金で買える夢の映画専門家レビュー一覧
金で買える夢
画家としてチューリッヒ・ダダ運動に参加し前衛映画の制作にも携わったドイツ人芸術家ハンス・リヒターによる1947年製作の実験映画。家賃の支払いに悩むジョーは、ある日、人の頭の中を見ることができる能力に気付き、人々にオーダーメイドの夢を売り始める。マックス・エルンスト、フェルナン・レジェ、マン・レイ、マルセル・デュシャン、アレクサンダー・カルダー、ハンス・リヒターといったシュルレアリスムや前衛芸術のオールスターが、本編に登場する7つの夢の原案を手がけた。戦間期に起きた総合芸術運動シュルレアリスムの誕生から100年を記念した企画『シュルレアリスム100年映画祭』にて日本劇場初公開。
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映画監督
清原惟
他人の頭の中を見ることができる主人公が、客の願望を汲み取った夢を売る商売をはじめる、精神分析的な作品。夢というアイテムを使い、通常のナラティブのなかに、そうそうたる作家たちの描いたシュルレアリスム映像を落とし込んでいく。イメージの面白さもありつつ、映像が誰かの夢や願望を反映できるといった、映像というメディウムそのものにも言及するような描写が興味深い。ただし、男性の夢のほとんどが、女性に対する欲望を表すようなものだったのには、少し辟易としてしまった。
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編集者、映画批評家
高崎俊夫
ハンス・リヒターがレジェ、エルンストらシュルレアリストたちの協力でつくったオムニバス。他人の内心を読めることに気づいた主人公が事務所で《夢》のビジネスを始めるという設定は当時、隆盛のフィルム・ノワールの私立探偵を思わせる。ヴォイス・オーヴァーの活用、ヴェロニカ・レイク風の金髪の美女の依頼人。それらはあくまでエロティックな夢想の断片としてのみ提示されるだけだ。眼球のクローズアップが頻出するのはやはりブニュエルの「アンダルシアの犬」の影響だろうか。
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映画批評・編集
渡部幻
ハンス・リヒターが1947年にマンハッタンで制作したという前衛映画。“夢”のビジネスを始めた男の事務所に、願望や欲望、夢、怖れと虚しさを秘めた人々が訪ねてくる。探偵映画風の設定で、ロッド・サーリングのTV番組『ミステリー・ゾーン』のエピソードを連想させる邦題でもあるが、語り草のシュルレアリストが参加している。シュルレアリスム宣言から100年の夢の映像表現、歴史の1コマに想いを馳せる意義を感じたが、イメージの造形が弱いので、ぼくは夢に踏み迷うような快楽を味わえなかった。
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