東出昌大主演。迷いのない走りの先にあるものとは?

東出昌大主演。迷いのない走りの先にあるものとは?

東出昌大主演。迷いのない走りの先にあるものとは?

「海炭市叙景」(10)に始まり、「きみの鳥はうたえる」(18)で揺るぎない評価を得たシネマアイリス企画の佐藤泰志作品映画化シリーズ5作目「草の響き」が、5月11日待望のBlu-ray&DVDリリースとなる。

原作には登場しない妻の存在

心の病を抱え、故郷函館に戻ってきた和雄(東出昌大)は、医師の勧めにより運動療法として街を走り始める。昼夜を問わず、雨の日でも、ただひたすら同じ道を走り続ける。ロングショットによって捉えられた函館の街の空気が、土手を吹き抜ける風や、夕闇が降りてほの赤く染まる稜線を通して感じられ、心の平穏を求める彼の内面を後押しするかのように清々しい。

一方、走りに没頭するにつれ、慣れない土地での生活に不安を抱えながらも夫を理解しようと努める妻・純子(奈緒)との間には見えない隔たりが生じていく。それが決定的となるのは、純子が懐妊したことを告げるシーンだ。喜びを見せない和雄に、純子が「産まない方がいいの」と問うと、彼は笑って取り繕いながらも、おもむろにタバコに火をつけてしまう。それをきっかけにして純子は自己中心的な和雄を非難するのだが、長回しによって丁寧に掬い取られたこの生々しい感情の表出は、それまで明確に交わることのなかった(巧妙に回避されてきた)二人の視線が、はっきりとぶつかり合うことによってなされる。

奈緒演じる純子の瞳に現れる失望を宿した弱々しい光は、綻びゆく夫婦の関係性だけでなく、生きづらさを抱えた和雄の孤独をも浮き彫りにして印象深い。原作には登場しない妻の存在が、常にどこかに狂気を宿した和雄の危うさを引き立てつつ、「希望」を象徴する光となり、小説とは異なる映画独自の地平へと本作を導いていくのだ。

生きづらさを抱えた和雄の伴走者

和雄の伴走者は純子だけではない。路上で出会い、いつしか和雄と一緒に走るようになる少年たちのひとり、Kaya演じる彰もまた肩を並べて並走する存在だ。超然とした彼の佇まいは、スケボーで自由に滑走する様と相まって、何者にも囚われない存在に見える。だが、その澄んだまなざしで見上げた空には、壊れゆく心になす術なく苦しむ最悪の状態の和雄が見たのと同じラジコン飛行機が飛んでおり、不思議と両者は二重写しのように重なり合ってゆく。

感情の機微をじっくり描き、観る者の心を揺さぶる

淡々と、しかし着実に紡ぎ出される感情の機微を、函館の空気と共にじっくりと描き出し、ここぞというところで繰り出すアップショットによって観る者の心を否応なく揺さぶる斎藤久志監督の手腕は見事と言うしかない。ラストシーン、心地よい草の響きを奏でる和雄の迷いのない走りの先にあるものは何なのか、DVDで何度でも確かめてほしい。観るたびごとに、感じ方は変わってくるはずだ。未見の方はもちろん、すでに劇場でご覧になったという方にこそ、オススメしたい作品だ。

文=日下部克喜 制作=キネマ旬報社

「草の響き」

●5月11日(水)Blu-ray&DVDリリース(同日レンタル開始)
Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら

●Blu-ray:5,280円(税込) DVD:4,290円(税込)
●映像特典(Blu-ray、DVD共通)
・予告集

●2021年/日本/本編116分
●監督:斎藤久志、原作:佐藤泰志『草の響き』(『きみの鳥はうたえる』所収 河出文庫刊)、脚本:加瀬仁美
●出演:東出昌大、奈緒、大東駿介、Kaya、林裕太、三根有葵、利重剛、クノ真季子、室井滋
●発売・販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング 
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