「飢える魂」のストーリー
子宮筋腫で東京のさる病院に入院した味岡道代は、見舞いに来た芝令子と小河内まゆみの生活を、しきりに羨望する。令子は建築界を牛耳る芝直吉の若妻、生活に何不自由ないが自分を金のかからない秘書兼娼婦としか考えぬ五十男の夫に不満。まゆみは夫亡きあと二人の子供を抱え建築ブローカーをやっているが、何かしら魂の飢えを感じている昨今。ある日、大阪の白仁邸でお茶の会に出た令子は、同席の青年紳士立花烈に動悸が高まるのを覚える。しかし立花に気持を打明けられても、彼女は貞淑な妻として冷やかに応待。立花は財閥天童家の分家の跡取り、大変なドン・ファンだが、愛人の女給のり子を袖にする程、令子には真剣である。勝浦の旅館にまで後を追って来る立花に、令子は十年の夫婦生活を越える魂の目覚めを感じ出す。一方、まゆみも病妻持ちの出版社部長下妻と関係あったが、求愛はさけていた。だが子供の昭と伊勢子は二人の仲を誤解して不満。昭は下宿したいと言い出し、借金してでも旅館業を始めて身を固めたいと考えているまゆみを苦しめる。東京に戻った令子は退院した道代を訪れ、悩みを打明ける。道代の夫、仏文学者の礼司は令子の仲人を勤めただけに、その悩みを咄嗟に感じ取った。やがて、まゆみは旅館の件で京都に所用のある下妻と連れ立ち伊勢松坂の兄を訪ねる。この頃、夫と同行、志摩に赴いた令子は、ホテルで遂に自ら進んで立花の腕に抱かれた。兄と話合いのついたまゆみも京都に下妻を訪ね、バーで飲み交す中、日頃分別ある彼に激しく迫られ、とある宿に同泊。飢えも満された令子とまゆみ。だが立花はふとした事故で悲惨な死を遂げ、何も知らぬ令子は夫との最後の旅を北海道へ出発。まゆみも下妻の病妻の死と、それを誤解した伊勢子の自殺未遂で、結婚を諦めねばならなかった。