解説
昭和二十年、沖縄慶良間列島渡嘉敷島の集団自決を生きのびた赤ん坊であり、今は何もそのことを記憶していないという暗示的な運命を持つ「シャカ」と呼ばれる青年と、その恋人や友人たちの、真の「ことば」を求めての魂の遍歴の記録として、映画は展開される。脚本は「沖縄列島」の東陽一と前田勝弘、監督も同作の東陽一。撮影も同作の池田伝一がそれぞれ担当。
ユーザーレビュー
「やさしいにっぽん人」のストーリー
深い霧の様に閉ざされた情況の中を疾走するには、あまりにノロすぎるオートバイで虐殺の島、渡嘉敷からそのヘソの緒を後生大事にひきずりゆく男シャカ。故郷に言葉を置き去りにしてきた謝花治は、すでに国家や他者を切り裂く言葉を持たない。引用野郎と呼ばれながらも、ひたすら他人の言葉をしゃべり続け彼の奥深く、何かが沈殿してゆく。ジュラルミンの楯の不気味な程鋭角的響きと、軍靴の音が肌に伝わる日本列島の中で、彼の仲間達はアモルフな情念に全てを託す。ヒタヒタと気味悪く、しかも確実に押し寄せるみえざるものの前に、言葉は、映像はからめ取られた自由に過ぎないのか。堺は、言葉を機関銃のようにぶっぱなし、それを〈暴力〉にまで昇華させようと夢みる。小西はひたすら沈黙の言葉を拾う。もはや悲劇としては何も語り得ない。突然シャカをぶんなぐる警官達。殺人には必ず理由をつけたし、自分を納得させる人々。悲劇のないのが現代なのかもしれない。あるのは真剣な冗談。人々はそこにふとやさしさと闘いを見ることがある。ただそれだけだ。シャカはどうしようもなくダメな奴なのか、それとも彼こそが情況を、その奥深いところで切り裂く武器を磨ぎ冴ましているのか。とにかくシャカは出発する。どこへともなく。
「やさしいにっぽん人」のスタッフ・キャスト
スタッフ |
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キャスト | 役名 |
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「やさしいにっぽん人」のスペック
基本情報 | |
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ジャンル | ドラマ |
製作国 | 日本 |
製作年 | 1971 |
公開年月日 | 1971年3月5日 |
上映時間 | 112分 |
製作会社 | 東プロ |
配給 | その他 |
レイティング | 一般映画 |
アスペクト比 | スタンダード(1:1.37) |
カラー/サイズ | モノクロ/スタンダード |
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