90年代のインディーズ映画/カルチャー界にふらりと現れたハル・ハートリー

90年代のインディーズ映画/カルチャー界にふらりと現れたハル・ハートリー

ハル・ハートリーを知る上で外すことのできない作品群をこの機会にチェックしよう。

 

「シンプルメン」

 

魅力をバランスよく堪能できる6作品

 

歪なミニマリズム。これこそがインディーズの誇りだとハル・ハートリー作品に教えられた若きフィルムメイカーが、世界中に一体どれだけの数存在するだろうか。

ザ・シネマメンバーズにて4月、監督特集「エッセンシャル:ハル・ハートリー」が組まれる。ラインナップは、初期の代表作として日本国内でも人気の高い「トラスト・ミー」、ゴダール「はなればなれに」(64)のオマージュとされソニック・ユース〈KoolThing〉(90)を採用したダンスシーンが有名な「シンプルメン」、ハートリーの妻・二階堂美穂が東京篇で主演を務めるオムニバス「FLIRT/フラート」、そして17年の歳月をかけ完結させたという「ヘンリー・フール」三部作「ヘンリー・フール」「フェイ・グリム」「ネッド・ライフル」。ハートリー作品の魅力をバランスよく堪能できる6作品となっているが、特に今回は「トラスト・ミー」のハートリーらしさにフォーカスしたい。

 

「トラスト・ミー」

 

オープニング・シーンの映像美学的な簡素さに対する突飛なまでの物語展開は、ハートリー的笑いでありながらインディーズ映画全体の特権的な芸でもある。カメラがあり、人がいて、動き、何かを口にした途端、もう映画の材料は十分すぎるほど揃うのだと言わんばかりのミニマリズム。ぺらりとした平面的な数枚のカットを繋いだだけの、しかしその繋ぎに確実なリズムを有したこのシークエンスのストーリーテリング。笑いが出るほどテンポが良い。開始わずか1分、シンプルで軽快なサウンドと共に現れる「TRUST」の文字を見た時点で観客は、これから始まる物語の歪さを簡潔に畳み掛けてくるハートリーの誘いに酔いしれ期待に胸を膨らませることとなる。

「トラスト・ミー」は、歪で無駄がない。それは、全く抜かりなくまともでない人間しか出現しないこと、および、過剰な装飾なしに激昂や破壊的・破滅的行為を起こしてみせることにおいてだ。妊娠するも相手の男に突き放され高校を中退し家をも追い出されてしまうことになる16歳のマリアと、暴力的で理不尽な父親に虐げられて育ち潔癖な性格ゆえに離職を繰り返す男マシューの、不器用な愛にまつわる哲学的イノセンスは、憤る人々、破壊されるモノによって簡潔に、だからこそリアリスティックに浮かび上がってくる。マリアが背中から倒れるかの名シーンにも顕著だろう。

今回の執筆に際し久しぶりに「トラスト・ミー」を再見し、思いもよらない発見があった。本作にたびたび現れる本の著者名に注目してほしい。そこには、のちにハートリー作品のキャラクターとして、およびハートリー本人のミュージシャン名義として登場する「ヘンリー・フール」「ネッド・ライフル」の名前がある。

 

 

※本文は「キネマ旬報4月上旬号」から転載したものです。

文=古里静花 制作=キネマ旬報社

【ミニシアター系サブスク】
ザ・シネマメンバーズ
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© Possible Films, LLC

 

「トラスト・ミー」
1990年・アメリカ・1時間47分
不器用な男と妊娠した女子高生の恋の行方を描く代表作。
※配信中

 

© Possible Films, LLC

 

「シンプルメン」
1992年・アメリカ・1時間47分
人生に迷った強盗と生真面目な弟の寄り道だらけの小旅行。
※配信中

 

© Possible Films, LLC

 

「FLIRT/フラート」
1995年・アメリカ=ドイツ=日本・1時間24分
3つの都市で3通りの恋が展開する異色オムニバス。
※配信中

 

© Possible Films, LLC

 

「ヘンリー・フール」
1997年・アメリカ・2時間17分
ハートリーが描く芸術の衝動。幻の3部作第1章。
※配信中

 

© Possible Films, LLC

 

「フェイ・グリム」
2006年・アメリカ=ドイツ=フランス・1時間58分
幻の3部作第2章はスパイスリラーに急展開!
【3/22~配信】

 

© Possible Films, LLC

 

「ネッド・ライフル」
2014年・アメリカ・1時間25分・R-15
幻の3部作最終章。波乱に満ちた家族の物語が完結——。
【3/29~配信】

映画配信/ザ・シネマメンバーズ 

 

 

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