私の想う国の映画専門家レビュー一覧
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映画監督
清原惟
パトリシオ・グスマン監督の新作は、チリで2019年に起きた社会運動を捉えている。特定のイデオロギーを持たない民衆によって、組織化されない改革運動が広まったことにまず衝撃を受ける。女性たちが主体となっていた活動も力強く、それを情熱的な視点で捉えるカメラも素晴らしかった。タイトルにも込められている、作り手の祖国への想いが映像にも乗り移っている。「チリの闘い」の時代を重ねながらも、現代の人々にかつて成し遂げられなかったことを託すような、祈りが込められた映画。
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編集者、映画批評家
高崎俊夫
50年前の「チリの闘い」以来、パトリシオ・グスマンはチリの現代史を記録する唯一無二のドキュメンタリストだ。本作は2019年、首都サンティアゴで地下鉄料金の値上げ反対の暴動が燎原の火となり、150万人もの民衆が軍隊、警察と市街戦を繰り広げるさまを描く。映画で常に可能性の中心にいるのは、家父長制を否定する4人の詩人ほか数多くの女性たちだ。監督はその痛切な声に深い共感と希望を見出している。〈革命〉というワードが現在進行形で生々しいリアリティを帯びているのも特筆されよう。
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リモートワーカー型物書き
キシオカタカシ
女性中心の社会運動でチリに決定的な変化が訪れた瞬間を捉えた、希望とオプティミズムに満ちた力強くも美しいドキュメンタリー……なのだが、この作品を観ながらどうしても脳裏をよぎるのは“その後”の現実である。2022年に製作された本作が示したような価値観への反発・バックラッシュが、チリのみならず世界的な趨勢となっている事実を無視できない2024年――。パトリシオ・グスマン監督が想像した希望が単なる“記録”に終わるか終わらないかの瀬戸際であることを強く意識させられる。
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