ドキュメンタリーを盛り上げるには?〈東京ドキュメンタリー映画祭2022〉に先駆けたシンポジウム開催

ドキュメンタリーを盛り上げるには?〈東京ドキュメンタリー映画祭2022〉に先駆けたシンポジウム開催
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〈東京ドキュメンタリー映画祭2022〉(12月10日(土)〜12月23日(金)に新宿K’s cinemaで開催)のプレイベントとして、シンポジウム〈もっともっとドキュメンタリーを盛りあげたい!作戦会議〉が12月3日(土)に多摩美術大学 TUBで開催。レポートが到着した。

 

第1部
14:00 – 16:00シンポジウム「もっともっとドキュメンタリーを盛り上げたい!作戦会議」

矢田部吉彦(アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭審査員、本映画祭顧問)
舩橋淳(映画作家、本映画祭短編部門審査員)
藤岡朝子(ドキュメンタリー・ドリームセンター代表/山形国際ドキュメンタリー映画祭理事)
司会:金子遊(TDFFプログラム・ディレクター)

第2部
16:10 – 17:00トーク「今年の映画祭ではどんな作品を上映するのか」

佐藤寛朗(TDFFプログラム・ディレクター)
澤山恵次(同プログラマー)
津留崎麻子(同プログラマー)

 

〈第1部〉

第1部では、本映画祭の顧問を務める矢田部吉彦、今年の短編部門審査員の舩橋淳監督、ドキュメンタリー・ドリームセンター代表の藤岡朝子を迎え、いかにドキュメンタリーを盛りあげていくかを話し合うシンポジウムを開催。

 

▲左から金子遊、藤岡朝子、舩橋淳、矢田部吉彦(敬称略)

 

まずは矢田部が、参加してきたばかりのアムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭(International Documentary Film Festival Amsterdam。通称:IDFA)の模様を報告。IDFAは300本以上も上映される世界最大のドキュメンタリー映画祭であり、世界で最初に同性婚を合法化したリベラルな先進国のオランダで行われるだけあって、人権意識が強く、あらゆる問題を議論する場となっている。今年上映された約300本のうち、日本映画は短編1本のみだそうで、「オランダはジェンダー、ウーマンライツにしても意識が進んでいて、日本の作品だと1周遅れている。他国では戦争をしていて、アメリカでは中絶が憲法違反になっている中で、日本に帰ってくると温度差に恐ろしさを感じている」と危機感を訴えた。

そして、東京国際映画祭で作品選定ディレクターを務めた経験から「オランダは完全にバイリンガルの国なので、あらゆることが英語で進められる。日本のあらゆる映画祭は日本語字幕をつけなくてはいけないが、オランダではオランダ語字幕が不要なので、節約できる経費が億単位で違ってくるのが羨ましい。登壇者も質疑応答も英語(なので、通訳代も不要)」と日本の問題点を指摘。

矢田部が審査員を務めたInternational Competitionは、13本中半分くらいがセルフドキュメンタリーだったといい、藤岡は「今国際映画祭でかかるのは、被写体とコラボレーションや交流がある映画。時代の流行はある。映画祭の求める映画は変わってきていることを、作り手には知ってほしい。映画祭を権威として思わないでほしい」とメッセージを送った。

ベルリン国際映画祭でワールドプレミアされた福島県双葉町のドキュメンタリー「フタバから遠く離れて 第一部・第二部」(2012&14)の監督であり、今回、作り手代表として登壇した舩橋は、報道とドキュメンタリーの違いに関して「報道は、ヘッドラインになるもの。要約して、言語化できるもの。ドキュメンタリーは、言語では要約不可能なもので、映像で見ることで溢れ出てくるものがある」と説明。それに気づいたのは「フタバから遠く離れて」の撮影中だったとし、「3月、4月は100人くらいが取材していたのが、7月になると10人になっていて、毎月の月命日(11日)というタイミングで記者が来る。9月12日や9月13日には来ないので、僕一人だった。ヘッドラインに上がらない毎日、ヘッドラインとヘッドラインの間を撮ることがドキュメンタリーの使命なのではないかと思った」と具体例を挙げた。

今年公開した「ある職場」の制作については、「2017年頃、あるホテルチェーンのフロントデスクで働く女性が、男性上司にセクハラを受けたということで、取材を始めた。『次はカメラを持ってきていいですか』と言うと、『すみません、名前出しも顔出しもできません』とのことで、(ドキュメンタリーは作れず)諦めようと思ったけれど、被害者の女性の『セクシャルハラスメントを受けて辛かったけれど、それ以上辛いのは、その後誹謗中傷の中、職場で生きていくこと』という言葉に突き動かされ、元ネタがわからないような形でフィクション化する許諾をもらった」とのこと。

「ジェンダーの問題について男性の僕が監督をしていいのか」と自問自答し、会話は(舩橋が書いたセリフを俳優に言ってもらうのではなく)即興芝居で紡いだという。そして「取材に基づいたネタや問題意識を俳優のみんなと共有した。(一人一人)“セクハラ自体を会社で議論することに辟易している人”などと設定を作り、その議論武装をしてもらい、話し合うシーンを作った。(俳優自身が)本当にセクハラに関して思っていることと設定を混ぜ合わせて議論しているところを、ドキュメンタリーとした。台本がなくて場所だけ用意し、俳優が喋っているところにカメラを置いた。俳優の皆さんにアイデアを出してもらい、ドキュメンタリーとして撮った」とユニークな手法を明かした。

矢田部は「ある職場」について、「“Based on a true story”のフィクションとの違いは、実話を再現してもらうところに俳優本人の意思や思想も盛り込みながら発露してもらうところをドキュメンタリーとして撮っているところ」と話し、舩橋は「もう一つは、ドキュメンタリーでは撮れないものを撮ろうとしている。その人が心の底で思っていることは、ドキュメンタリーで撮るのは難しい。カメラがないところでは話してくれるけれど、カメラを回すと、言葉が出てこなかったりする」と違いを述べた。

藤岡は「作り手の当事者性の問題が脚光を浴びている。日本では作り手の倫理や被写体との関係性を重視して、付き合っていく中の総合的なイメージで撮らせていただくという文化があるけれど、欧米だと先住民の問題や、トランスジェンダーの問題は、当事者以外の人は撮っちゃいけないのかという問題がある。日本は3.11の直後に、被災者でない東京から来たカメラを持った人が、果たして当事者の話や経験を撮れるのかという話題が沸騰し、自問していく時代があった」と解説。舩橋は「当事者だから撮れるものと、当事者じゃないから撮れるものがあると思うので、どちらかが撮れたり撮れないということはないと思っている」と話し、藤岡も賛成した。

ドキュメンタリー・ドリームセンター代表の藤岡は、ドキュメンタリーを応援する活動をしていて、アジアで初めてのドキュメンタリー映画に特化したレジデンシー〈山形ドキュメンタリー道場〉を2018年にスタート。海外からは58組も応募があるのに、日本からは4組しか応募がないと話し、参加したことのある矢田部が「日本語のみでの参加もOKになったので、ぜひご参加ください」とアピールした。

さらに藤岡は「日本ではドキュメンタリーを作っている人口が多くて、日本は洋画のドキュメンタリーの数と同じくらいの数の、年70本が劇場公開されている稀有な国。山形国際ドキュメンタリー映画祭には、三百数十本が応募されているので、劇場公開でかかる映画は3割。劇場公開でかかる映画は、アーティストの伝記映画やアイドルのライブ映像が多い。劇場公開されない映画がたくさんあるので、 東京ドキュメンタリー映画祭などが特徴のあるプログラミングの仕方で、様々な映画が観客と出会う場を獲得しているのはすごくいいのではないか、現在ドキュメンタリーブームではないかと思っている」と東京ドキュメンタリー映画祭に期待を寄せた。

東京ドキュメンタリー映画祭の特徴としては、去年、人類学民族映像部門のコンペティション部門をスタート。東京での開催後に、同じプログラムを関西でも上映する。

矢田部は東京ドキュメンタリー映画祭に関して「2020年にこの映画祭の審査員を拝命して、今年から内部に関わらせていただいている。熱意と専門性に溢れたスタッフがいらっしゃって、建設的な議論が行われていて、この人たちがやっている映画祭なら信頼できると思った。結果、いい作品が揃った」と絶賛。舩橋は「今審査で短編部門を見ているけれど、面白い。切り口もわかりやすくされている」と太鼓判を押した。

 

〈第2部〉

第2部では、東京ドキュメンタリー映画祭(TDFF)のプログラマーが今年のラインナップを説明。

 

▲左から金子遊、佐藤寛朗、澤山恵次、津留崎麻子(敬称略)

 

長編部門プログラマーの澤山恵次は「結果的に戦争の映画が多くなった。お客さんも出品者もリピーターが多いが、多様性などを考えて、プログラミングをしている。『標的』は都内で上映されておらず、今後の上映予定も見えないということが、上映するポイントとなった。映画館で観たい作品を選んでいる」、津留崎麻子は「コロナもあり、肉親の死に関する作品が多い印象」と話した。

プログラム・ディレクターの佐藤寛朗が「亡くなるプロセスを描いた映画が何本もあり、真摯な姿勢に涙した。目の前の方に真摯に向き合おうという原点に取り組む作品が多かった」と述べると、津留崎は「肉親の看取りは究極の主体性。被写体との関わりが深く描かれている」と付け足した。

澤山が「戦争関連でなくても、どう我々が生きていくかを考えさせる作品が多い。こういう人たちはこうしていますよというのを知ることによって、生き方を考えさえられる作品が多い」と言うと、津留崎は「『オーディナリー・ライフ』は、障がい者という意識を覆す。『マエルストロム』は、アート鑑賞が趣味の視覚障がい者と彼の友達の関係性が描かれていて、いい世界だなと思った」と、視覚障がい者が出演する2作を例に挙げた。

最後は津留崎が「ドキュメンタリーは社会の縮図でいろんな人たちの声が聞けるので、ぜひいらしてください」と呼びかけた。

 

【東京ドキュメンタリー映画祭2022事務局】
プログラマー:金子遊、佐藤寛朗、澤山恵次、若林良、吉田悠樹彦、津留崎麻子、田淵絵美、井河澤智子
顧問:矢田部吉彦
人類学・民俗映像部門予備審査員:山上亜紀、遠藤協、金子遊
メインヴィジュアル、フライヤーデザイン:三好遥 フライヤー編集協力:菊井崇史
WEBデザイン:古谷里美
主催:東京ドキュメンタリー映画祭事務局(neoneo編集室)
後援:一般財団法人 宮本記念財団
協賛:アジアンドキュメンタリーズ、エトノスシネマ
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京、芸術文化振興基金
協力:いせフィルム、グリーンイメージ国際環境映像祭
公式サイト:tdff-neoneo.com

 

 

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