にどういうことをしたのですか? 白雪:インタビュー形式で取材を進めようと思い、知り合いを通して異なる年齢層の越境通学生たちとお喋りすることから始めました。幼稚園児や小学生のお芝居を撮るのは難しいので、高校生を主役にすると決め、そして主人公のペイをどんな人物にするか考えるところから、物語を作っていったのです。 どんな女の子なのか? やりたいことは何なのか? そんな風に人物設定を考えていくと、もしも私がペイならきっとお金を稼ぎたいと思ったので、密輸団に加わるという展開を思いつきました。イミグレーションで働く友人にも取材してロジック的に成立する題材だと確認し、このストーリーを書き始めました。 私は取材を重ねて創作に反映するのが得意です。インタビューを重ね、歴史博物館に行って香港の変遷を学ぶことなどに約2年費やしました。ペイの親世代の人や、香港に暮らすさまざまな階層や職業の人にも話を聞いて脚本に取り込み、密輸団のメンバーと一緒に取引場所を見に行ったりもしました。完成した映画を見て、リアリティがあると言ってくださる人が多かったのも、こうした取材が功を奏したのだと思います。 ──ペイは香港の身分証を持ちながら、家は深圳にあるという、2つのアイデンティティを持った少女ですね。この映画を撮る過程で気づいた彼女のような子供たちの特徴はありますか? 白雪:大陸でペイくらいの年齢の子の頭にあるのは、まず学業のことです。大学受験は人生において避けられない一大事だと考えていますから。香港に行くと、特にペイのようにそれほど偏差値の高くない学校で学ぶような子たちは、未来が見えなくて、自分が何をしたいのかを探しているような感じがしました。きっと皆、求めているものも違うと思います。ペイのような越境通学生は、アイデンティティを持ちづらいのだと感じました。特に、両親の片方が香港人、もう片方が大陸の人の場合、たとえ自分が香港の身分証を持っていても、帰属意識の所在を聞くと回答を避けようとしたのです。むしろ、自分は香港の身分証を持っていて、両親はともに大陸の人だという子のほうが、自分は香港人だとはっきり答える傾向がありました。あとで考えて気づいたことですが、その意識の差は、そもそもの家庭環境の違いによるのかもしれないということ。たとえばペイのように、両親に別の家族や恋人がいるという、人には言えないような事情があると、答えられないかもしれませんね。 ──監督は西北部の蘭州で生まれ、南方の深圳で育ち、北京で映画を学ばれた。中国人というのは生涯のうちに大きく移動する人々だという印象があるのですが、監督の帰属意識はどこにあるのでしょうか? 故郷ですか? それとも、大きく「中国人」だという認識? 白雪:中国はここ数十年で大きな変化を遂げ、大規模な人口移動が起こりました。私自身は、自分の身体を流れる血は原籍、つまり甘粛省のものだと思っています。だけど蘭州にも、深圳にも、それほど「我が家」という感覚はありませんね。18歳で北京に出てきてもう17年になるので、気質のようなものは甘粛省のそれだと感じますが、「我が家」といえば北京です。 ──今年のヴェネチア国際映画祭ではクロエ・ジャオ監督の「ノマドランド」が金獅子賞を受賞、ルル・ワン監督の「フェアウェル」も全米で大ヒットするなど、中国出身監督の世界での活躍が目立ち始めました。今後、新たな視点で中国をとらえた作品が増えていくのではと想像しますが、中国映画のボーダーレス化についてどんな意見を持っていますか? 白雪:ボーダーで起こる物語には個人的にとても心惹かれます。自然と衝突が発生するからです。実は、次の作品は海外で撮る準備をしています。海外に行った中国人がその国で経験することを描く予定で、私にとって非常に新鮮でミステリアスなテーマなので楽しみにしているところです。どんなストーリーを書くとしても、人物と自分の中に何か関わりを見つけることが大事だと思っています。 世界規模で変化が起きるような気がします。以前受けたインタビューで、やはり自分のアイデンティティに関する質問をされたのですが、今後、世界との結びつきが密になれば、こういう質問自体がなくなっていくのではないでしょうか。今後留学する子供たちが増え、さまざまなものを吸収した彼らは、より寛容で広い視野を持つようになる。中国映画にも新しい変化が生まれると同時に、困惑も生まれるでしょうね。 ──本作は取材や準備にしっかり時間がかけられていて、新人監督のデビュー作としてはとても恵まれた環境で撮られたのだなと感じました。白監督や「春江水暖〜しゅんこうすいだん」の顧暁剛監督など、長篇1作目からクオリティの高い作品を撮る若手が中国から次々登場していますが、映画監督を目指す若手にとって撮りやすい環境になってきているのでしょうか? 白雪:映画の作り手が直面する困難は世界共通で、食べていけるかという問題は考えなければいけません。私も、脚本執筆に費やした2年間、一銭も収入がありませんでした。大学を出てすぐ結婚・出産し、家族に金銭面で支えてもらいながら創作に励むことができたので、幸運だったと思います。 ここ数年、優れた新人監督が次々現れ、デビュー作からクオリティの高さが評価されています。市場が若い監督に注目し始めたということでしょう。若い監督の作品に出資しようという投資者が現れるようになった。私はたまたまそんな時期にぶつかっただけです。私のような「80後」(バーリーンホウ、1980年代以降に生まれた人を指す)の監督は、すでにある程度の人生経験を積み、語りたい物語を持っている。それが市場の変化とうまく重なったのだと思います。映画大学を出たての頃は強烈に伝えたい物語もなかったですし、市場も新人監督に映画を撮らせてくれるような環境ではありませんでした。 中国では映画祭などいろいろなところで優れた新人監督の企画と投資者を結ぶプロジェクトも行われるようになっています。私は中国映画監督協会というところが主催する「青葱計画」というプロジェクトから支援を受けて、この作品を撮りました。 ──若手監督への投資が増えた理由は? 白雪:きちんと調べてはいませんが、私の印象だと、ベテランの監督やプロデューサーたちが後継者の育成を目的に、新しい力を映画界に引き込もうとしているような気がします。たとえば寧浩監督は文牧野監督の長篇デビュー作「薬の神じゃない!」(18)を製作し、この映画は社会現象となる大ヒットを記録しました。ベテラン監督が成熟していく一方で、若手は成長してくる。投資者にはいろいろな思惑があると思いますが、自らの製作会社でプロジェクトの中から若手監督を発掘して今後の映画制作につなげようとしているのではないでしょうか。 ──監督はちょうど中国映画市場が急成長を始めた頃に中高生でした。どういういきさつで映画監督を目指したのですか? 白雪:私はたぶん、ちょっと個性的な高校生で、いわゆる芸術映画が好きでした。でも深圳といえば商売の町です。文化的な空気に餓えていました。そこで高校2年生の夏休みに、芸術学校がどういうものなのか、受験するにはどうすればいいのか知りたくて、北京にある中央戯劇学院の演技コースの短期クラスに参加したのです。北京では前衛的なお芝居を見たり、“内部資料用のDVD”で映画をたくさん見て学びました。大島渚監督や黒澤明監督の作品も見ました。印象的だったのは「青いパパイヤの香り」(93、トラン・アン・ユン監督)ですね。あの夏休みに、私の芸術への扉が開かれたと思っています。 文=新田理恵/制作:キネマ旬報社(キネマ旬報11月下旬号より転載) 白雪(バイ・シュエ)/1984年生まれ、中国・甘粛省出身。2007年に北京電影学院監督科を卒業、2013年に同大学院芸術修士へ進学。2年かけた本作の脚本が2017年に完成し、中国監督協会の第2回 CFDG 中国青年監督援助計画(青葱計画)で5強に選ばれる。同年、万達影業(Wanda Pictures)の出資を得て2018年に完成させた。本作は、第69回ベルリン国際映画祭や第43回香港国際映画祭など国際映画祭でも高く評価された。 『THE CROSSING~香港と大陸をまたぐ少女~』 ●11月20日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国にて公開 ●配給:チームジョイ ●公式HP:https://thecrossing-movie.com/ ©Wanda Media Co., Ltd
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【第1回】みうらじゅんのグレイト余生映画ショー in 日活ロマンポルノ
2020年11月20日2021年に、日活ロマンポルノは生誕50年の節目の年をむかえます。それを記念して、ロマンポルノの魅力を様々な角度から掘り下げる定期連載記事を、本キネマ旬報WEBとロマンポルノ公式サイトにて同時配信いたします。 衛生劇場の協力の下、みうらじゅんがロマンポルノ作品を毎回テーマごとに紹介する番組「グレイト余生映画ショーin日活ロマンポルノ」の過去の貴重なアーカイブから、公式書き起こしをお届けしたします。(隔週更新予定) 2011年10月放送、記念すべき第1回のテーマは「谷 丘 池」 こんばんは、みうらじゅんと申します。 今回は「グレイト余生映画ショーin日活ロマンポルノ」で、再び皆さんとお会いできて、嬉しく思っております。 (自分のまわりをみて)何も僕は映画館に勤めているわけではないんですよ。今回収録場所が老舗の映画館(上野オークラ劇場)です。昔大学生の時に一度見に来たことがあります。 1970年前後ですかね、あの頃の映画館内は本当真っ暗でね。ちょっと怖いイメージがあったんですけど、今はこうやってテレビでやビデオでポルノ作品が観られるという時代。(脳裏に)エロシーンを焼き付け、家まで持ち帰って帰らなくてもよくなったって事で、皆さん本当にお幸せな世代なんだと思います(笑)。 一応、解説しときますと、僕は学生時代こういう状態で(絵を見せる)、ポルノ映画を(映画館で)観て帰ったっていうことですね。 あの頃、日活ロマンポルノは、三本立てでしたから、もうストーリーが頭ん中でごちゃごちゃになって。その時、気がついたんですけど、エロネタっていうのは液体でできているんじゃないかとね。映画館を出た後はね、ものすごく頭の上が重くなってまして、たっぷんたっぷんと中華鍋みたいな中が波打っているのがよくわかりました。帰りがけに、近所のおばさんとかに会って、挨拶なんかしているとこぼれ落ちてしまうので、出来る限り会わないような道を選んで帰ってね。出来る限り両親とも顔を合わせないように自室に籠り、フレッシュなままのイメージでオカズにしたかったんですけど、なかなかそうはいかずね。でも、その頃にそういう忍者のような記憶術を僕は学んだので、今の人よりいやらしい事を覚えるのは、早いし、長く持つと思います(笑)。ということで、今回の紹介する2011年10月放送分のテーマは、「谷 丘 池」。みなさん、その意味がよく分からないと思いますけど、揃えてみましたので、是非、楽しみに焼き付ける人は焼き付けて、録画する人は録画して観てみて下さいね。 記念すべき第一回のテーマは「谷 丘 池」。ロマンポルノを語るにはかかせない伝説の女優を大特集。日本中の男たちの理性を崩壊させたエロマエストロ。その恍惚たる官能の世界に迫る。右手をみれば思い出す俺たちの青春プレイバック! みなさんパンツの具合はどうでしょうか?ということで、もう脱いで、テレビの前でお待ちの方もおられると思いますけど、一応概略を説明してから観てもらおうと思います。 そもそものこの番組はAVと違って、いきなりやらしいシーンに飛ばせるわけではなく、<焦らしプレイ>が多分に含まれています。「焦らされて、焦らされて、遂にエロシーンが出た~!」って具合。皆さんにも当時、僕が経験したその<焦らしプレイ>に付き合っていただこうと思います(笑)。 今回の「谷 丘 池」これ当然受験に出るキーワードだと思いますけども、この三要素ですよね。これが何であるかっていうことは、説明の絵を描いてきましたので見て下さい。 「谷」というのは、当然山と山の間に存在するモノですよね。少し行くと「丘」が見えてきます。「丘」のちょっと先に「池」があるという。何のこともない絵なんですけどね。谷は谷ナオミさん、丘は丘ナオミ(奈保美)さん。そして池はこのエロス学園では池玲子さんということになります。 (※注 池玲子さんは、ロマンポルノの作品には主演されておりません。日活では、『黒い牝豹M』(1974)に主演されております)。 ということで、70年代を代表する「三大巨乳」の意であること。よく覚えておいて下さいね。そして、巨乳以外の特徴がコレ。 まず、「眉間のシワ」ですね。 今ここの良いシワを出せる女優さん、なかなかいないですね。僕が、最後に見届けたのは菊池えりさんっが最後かな。男で言うと天知茂、若林豪という俳優さんになります。眉間はね、やらしさを物語るんですね。 そして、次に挙げられるのは「蚊の鳴くような声」ですね。 今、自由に大きい声出される方はおられますけど、昔はかよわい声をわざとだしてね、その場を盛り上げるのが流行ったんです。 そして池玲子さんにも見られるこの唇の横のほくろですね。 それは当時、別名「好きぼくろ」って言ったもんですがね。下唇が「ぽってりとしている」ということもポイントが高いですよね。この「舌唇のぽってり感」はね、男のものの滑走路なんて、呼ばれては…いませんでしたけどね(笑)。 そしてやっぱり「巨乳」ですよね。 ココ、昔で言うシングル CD大 ですよね。土台があって、シングル CDが乗って、その上にこうなって三段式になっている。これπ=r2(パイアールの二乗)と呼びます。 この4要素がそろったのが「谷 丘 池」であるということです。 今回紹介する作品は、谷ナオミさん主演の『幻想夫人絵図』(1977)。谷さんの集大成的作品ですね。ここに当時の台本がありますが、悶えのシーンとかをどう書いてあるかっていうことですよね?知りたいことって。谷さんって本当に演技がお上手なんですよね。(台本のその箇所を探しながら)うーん、台本を見ても「・・・・」で示してありますね。やっぱ、ここは自らの演技力で補うということなんすね。 そして、丘ナオミ(奈保美)さんですが、今回紹介する作品は『尼僧極楽』(1975)。僕、学生時代、このジャンルは一番遠い世界だと思っていました。 この世界とこの世界(DVDの『色情海女 乱れ壷』(1976)を指して)。ダブルアマ(尼と海女)の存在は童貞にとってはいやあ、遠かった(笑)。 当時は、全く自分と関係ない世界だと思ってたんですけど、最近、老いるショックの影響かこの世界(ダブルアマ)もいいんじゃないかと思ってきましたね。 オープニングのシーンで、相手方の男性が突然怒り出すんですよね。そのセリフを今でもよく覚えているんですよ。この手元にある台本の7ページにも書いてあるんですけども。「何がお布施だ。(中略)本当の尼さんはこんなもんじゃないぞ。」よく分からないでしょ?観て頂くしかありませんね(笑)。 さぁ、今回はこの4本! 『幻想夫人絵図』(1977) 【主演:谷ナオミ】 『生贄夫人』(1974) 【主演:谷ナオミ】 『尼僧極楽』(1975) 【主演:丘奈保美】 『団地妻 肉体地獄』(1985) 【主演:黒木玲奈 共演:丘ナオミ】 ※各作品はFANZAをはじめする動画配信サービスにて配信中です 「谷・丘」を存分にお楽しみ下さい。それではあなたもグレイト余生を! 衛星劇場「グレイト余生映画ショーin日活ロマンポルノ」 出演・構成:みうらじゅん プロデューサー:今井亮一 ディレクター:本多克幸 製作協力:みうらじゅん事務所・日活 2020年12月 放送予定作品 【衛星劇場】(スカパー!219ch以外でご視聴の方) ・『ベッド・パートナー』(HD初放送) ・『婦人科病棟 やさしくもんで』 ・『肉体保険 ベッドでサイン』 ・『ベッド・イン』 【衛星劇場】(スカパー!219chでご視聴の方) ・『ベッド・パートナー』(R-15版) ・『愛獣 赤い唇』(R-15版) ・『ラブハンター 熱い肌』(R-15版) あわせて、衛星劇場では、サブカルの帝王みうらじゅんが、お勧めのロマンポルノ作品を紹介するオリジナル番組「みうらじゅんのグレイト余生映画ショー in 日活ロマンポルノ♯91」を放送! ※人気コーナー「みうらじゅんのグレイト余性相談室」では、皆様から性のお悩みや、疑問を大募集! 【日活ロマンポルノ】 日活ロマンポルノとは、1971~88年に日活により製作・配給された成人映画で17年間の間に約1,100本もの作品が公開された。一定のルールさえ守れば比較的自由に映画を作ることができたため、クリエイターたちは限られた製作費の中で新しい映画作りを模索。あらゆる知恵と技術で「性」に立ち向い、「女性」を美しく描くことを極めていった。そして、成人映画という枠組みを超え、キネマ旬報ベスト・テンをはじめとする映画賞に選出される作品も多く生み出されていった。 日活ロマンポルノ公式ページはこちらから -
香港と深圳、少女から大人へ──人生の交差点に立つ少女の青春残酷物語
2020年11月19日香港と深圳、少女から大人へ──人生の交差点に立つ少女の青春残酷物語 香港と大陸の関係 昨年3月、「THE CROSSING~香港と大陸をまたぐ少女~」が中国で公開された時、私はちょうど香港国際映画祭に参加するために香港に行った。本作に対する絶賛の声は、対岸の香港まで届いた。近年、中国の青春映画でここまで高く評価された作品はほとんどないので、私は本作の主人公・ペイのように、香港から深圳へCROSSINGした。これは中国生まれ・中国育ちの私にとって、初めての体験でもあった。福田口岸を跨いだ時、Google mapが使えなくなり、YouTube動画も再生不能になり、そしてポケモンGOのポケモンも消えた。 香港は今年、新型コロナウイルスの感染対策に続き、香港国家安全維持法が施行されたことで注目が集まっている。これから香港はどうなっていくのか、もはや誰もわからないだろう。そもそも、香港と大陸の関係はいつも特別だ。その関係は政治的であり、地理的であり、そして人と人もそうなのだ。香港は大陸より遥かに早い段階で経済発展が進み、大陸から見ると、ずっと憧れの大都市である。本作の中でも、香港の状態が丁寧に描かれている。豪華クルーザーでパーティーを開く若者がいる一方、生きるために頑張ってバイトをしている人もいる。成熟した“完成型”の社会だと言えるだろう。 それに対して、対岸の深圳は完全に真逆で、“進行型”だ。深圳は改革開放実施後、常に高いスピードで意気揚々と前進し続けている。そこにいる人々からは、お金に対する欲望、そしてこの世界に対する野心が露骨に見える。だから、たったiPhone一台でも大騒ぎになり、自分は何が欲しいのかもわからず、とにかくお金を稼ぎ、現状から脱皮し、新世界に入りたいという気持ちなのだ。その中で密輸は、一つの手段である。関税の問題などで、以前中国本土では海外より高い商品が多かった。それは、大陸客が日本などに爆買いしにくる理由の一つでもあった。特にiPhoneに関しては、発売も遅く、価格も香港や日本より高かった。そこで、密輸をし、その差額で稼ぐ職業が誕生した。中国の法律では、自己使用以外のスマホを輸入する場合、10%の関税がかけられるが、密輸をする者たちはもちろん払わない。毎日何十万人も通る大陸と香港の出入境検査場では全員にしっかり荷物検査ができるわけではないので、たとえ中国政府が力を入れて厳しく対応しても、密輸する人は未だに多く存在している。 ある少女の小さな青春物語を通し、“今の社会”が見える 本作の主人公であるペイは、香港出身の父と中国大陸出身の母を持つ16歳の高校生。毎日深圳から香港の高校へ通っている。そして、彼女の父は大陸と香港の間を行ったり来たりするトラック運転手で、香港では別の家族を持っている。母は毎日のように麻雀生活に浸り、ペイにはずっと無関心なのだ。だから、ペイはバイト中に、「家はどこですか?」と聞かれても、ただ「遠いところ」と答える。母と一緒に大陸に住んでいるが、家族の温かさはまったく感じられない。香港にいる父とはたまに会っているが、離れて暮らしているので、家族だと言えるかどうか、16歳の女子高校生はわからないだろう。このような複雑なアイデンティティを持っているペイのような若者がiPhoneの密輸に関わることにリアリティを感じた。 「THE CROSSING」には、“跨ぐ”や“交差点”の意味がある。そして、この映画は少女から大人へ跨ぐ成長物語であり、人生の交差点に立っている主人公の青春残酷物語でもある。親友と一緒に日本に旅行に行くために、お金を稼ぎたいペイは、偶然、密輸組織に入った。孤独なペイにとって、それは新しい世界の始まりだった。本作は犯罪サスペンスの要素も多く入っているが、作品の焦点はずっとペイに集中している。日本旅行に必要なお金をとっくに稼いだペイは、それでも密輸に関わることを止めず、さらに業務を拡大した。それは、他人から認められたいという気持ちがあるからだろう。家族や社会に捨てられたペイは、自分の居場所を探し続けている。ハオに認められ、その赤い照明の中で、iPhoneをお互いの身体に巻き合うシーンは、ある意味で近年の中国映画の中でも最高の官能シーンである。何よりペイは、そこから大人になったのだ。 現在、中国政府の厳しい映画検閲制度で、中国映画は真正面から香港について描くことができない。しかし、白雪監督は非常に鋭い切り口で、ある少女の小さな青春物語を通し、“今の社会”が見えるような作品を撮った。ペイはサメを海に返した。彼女は、いつか春が来ることを信じているに違いない。 文=徐昊辰/制作:キネマ旬報社(キネマ旬報11月下旬号より転載) 筆者プロフィール 徐昊辰(じょ・こうしん)/1988年生まれ、中国・上海出身。映画ジャーナリスト。上海国際映画祭プログラミング・アドバイザー、WEB番組『活弁シネマ倶楽部』の企画・プロデューサーを務める。 『THE CROSSING~香港と大陸をまたぐ少女~』 ●11月20日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国にて公開 ●配給:チームジョイ ●公式HP:https://thecrossing-movie.com/ ©Wanda Media Co., Ltd -
目まぐるしく変わる渋谷に生きる女の子たちの夢と苦悩。 宇賀那健一監督が描いた“逆ロードムービー”とは。 映画「転がるビー玉」 渋谷という変わりゆく街の姿 宇賀那:「夢を追う若者たちの話を撮りたい。それが、この映画を作った一番の理由です」 ―宇賀那健一監督がこう語る「転がるビー玉」は、東京・渋谷の片隅で共同生活を送る愛(吉川愛)、瑞穂(萩原みのり)、恵梨香(今泉佑唯)の日常を描いた青春映画だ。それぞれモデル、雑誌編集者、ミュージシャンを目指す彼女たちは、思い通りにならない日々に悩み、迷いながらも、互いに支え合って暮らしている。 宇賀那:「これまで、演技のワークショップを通じてたくさんの魅力的な方と出会いましたが、みんな一様に悩んでいる。でも僕は、悩んでいるその姿や、夢を摑もうとしてもがいている姿こそが美しいと思っています。甲子園を目指す高校球児が全員、プロになれるわけではありません。だからといって、その時期が無駄なわけではなく、必ず何らかの形で役立っているはず。そんな姿を肯定的に捉え、『君のままで大丈夫』と言ってあげたいと。主人公を3人にしたのも、その方が様々な形の悩みを描けると考えたからです」 ―さらに、宇賀那監督が本作を制作したもう一つの理由が、舞台となる渋谷の再開発だった。 宇賀那:「僕自身、学生時代から長い間、渋谷のカルチャーに親しんできました。そんな渋谷が変わろうとしている2019年の風景を映像に残しておきたかった。しかもそれが、この物語のテーマにも合っている。主人公の3人は、夢を追いながらも、なかなか一歩を踏み出せずにいます。でも、そんなふうにもがいているうち、いつの間にか周囲の景色や出会う人が変わっていき、それによって例え小さな半歩でも、前に進むことができる。その舞台として、変わりゆく渋谷はぴったりだろうと」 この言葉通り、揺れ動く彼女たちの姿に、変化を続ける街の風景がシンクロし、物語は輝きを増す。 宇賀那:「コンビニなど一部を除き、ほぼすべて渋谷で撮影しています。恵梨香が路上ライブをするのは、宮下公園前の歩道橋ですが、今はすっかり風景が変わりました。また、パーティ場面の撮影には、僕のこだわりで有名なクラブ“VISION”を使わせてもらいました。ただし、渋谷を知らない人も楽しめるように、地理に関係なく物語を成立させています」 ―このほか、創刊15周年記念プロジェクトとして製作に協力した雑誌『NYLON JAPAN』編集部も登場。変わりゆく都市と最先端カルチャーの発信地。渋谷の両面を捉えた映像の中で繰り広げられる3人の物語は、再開発による家の取り壊しと共に終わりを迎える。 宇賀那:「言ってみれば、僕が目指したのは“逆ロードムービー”です。ロードムービーでは、主人公が目的地に向かって旅する中、様々な経験を重ねて成長していきます。しかし、この映画では3人が旅をするのではなく、周囲の環境が変わることで、彼女たちにささやかな変化が訪れるわけです」 ―その“逆ロードムービー”にリアリティを与えるのが、随所に施された仕掛けだ。 実生活から得たセリフの数々 宇賀那:「セリフの大半は、僕が実際に周囲で耳にした言葉です。ある意味、この映画には沢山の僕の友人や知人の思いが詰まっています。さらに、主人公3人に共感してもらうには瑞々しさが大事だと考え、スイカ割りやコンビニでの買い物など、即興の場面を4つほど作りました。演じた吉川さん、萩原さん、今泉さんは、即興も含めて期待以上の結果を出してくれました」 ―こうして完成した本作に対する思いは、印象的なタイトルにも込められた。 宇賀那:「タイトルは、“Like a Rolling Stone”がヒントになっています。『自分は石ころでいい』と割り切ることができず、かといって宝石にもなれない。その間にいる“欠けたビー玉のような人たち”の話にしたい。そんな思いからつけたものです。だから、そういう人たちに届いてくれたら嬉しいですね」 前作「魔法少年☆ワイルドバージン」が導いた本作の誕生 ―一方、宇賀那監督が「これを撮っていなかったら、『転がるビー玉』はなかった」と語るのが、前作「魔法少年☆ワイルドバージン」。29歳童貞の冴えない会社員・星村幹夫(前野朋哉)が突如、スーパーヒーローに変身。恋する女性・秋山雪乃(佐野ひなこ)のために奮闘するハチャメチャなコメディだ。 「転がるビー玉」とはかけ離れた内容に驚くばかりだが、宇賀那監督によると、「『ワイルドバージン』でファンタジーなことをやり切った感覚があり、その反動で『転がるビー玉』が生まれた」とのこと。 ―また、宇賀那監督の過去作を振り返ると、地方のガングロギャルがパラパラダンスに挑む「黒い暴動♥」(16)、娯楽が禁じられた世界で音楽に目覚めた若者を描く「サラバ静寂」(18)と、振れ幅が大きい反面、主人公のひたむきな姿勢は一貫。その点を踏まえると、「熱い物語が好き」という自己分析の通り、「転がるビー玉」も「ワイルドバージン」も、紛れもない宇賀那作品と言える。 「常に新しいことに挑戦したい」と語る宇賀那監督。来年公開予定の新作「異物」には、「新感覚エロティック不条理コメディ」という意味深な言葉が添えられている。その詳細は不明だが、「魔法少年☆ワイルドバージン」から「転がるビー玉」への大ジャンプを見ると、今度はどんな世界に挑むのか、期待せずにはいられない。 写真=宇賀那健一監督 宇賀那健一 うがな・けんいち:1984年生まれ、神奈川県出身。青山学院大学卒業。俳優からキャリアをスタートし、「黒い暴動♥」(16)で長篇映画初監督。以後、「サラバ静寂」(18)、「魔法少年☆ワイルドバージン」(19)と継続してオリジナリティ溢れる作品を発表。新作は2021年公開予定の異色の短篇映画「異物」で、本作は既にナッシュヴィル映画祭で入選を果たすなど、国際的な評価も得ている。 文=井上健一/制作:キネマ旬報社(キネマ旬報11月上旬号より転載) 「転がるビー玉」 ●11月6日発売 ●DVD 3800円+税 /ブルーレイ 4800円+税 ●監督・脚本/宇賀那健一 ●出演/吉川愛、萩原みのり、今泉佑唯、笠松将、大野いと、冨手麻妙、大下ヒロト、日南響子、田辺桃子、神尾楓珠、中島歩、徳永えり ●2020年・日本・カラー・16:9LB(スコープサイズ)・音声1・日本語(ドルビーデジタル5.1chサラウンド)・音声2・オーディオ・コメンタリー(ドルビーデジタル 2.0chステレオ)・本篇94分 ●音声&映像特典/オーディオ・コメンタリー(吉川愛×萩原みのり×今泉佑唯×宇賀那健一監督)/メイキング/劇場予告篇 ●発売・販売元/ギャガ (C)映画『転がるビー玉』製作委員会 2020
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実写化したMade in JAPAN! 『ソニック・ザ・ムービー』を始め、アニメ、ゲームから飛び出した日本のキャラクターたち (C) 2020 PARAMOUNT PICTURES AND SEGA OF AMERICA, INC. ALL RIGHTS RESERVED. 地球制服を企む悪の天才科学者に立ち向かう超音速のソニックの活躍を描く『ソニック・ザ・ムービー』を始め、 日本のアニメやゲームの人気キャラが登場するエンタメ作を一挙ご紹介いたします! 1.映画「ソニック・ザ・ムービー」 映画「ソニック・ザ・ムービー」の作品概要 1991年にセガのビデオゲームのキャラクターとして登場し大人気となった、超音速の青いハリネズミのソニックを実写化。スーパーパワーを狙われ、地球に逃れてから10年が経ったソニック。地球制服を企む悪の天才科学者が現れ、彼は偶然出会った保安官のトムと立ち向かう。 映画「ソニック・ザ・ムービー」の見どころ ソニックとトムのナイスなバディ感と次作を予感させる展開にワクワク! セガの大人気キャラ・ソニックの実写化ということで、そのキャラ造形は、思い入れのあるゲームファンたちも納得の仕上がり。トラブルメーカーだが憎めないソニックと、偶然の出会いから振り回されっぱなしの保安官トム(ジェームズ・マースデン)とのバディ感も楽しく、敵役を嬉々として演じるジム・キャリーによるロボトニック博士の振り切った悪役ぶりがさらに物語をヒートアップさせる。原作ゲームではほかにも多数のキャラがいることから、ロボトニック博士の再登場への期待と合わせて、次作以降の展開も楽しみにしたい。 発販:NBC ユニバーサル・エンターテイメントジャパン合同会社よりリリース中 2.映画「アリータ:バトル・エンジェル」 (C)2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved. 発販:ウォルト・ディズニー・ジャパンよりリリース中 映画「アリータ:バトル・エンジェル」の見どころ 未体験の映像とバトルアクション! 木城ゆきとによる「銃夢」が原作の、記憶を失くしたサイボーグの少女が自らのルーツを探る中で激しい戦いを繰り広げるバトルアクション。演者の動きを忠実に再現し、現実と融合させた3DCGによって、激しいバトルシーンはもちろん、アリータの繊細な感情も見事に描いた驚異の映像は必見です。 3.映画「レディ・プレイヤー1」 (C) 2018 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited and RatPac-Dune Entertainment LLC. All rights reserved. 発販:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメントよりリリース中 映画「レディ・プレイヤー1」の見どころ 誰もが知るあの有名キャラたちがVR世界に出現! 近未来の世界で多くの人々が過ごすVRワールド「オアシス」内に隠された、莫大な遺産を巡る争奪戦をスティーヴン・スピルバーグが描いた体感型エンタメ。「AKIRA」のバイク、「ストリートファイター」のリュウや春麗、ハローキティ、ガンダムなど、ポップカルチャーのキャラ・ガジェットが多数登場。何度も観直して、探したくなります。 4.映画「ピクセル」 (C) 2015 Columbia Pictures Industries, Inc. , LSC Film Corporation and China Film Co., Ltd. All Rights Reserved. 発販:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントよりリリース中 映画「ピクセル」の見どころ パックマンたちゲームキャラが地球征服⁉ パックマンを始めとするゲームキャラに姿を変え、地球を侵略する宇宙人に対してゲームオタクが戦うアクションエンタメ。パックマン、ドンキーコング、ギャラガなど、世界中で大人気となったアーケードゲームのキャラがゲームそのままに地球を攻撃。パックマンの開発者のカメオ出演もお見逃しなく。 これまでは映像化が難しいとされてきたアニメなどの日本のコンテンツが様々なかたちで映画の世界で新たに生まれ変わり、原作ファンはもちろん世界中の人を楽しませています。今回ご紹介した作品以外にもまだ多くの作品がありますので、この機会に是非ご覧になってみてはいかがでしょうか。 映画「ソニック・ザ・ムービー」 制作=キネマ旬報社