「カミュなんて知らない」のストーリー
都心にある大学キャンパス。映像ワークショップを受講する学生たちは、高校生による老婆殺人事件を題材にしたノンフィクション『退屈な殺人者』を原作に、映画「タイクツな殺人者」を製作することになった。クランクイン5日前、主演俳優が突然降板し、助監督の久田喜代子(前田愛)は代役探しに奔走する。一方、監督の松川直樹(柏原収史)は妄信的な恋人ユカリ(吉川ひなの)の存在に悩まされていた。やがて主役の代役に、演劇サークルの風変わりな青年・池田哲哉(中泉英雄)が抜擢される。撮影リハーサルが始まるが、“人間を殺してみたかった。殺したらどうなるか実験してみたかった”という主人公の心理解釈を巡り、松川と久田は激しい議論を戦わせる。民家に侵入し老婆を殺害した時、少年の精神状態は「異常」か「正常」か、一体どちらだったのだろう。学生たちを穏健に見守る指導教授・中條も、陰では学生たちにアッシェンバッハ(『ベニスに死す』でダーク・ボガードが演じた作曲家)と揶揄されている。かつて映画監督として鳴らした彼は、15年前に現場から遠ざかり、今では大学の教授として学生に映画を教えている。私生活では2年前に妻を病気で亡くして以来、孤独な日々を送っている。しかし彼の視線の先には、最近密かに淡い思いを寄せる美しい女子大生レイ(黒木メイサ)がいた。一方、池田は両性具有的な妖しさで、次第に「台風の目」のように周囲を撹乱し始める。狂騒と白熱の映画製作の渦中に投げ出された学生たちは、無事に「タイクツな殺人者」を完成させることができるのか。