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卒業の季節。新たな門出に観たい映画
2020年3月31日卒業の季節。新たな門出に観たい映画 ©Disney. 卒業式シーズン真っ只中。コロナウイルスの影響もあって式自体も自粛となっている学校も多いと思います。記念すべき日に残念な思いをされているかもしれませんが、新しい門出を迎えた皆さんに是非お薦めしたい映画をピックアップしました。ポップなミュージカル映画から、しっとりとしたヒューマンドラマで、それぞれの見どころと合わせてご紹介します! ディズニー・チャンネルで人気を博した大ヒットミュージカルの劇場版! 映画「ハイスクール・ミュージカル/ザ・ムービー」 ウォルト・ディズニー・ジャパンよりリリース中 映画「ハイスクール・ミュージカル/ザ・ムービー」の作品概要 「グレイテスト・ショーマン」のザック・エフロンが若かりし頃に主演を務めた人気青春ミュージカル第3弾。卒業を控える恋人同士のトロイとガブリエラは、互いの大学の距離が離れていることで悩んでいた。そんな中、卒業ミュージカルのオーディションが行われることになり…。 映画「ハイスクール・ミュージカル/ザ・ムービー」の見どころ 高校生の友情や恋に共感! 卒業時期にぴったりの青春ミュージカル バスケットボールに励む少年と優等生の少女との恋を描き、ディズニーチャンネル発のオリジナルTV映画として人気を博した本作。高校生ならではの恋や友情、そしてキャスト陣の才能が光るポップな歌とダンスに夢中になること必至。それぞれが将来への不安や葛藤を抱きながらも挑む卒業ミュージカルのシーンは圧巻です。「グレイテスト・ショーマン」での魅力的なパフォーマンスが記憶に新しいザック・エフロンの若々しい姿も見どころ。 競技かるたに青春を捧ぐ高校生たちの熱いドラマ 映画「ちはやふる -結び-」 東宝よりリリース中 映画「ちはやふる -結び-」の見どころ 競技かるたで全国を目指す高校生たちの青春群像劇。幼馴染みや部員たちへの想いを胸にかるたに励む主人公のひたむきでまっすぐな姿は眩しく、全身全霊で挑む試合シーンでは涙する人も多いはず。広瀬すず、野村周平、新田真剣佑ら人気俳優陣の再集結も嬉しい、感動の最終章! 土屋太鳳主演で贈る、恋と友情の青春ムービー 映画「春待つ僕ら」 ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメントよりリリース中 映画「春待つ僕ら」の見どころ 土屋太鳳、北村匠海らの豪華共演で贈る青春映画。自分を変えようと奮闘する少女と、バスケに青春を懸ける4人の男子が出会い、互いに刺激を受けながら成長していく姿に感動。想いをひとつにして挑む全国大会シーンは、涙なしに観られません。部活、友情、恋、すべての要素に共感必至です! 内気な少年の出会いと成長を描く珠玉の青春映画 映画「ウォールフラワー」 ギャガよりリリース中 映画「ウォールフラワー」の見どころ ローガン・ラーマン、エマ・ワトソン、エズラ・ミラーの共演で描く青春ドラマ。内気な主人公の日常が、ある風変わりな兄妹に出会ったことで徐々に輝いていく様子や、各々が自分の悩みと向き合い、傷つき、成長していく姿に胸を打たれる。自分らしく自由でいることの大切さを学べる1本。 いかがでしたでしょうか。是非、卒業を迎えるこの時期に、仲間との絆や淡い恋の思い出を振り返ることができる青春映画を堪能してみてください。 -
2019年度 映画界事件簿「宮本から君へ」助成金不交付
2020年3月17日この問題は「表現の自由」の侵害として裁判へ 真利子哲也監督の「宮本から君へ」はキネマ旬報ベスト・テンの3位に選出され、池松壮亮が主演男優賞を受賞するなど、2019年度を代表する秀作の一本である。文化庁所管の日本芸術文化振興会(芸文振)の審査を経て、1千万円の助成金交付が内定していた。 「負けてたまるか」は河村光庸プロデューサーのいまの心情だろう ところが、出演者の一人、ピエール瀧が麻薬取締役法違反で3月に逮捕され、6月には有罪判決を受けた。芸文振は7月、瀧が出演しているという理由で、「公益性の観点」から助成金の不交付を決定した。 そして、不交付を決めた後の9月、「文化芸術活動への助成金交付網」が改正され、交付の取り消し事由として、「公益性の観点から不適当と認められた場合」が付け加えられた。これはまさに「語るに落ちる」という状況にほかならない。不交付を決めた時点では「公益性の観点」から不交付にする規定がなかったのだ。 正当な手続きを経て内定した助成金が、正当な手続きを踏むことなく召し上げられる。そんな後出しジャンケンは許されない。 官僚は法にのっとって、粛々と職務を遂行するものだ。それが時に「杓子定規だ」とか「血が通っていない」という批判を浴びる。しかし、だからこそ、信頼も出来る。 これがもし、甲府を内定する前に、関係者が有罪判決を受けていたなら、官僚は内定を出さない方向に動くであろうことは容易に想像出来るし、多少は理解も出来る。官僚に限らず、組織というのは面倒を嫌うものだからである。 しかし、助成が内定していたものを不交付にすることは、諸方面から反発を受けることは必至である(現にこうして批判的なことを書かれている)。なぜこんな過激な処遇に踏み切ったのだろう。やはり、他人に大して不寛容になっている日本社会の空気に忖度したのだろうか。 不寛容な空気は確かに蔓延している。ただし、一方で、不祥事を起こした俳優が出ていれば自動的に公開を自粛する動きに対し、「行き過ぎ」を指摘する世論も大きくなっている。 「宮本から君へ」をはじめ、「麻雀放浪記2020」「台風家族」などが結局公開され、話題を集めた。その意味でも、芸文振の判断は疑問に思える。 真利子哲也監督は、痛みが観客に直に伝わるような優れた暴力表現に定評がある。この「宮本から君へ」では、肉体的な痛みと精神的な痛みがこれ以上ないほど激しくシンクロしており、真利子バイオレンスの一つの達成となった。それだけに、この映画とこの映画のファンに、場外から激しい痛みの不意打ちをもたらした助成金不交付が残念でならない。 この件に関して、河村光庸プロデューサーは「表現の自由」の侵害であるとして裁判を起こした。どんな審判が下るのか注目し続けたい。裁判の行方はきっと、2020年の大きな問題として、今後の「キネマ旬報」本誌にも登場することだろう。 文・石飛徳樹 「キネマ旬報」3月下旬特別号 - 2019年映画業界総決算 ワイド特集 映画界事件簿 その他の事件簿はこちらから -
映画「主戦場」上映をめぐる『KAWASAKIしんゆり映画祭』の迷走
2020年3月17日必要なのは、表現に関わる側の自衛と、享受する側の「表現の自由」を支える自覚 2019年10〜11月に川崎市で開かれた『KAWASAKI しんゆり映画祭』が、ドキュメ ンタリー映画「主戦場」上映をめぐって迷走した。一連の経緯 は、『あいちトリエンナーレ』「宮本から君へ」の問題と時期が重 なったこともあり、表現の自由の危機として注目された。 1995年に始まったしんゆり映画祭は、NPO法人KAWASAKIアーツが主催、共催の川崎市が運営費のうち600万円を負担している。市民中心、行政が支えるという体制で、小ぶりながら着実な人気を得てきた 。「主戦場」は 、 米国人のミキ・デザキ監督による慰安婦問 題をめぐる主張をまとめた作品だ。出演者の一部が「学術研究ということで取材を受けたが、 偏向した商業映画だった」などとして監督と配給会社の東風に上映中止などを求めて提訴している。 映画「主戦場」は2019年、様々な舞台で議論になった 映画祭は8月、「主戦場」上映を決めたが、その直後、川崎市から「上映することで映画祭や市が訴えられる可能性がある作品を上映するのはどうか」との”懸念”を伝えられる。これを受けて9月、東風に上映見送りを通知した。 10月下旬、映画祭開幕直前に上映中止が新聞で報じられると、批判が集中。「止められるか、俺たちを」などを出品予定だった若松プロが抗議のため出品取り消しを表明する。同30日には映画祭事務局やデザキ監督、市民らが集まった討論会が開かれ、「主戦場」上映を求める声が相次いだ。映画祭側は11月2日、一転して上映中止を撤回、映画祭最終日の同4日に混乱なく上映された。 映画祭の盛り上がりに水を差した騒動だったが、この間に市民を巻き込んで交わされた議論は無駄にできなかった。「止められるか、俺たちを」の白石和彌監督らは、川崎市の懸念表明は「公権力による『検閲』『介入』で、映画祭側の判断も「過剰な忖度」により『表現の自由』を殺す行為」と批判し、多くの映画人が疑問を呈した。映画祭事務局も映画祭終了後、上映取りやめの判断は「『あらゆる表現の場』の萎縮に繋がる重大な過ち」と認め、運営医院全員と中山周治代表らの引責辞任を発表した。映画祭は映画表現の重要な場で、たとえスポンサーであっても外部の介入は排除すべきだとの原則を改めて確認することになった。 一方で、映画祭が独立を保つためには、相応の覚悟と準備が必要であることも示した。しんゆり映画祭はボランティアが主体だ。『あいトリ』の『表現の自由展・その後』が、脅迫めいた講義で中止に追い込まれたのを目のあたりにし、市から懸念を表明されて及び腰になったのは無理からぬ面もある。全国の小さな映画祭が、慎重を期するあまり、ますます事なかれ主義になったら残念だ。 社会の情報化が進み表現の可能性が広がり、発表の場も増えた。半面、さまざまなレベルの批判や、暴力を含む介入を受ける懸念も大きくなった。理不尽な圧力は許されない。しかし同時に、表現に関わる側には自衛も必要で、享受する側も表現の自由を支える自覚が求められているのではないか。 文・勝田友巳 「キネマ旬報」3月下旬特別号 - 2019年映画業界総決算 ワイド特集 映画界事件簿 その他の事件簿はこちらから -
第93回キネマ旬報ベスト・テン第1位映画鑑賞会と表彰式レポート
2020年3月16日大きな遺産の輝きと、苦笑いの楽しさと、「生きているんだな」と。 第93 回を迎えたキネマ旬報ベスト・テン。今回、殊に感じたのは、①ベテラン作家同士の、端々に見える絶妙な丁々発止、②若き受賞俳優からこぼれる瑞々しさ(今回は20代が4人・30代が2人) 、③異才が遺した輝きを再確認させてくれたこと。受賞者の方々の、素顔が垣間見える言葉を中心に、お伝えします。 「1位でいいんでしょうか」 14 年連続で司会をした笠井信輔アナが闘病中のため、「映画パーソナリティーの襟川クロがピンチヒッター、 正式には司会代行として務めさせていただきます」、20 年前に 5 年連続で司会した “ 大先輩 ” が登板した。 キネマ旬報社代表取締役社長・星野 晃志の挨拶に続き、映画感想文コンクール2019全国大会グランプリの表彰、ビデオ屋さん大賞2019大賞「ボヘミアン・ ラプソディ」の表彰が行われる。 キネマ旬報社代表取締役社長・星野 晃志 映画感想文コンク ール2019全国大会グランプリの表彰 右から、丹保佳乃さん、平田菜々花さん、雫石華凛さん、渡邊このみさん ビデオ屋さん大賞2019大賞「ボヘミアン・ ラプソディ」 20世紀フォックス ホーム エンターテイメントジャパン株式会社 マーケティング本部 本部長 井上倫明 そしていよいよベスト・テン受賞者の入場。一人一人、舞台に登場するたびに盛大な拍手が鳴り響いた。 まずは日本映画作品賞「火口のふたり」。 監督の荒井晴彦に、本誌編集長の三浦理高から賞状とトロフィーが渡される。 日本映画作品賞 監督の荒井晴彦 「赫い髪の女」が 41 年前に 4 位となったのを皮切りに、自身が脚本を手掛けた作品が幾度もベスト・テン入りし たことを振り返ったのち、「もう僕の作風では1位は無理なんじゃないかとあきらめてました。それが、自分が撮った映画でまさかという。70 歳を過ぎた脚本家が3 本目に撮った映画、 低予算で R18 の裸の映画が1位でいいんでしょうか」。笑いと拍手が響く。 「映画はいいのに演出も脚本もよくないと思ったのか、監督賞も脚本賞ももらえませんでした。演出は白石和彌、 脚本は阪本順治に教わって、またこの場に戻ってきたいと思います」と荒井 監督。壇上で着席している白石和彌、 阪本順治の、なんともいえない笑顔(?)が楽しい。 続いて、外国映画作品賞「ジョーカー」、外国映画監督賞、読者選出外国映画監督賞のトッド・フィリップスに授与、ワーナーブラザースジャパンの土合朋宏が受け取った。 続いては文化映画作品賞「i−新聞 記者ドキュメント−」、森達也が受け取る。「今、何かキャッチされてます?」という襟川の問いに、「いっぱいあります。でも言ったら撮れなくなってしまうんで、ここでは言えません」。次作への期待が膨らむ。客席には同作で森監督が追った東京新聞・望月衣塑子記者が笑顔で受賞を祝った。 文化映画作品賞 監督の森達也 次は特別賞。和田誠さんに贈られる。 受け取るのは和田さんの妻・平野レミ(仕事の都合で、先行授与となった)。 「夫はただただ映画が大好きで、私は映画はライバルだったんです。たぶん 天国から『レミがこんなところにいる、 何だよ』ってびっくりしてると思うん ですけど、よかったわね、お父さん、 いただきましたよ」 襟川の「和田さんは、原稿や絵をレミさんに見せられてたんですか」という問いに、「一切、何にも言わないの。 うちへ帰ってくれば猫をかわいがって子供をかわいがって。優しいんです。 あんまり優しい人と結婚しちゃったか ら、あとがつらいですよね。今私悲しくて悲しくて本当につらいんですよ。 泣いちゃうからもうやめますね」 特別賞 和田誠/代行:平野レミ そのときもだけど、舞台に登場した 瞬間のひときわ大きな拍手に、和田誠さんをみんながどれだけ好きかを感じて、瞳が涙で光ったように見えた。 「“ 日本映画はだめだ ” という... ... 」 続いて、日本映画監督賞は「ひとよ」「凪待ち」「麻雀放浪記 2020」により白石和彌。 「キネマ旬報の賞は縁遠いなとずっと思ってたんですが、いただけて嬉しいです。アカデミー賞で見事にポン・ジ ュノ監督が受賞し、歴史の変わる瞬間だと思ったんですけど、同時にやっぱりすごく悔しさも覚えた。『日本映画は韓国映画に比べて全然だめだ』みたいなことがツイッターに書かれていたので、ちょっと責任を感じつつですが、 やれることをやって、必ずやいつか満足のいく映画を届けられるように、今後も頑張っていきます」 日本映画監督賞 白石和彌 そしてもう一言、「ちなみに去年『止められるか、俺たちを』で、荒井さんが編集長の『映画芸術』でワーストワン。今年は『麻雀放浪記 2020』でワースト3位だったので、演出でお教えすることは特にありません(笑)」。 日本映画脚本賞、読者選出日本映画監督賞のダブル受賞は、「半世界」により阪本順治。 「こんにちは(......とマイクスタンド の高さを直してたらマイクがスルリッ、空中ではっしと摑み取った。すさまじい反射神経!)。オリジナルで脚本を書くときは、主演を想定してるか、主演を決めた後ということで、今回は稲垣吾郎くんを頭において書きました」 日本映画脚本賞、読者選出日本映画監督賞のダブル受賞 阪本順治 襟川の「稲垣さんの、今までにない顔が見えた映画でしたね」という言葉 に、しばし考えた後、「かっこいい言い方ですけど、映画監督の仕事って、 俳優の顔を撮ることかなって」と答えた後、「偉そうだったですか? どうも 後ろ(背後)が気になっちゃって(笑)」。 またも荒井の笑う顔がおかしい。 「 “ 宮 本 ” の バトン を 」 続いて俳優陣の表彰。 主演女優賞は 「火口のふたり」により瀧内公美。 主演女優賞 瀧内公美 「ほとんど二人しか出ていない映画で、 相手役をしてくださった柄本佑さんが いたから、私は今日があるんだなと思っています。以前お世話になった白石監督に『瀧内にこの場で会えるなんて思ってなかったよ』って言われたんで すけど、私が一番思ってなかった(笑)。こういう場所に連れてきてくれたのは荒井さん。感謝しています」 襟川「美しく、何も着ていない二人がくんずほぐれつのシーンは、やはり監督からのご指導で?」 「火口のふたり」荒井晴彦監督と瀧内公美 荒井「ベッドの上の場面になると僕が出ていって、手取り足取りやってました。『足をもっとそらせろ』とか。あとはもう放し飼いです」 瀧内「そう......ですね。『しならせるんだ! しなるんだ!』って(笑)」 「火口のふたり」の上映は表彰式の後。 二人の言葉に、観る人はさらに堪能したのではないだろうか。 主演男優賞は「宮本から君へ」により池松壮亮。 謝辞の後、つい最近あっ たスタッフとのやりとり(問題視すべきことなのに協力して取り組んだけれど限界があって......というエピソード)を話し、「思えばこの作品は、ドラマから映画までそんなことばっかりだったな、と。正しくないこと、いつの間にかシステム化してしまったこと、お金のなさ・時間のなさを理由にしてしまう、事なかれ主義、問題を先送りに......。自分たちの悪い癖を食い止めようと待ったをかけて、誰かが怒ってはみんなでその壁を乗り越えて。現場にたくさんの “宮本” がいて、そのバトンをつないでもらった先にこの場があると思うと、僕だけの力では到底及ばない場所だったと思います」 主演男優賞 池松壮亮 助演女優賞は「半世界」により池脇千鶴。 助演女優賞 池脇千鶴 「基本、男三人の映画なので、私のやった役は、ともすればただのお母ちゃん、添え物になりかねない役。けれども阪本監督が一人の女として、妻として、母として、きちんと一人の人間を 描いてくださった。私の出番はさほど多くないけれど、こういうふうに評価してくださって、映画の神様は見てくださってるのかなと。新人賞をいただいたのはもう 20 年前(99 年度)、次 は 20 年もあかずにまた賞をいただけたら励みになるかなと思います」 阪本が促されて池脇と並び、「トロフィー重いから持ってあげたら」という襟川の呼び掛けに、5 キロ弱のトロフィー2つ、必死に抱えて笑いを呼ぶ。 さらに襟川の「阪本監督は女性の演出が本当に得意ですよね」の言葉には、「荒井さんの前でそんなこと言えるわけないじゃないですか(笑)」。 「半世界」の阪本順治監督と、池脇千鶴 「いま自分は生きてるんだな、と」 助演男優賞は「愛がなんだ」「さよならくちびる」ほかにより成田凌。 「役者を始めてまだ5年ぐらいですけど、こんな未熟な僕を選んでくださり、 ありがとうございます。そんな僕がいただいていいのかなと思って、さっき楽屋でキネマ旬報を見て、何人の人が選んでくれてるのかなと思ったら...... ダントツでした(笑)。すごい、1位 だ、嬉しいなと。それで、主演男優賞を見ると2位。ただすごく差があって、 悔しいなと。やっぱ足りないなと思っ たんですけど、でもいつかは」 助演男優賞 成田凌 新人女優賞は「町田くんの世界」に より関水渚。 新人女優賞 関水渚 「私にとって初めて出演した映画で、右も左もわからなかった私に、石井裕也監督は何度もご指導くださいました。 そのぶん私もとても悩み苦しみ、人生の中で一番、いま自分は生きてるんだな、と実感した1カ月でした」 襟川の「得意な技は? 運動神経とか」の質問には、「運動ができなくて ......ハンドボール投げの試験で 10 メ ートルも飛ばなかったので(笑)、逆にそれが特技かなと思っています」。 新人男優賞は「蜜蜂と遠雷」「決算!忠臣蔵」により鈴鹿央士。 新人男優賞 鈴鹿央士 「もうすぐ芸能界に入って3年目になるんですけど、石川監督や中村監督に教えてもらいながら、ちょっとずつ成長していけてたかなと思っています。 まだまだだなってすごく思ってるので、 ここ(壇上)にいらっしゃる方々ともし現場でお会いする日があったら、お世話になりたいです」 緊張もあってか、だんだん小さくささやくような声になるのも初々しい。 そして鈴鹿を気遣って、受賞を待つ間も明るく声を掛けていた三沢和子に、 本日の締めくくり、読者賞の授与。 読者賞 三沢和子 連載『2018 年の森田芳光』により、ライムスター宇多丸と共に受賞。 「自分のように畑違いの人間が、よりにもよって映画評論の総本山であるキネマ旬報で賞をいただける日が来るとは。まさしく世も末、身に余る光栄」と、仕事で欠席した宇多丸の謝辞を伝える。 「宇多丸さんはものすごい知識と感性、 私もそのノリで、思い出すことは何で もしゃべってしまって。たぶん森田が『いい加減にしろ』って言ってるなと 思いながら、いろいろ話してしまいました。さっき平野レミさんに『毎日寂しくてしょうがないけど、あなたは?』 って訊かれて、『8 年経っても毎日寂しくてしょうがないですよ』。っていうのがプライベート。だから映画は、 こんなに時間が経ってるのに彼の作品や名前がこうやって出していただける。 幸せだなと思います」 そして「あの世代で映画を作っていた荒井さんや阪本さんが今日受賞されてるのも縁だと思うので、これからも 元気なお二人には、どんどんいい作品を作っていただきたい」という言葉に、 この場だから生まれた感慨を、会場全体がズシリと覚えた気がした。 盛大な拍手で、式は終了。来年も、 「いま自分は生きてるんだな、って実感した時間」をちょっとでも感じて、 この日が迎えられますように。無論、 良き映画をも手掛かりに。 受賞者記念写真 (「特別賞受賞」和田誠の代行平野レミは仕事の都合で本撮影には不参加) 第93回キネマ旬報ベスト・テン 第1位映画鑑賞会と表彰式レポート 2020年2月11日(火・祝)東京・文京シビックホール 取材・文=高橋千秋 撮影=椿孝 -
ビー・ガン監督「凱里ブルース」 迷宮としての世界、ふたたび
2020年3月14日一言「マニエリスム」と言ってしまえばよい。本作に寄せられた海外レヴューにある「逸脱」「横道にそれがち」「非線形さ」といった表現は、脱-中心化と脱-焦点化の〈原-身ぶり〉をもつマニエリスム芸術の特徴である。あるいは本作がタルコフスキー「ノスタルジア」(83年)、ヴェンダース「パリ、テキサス」(84年)、ホウ・シャオシェン「憂鬱な楽園」(96年)、アピチャッポン「世紀の光」(16年)など、数限りない映画の「引用の織物」(宮川淳)である点もマニエリスム的内省作用をなす。本作に幾度も現れるミラーボールは、かつて主人公チェンがダンスフロアで出会った亡き妻へのノスタルジアであると同時に、時間と引用が乱反射する複雑な鏡面(いわばビー・ガン的世界模型)ともなっている。またこのミラーボールは、彼の映画に欠かせないビリヤード台の「玉」と二重写しになり、運命の遊戯的不確定性を象徴する「球体幻想」さえなす。直線的時間は解体され、反射と引用の光学が織りなす「鏡のマニエリスム」(川崎寿彦)の時間-迷宮に観る者はいざなわれる。 映画「凱里ブルース」 この時間-迷宮は、鎮遠に向かう旅の途上の、「記憶都市」ダンマイにおける比類なき40分間にわたるワンショット・シークエンスで更に屈折し、その完成をみる。過去・現在・未来が十重二十重と交錯し、チェンの亡き妻(?)さえ暮らすこの場所はユートピア的な別時間の原理に支えられているが、切断なきシークエンスそれ自体が映像のユートピアなのである。あるいは中国という土地柄を踏まえるなら、異端中国文学者・中野美代子が好んで取り上げた「仙界」の一種とも言える。俗界から仙界への移行は、チェンと甥のウェイウェイの二人乗りバイクを追いかけるカメラが「わき道にそれた」瞬間に、その不穏な音響も相まって明確に始まるようだ。仙界で過ごしたのち俗界に戻ってみると夥しい年月が経ていた、という洋の東西を越えて見られる「浦島説話」をチェンが免れたのは、青年に変貌したウェイウェイ(かつて時計の絵を描くことが趣味だった少年)が時間を「巻き戻して」くれたおかげであることが、美しいラストシーンで明らかとされる。回帰するのは時間だけではない。凱里→ダンマイ→鎮遠→凱里という旅の円環構造を思えば、本作はチェン(あるいはビー・ガンその人の)の「内省と回帰」をめぐる〈内空間〉ロードムービーであると知れる(劉静華『円環構造の作品論』参照のこと)――これぞ「回帰ブルース」。 ビー・ガンの発明した「迷宮としての世界」(G・R・ホッケ)は、次作「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」で迷宮の番人たるミノタウロスを卓球少年の形象で出現させ、彼に導かれるかたちでルイス・キャロル的ノンセンシカルな世界に突き進み、さらなる達成を見る。この新時代マニエリスムの旗手が、世界を再-魔術化させる。 路辺野餐 / Kaili Blues 2015年・中国・1時間53分 監 脚 ビー・ガン 撮 ワン・ティアンシン 録 リアン・カイ 美 ズー・ユン 音 リン・チャン 出 チェン・ヨンゾン、ヅァオ・ダーチン、ルオ・フェイヤン、シエ・リーシュン、ゾン・シュアイ、チン・グァンチエン 配 リアリーライクフィルムズ+ドリームキッド ◎4月18日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次 ©Blackfin(Beijing)Culture & MediaCo.,Ltd - Heaven Pictures(Beijing) The Movies Co., - Ltd Edward DING - BI Gan / ReallyLikeFilms 後藤護 ごとう・まもる/1988年生まれ山形県出身。『金枝篇』(国書刊行会)の訳文校正を担当中。また「高山宏の恐るべき子供たち」をコンセプトに掲げる「超」批評誌『機関精神史』の編集主幹を務める。黒眼鏡を着用。著書に『ゴシック・カルチャー入門』(Pヴァイン)。 もっと「中国映画が、とんでもない!」を読みたい方はこちらから