シアター・プノンペンの映画専門家レビュー一覧
シアター・プノンペン
ポル・ポト派によるカンボジア大弾圧の時代を潜り抜けた映画をめぐる人間ドラマ。偶然寄った古い映画館で、女子大生のソポンは銀幕に映る若き日の母を見る。母の女優時代を知ったソポンは、内戦で失われたその映画の最終シーンを撮り直そうとする。監督は「トゥームレイダー」のライン・プロデューサーを務めたソト・クォーリーカー。本作が初監督作品となる。ソポンの母を演じるのは、「怪奇ヘビ男」などに出演したカンボジアの往年の大女優ディ・サヴェット。劇場公開に先駆け、第27回東京国際映画祭アジアの未来部門で上映され、国際交流基金アジアセンター特別賞を受賞した(映画祭上映時タイトル「遺されたフィルム」)。
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翻訳家
篠儀直子
キャメラ位置とか脚本の書き方とか若手の演技のつけ方とか、正直もうちょっとどうにかしてほしい部分も多いのだが、内戦の傷が露わになりはじめるあたりから、巧拙を超えたものがにじみ出てくる。多くの監督や俳優が処刑されるなか亡命して内戦時代を乗り越えた、まさに「生きる伝説」というべき女優ディ・サヴェットが別次元の存在感。美貌の彼女が演じる「失われた最終巻」のシーンには、有無を言わせぬ力がある。カンボジアの映画アーカイヴや映画館でロケしているのも見どころ。
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映画監督
内藤誠
同じくクメール・ルージュを素材にしていても、84年製作のローランド・ジョフィ監督「キリング・フィールド」は欧米の視点で一貫していたので、見ていて分かり易かった。しかしカンボジアの女子大生の目から見たプノンペンの歴史は複雑だ。あの恐怖の時代には映画監督だと知れたら、粛清された。そこで、ある監督の失われた巻末フィルムを女子大生が新しく撮影することによって再現しようとするサブストーリーには思わず感情移入。軍人の経歴を持つヒロインの父の心の闇は今も深い。
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ライター
平田裕介
クメール・ルージュの悪夢から逃れられぬ世代と同時代を深く知ろうとはしない若い世代。そんな新旧の世代が、ポル・ポトによって壊滅させられた映画を通じて向き合う構図が、いやおうなく感動を誘う。また、父親の決めた結婚話をガン無視して映画制作に奔走するヒロインの姿を通し、いまだ女性が自由に生きるのが難しいカンボジアの現状を訴えているのも巧み。しかし、劇中に登場するクメール・ルージュが民衆にぶつけまくる標語“生かしても得なし、殺しても損なし”は怖すぎる。
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