マイ・ファニー・レディの映画専門家レビュー一覧

マイ・ファニー・レディ

本格的な劇場用長編としては『ブロンドと棺の謎』(01)以来、およそ13年ぶりとなるピーター・ボグダノヴィッチによる新作は、往年のスクリューボール・コメディにオマージュを捧げた文句なく楽しい傑作である。当人たちの意図せぬところで繋がっていく人間関係が笑いを誘う脚本が秀逸であり、転がるように進行する物語を淀みなく流れに乗せ、90分にまとめるボグダノヴィッチの熟練の技が冴えて素晴らしい。これぞ洗練の極みであり、ボグダノヴィッチ75歳にして新たな黄金期の到来を期待させてしまうほどである。オーウェン・ウィルソンやイモージェン・プーツ、脇を固めるジェニファー・アニストンやリス・エヴァンスなどのキャスティングも完璧。映画への愛が溢れ出る必見の1作である。第27回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門にて「シーズ・ファニー・ザット・ウェイ」の題名で上映された。
  • 映画・漫画評論家

    小野耕世

    往年のハリウッド映画へのノスタルジアに満ちたボグダノヴィッチ節健在のこのコメディーが気分よく見られるのは、悪人がひとりも登場せず、ひょんなはずみで舞台にひっぱられるコールガール(新人のイモージェン・プーツが出色)以外は、浮気性の舞台演出家にしろ脚本家などすべてが裕福な連中で、高級ホテルやレストランでおなじみの鉢あわせで散財しても痛くもかゆくもないからだ。映画マニアがうんちくを語りやすいようなおまけ映像まで最後に出る。ニューヨークの街頭描写がいい。

  • 映画ライター

    中西愛子

    コールガールからハリウッドスターに上りつめた若い女優。彼女の成功譚を彩る舞台人らユニークな人々の恋と執着を洒落たタッチで描いたコメディーだ。70年代の匂いがしつつ、携帯もパソコンも登場する現代が舞台。恋のドタバタは、ウディ・アレンを思わせるが、アレンは良くも悪くも軽薄さが魅力で、こちらピーター・ボグダノヴィッチは情が深そう。惚れっぽさが生む創造力。映画はこういう色気がなくなるとおしまいかもしれない。この遺産を受けとめた中年世代の俳優・製作陣にも拍手。

  • 映画批評

    萩野亮

    女と男と電話だけでできた映画である。洗練されたシーンの数かずにおもわずうなる(電話といえばフリッツ・ラングだが、ボグダノヴィッチはさすがラングに取材して一冊上梓しているだけある)。どこまでもウェルメイドに徹する姿勢は、スタジオ時代を知る映画人の矜持さえ感じさせてくれる。どんなに込み入った話も90分で語り終える技術こそが、古典映画の遺産であることをそうしてたしかめた。ウェス・アンダーソンが紹介したというオーウェン・ウィルソンがたいへんはまっている。

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