「名君剣の舞」のストーリー

野州喜連川七万石の当主英直が領民たちから名君と慕われるかげには、妹雪姫をはじめ、腰元浪江、家老簡野三左衛門、重三郎の親子、名医丹庵、お抱え力士花の山、お茶坊主で鼻のきく無斎、早耳の呂春らのなみなみならぬ努力がひそんでいた。ところが奥方が何者かに毒殺され、英直も再三度にわたって狙撃を受けるという事件が起った。お家横領をたくらむ叔父喜連川節叟の仕業である。ある日、節叟のワナにかかった英直は天守閣の階段から落ちて重傷を負い、取締り不行届きのかどで三左衛門らは失脚、節叟の息子周馬や腹心の須見剛太夫が要職についた。雪姫、浪江、丹庵らの憂慮もむなしく、英直は哀れ狂える廃人になった。周馬を雪姫と添わせる魂胆の節叟は、英直の子を宿している浪江を追放するが、その頃、雪姫にいどんだ周馬は過ってこれを刺し殺してしまった。かくて、節叟は庄屋宅に身をかくしていた三左衛門を斬り、周馬の喜連川家相続を発表したのである。だが、重三郎、浪江、丹庵らは節叟一味が喜連川神社のだんじり祭を期して英直暗殺をたくらんでいることを知った。その日、般若の面をかぶった英直が城内にしつらえた能舞台で舞っていると、鬼に扮した面々が矢庭に真剣をふりかざして斬りつけた。居合わす人々が思わず固唾をのんだ瞬間、英直は手練の早業で周馬を刺した。かねて節叟一味の陰謀に気づいた英直は、奸臣輩を仆すため狂人を粧っていたのだ。英直は浪江の手をとり晴れ晴れと舞い続けるのであった。心を浮き立たせるだんじり囃子が、風に乗って遠く近く流れてくる。