殺されたミンジュの映画専門家レビュー一覧

殺されたミンジュ

「嘆きのピエタ」のキム・ギドク監督による群像サスペンス。謎の集団がある少女殺人事件の容疑者たちを次々と誘拐し、事件の真相に迫る。主演は「群盗」のマ・ドンソク。また、「春夏秋冬そして春」のキム・ヨンミンが一人8役を演じる。他の出演は、「パイレーツ」のイ・イギョン、「ストーン」のチョ・ドンイン。
  • 映画・漫画評論家

    小野耕世

    初めてアメリカに行ったとき、ニューヨークで米陸軍払いさげのコートを買って着ていたが、この映画の韓国人自警団員みたいな人たちもUS陸軍の服を着て権威づけをしている。キム・ギドク監督は、いつも映画にしたいテーマがからだ全体にあふれているような人なのではないか。撮影も自分でしてしまうし、登場人物も同じ俳優に何役か演じさせるなど。映画のきめは粗いのだが惹きこまれてしまう。つまり韓国社会にくすぶる不平等感や権力者の横暴への批判が生きていて圧倒されるからだ。

  • 映画ライター

    中西愛子

    人間の業をどこまでも深く見つめ、シンプルな話術で、かつ暴力的な威力のこもる映画を撮り続けるキム・ギドク。本作は、個をつきつめた先に辿り着いた、人間社会という巨大なシステムについての彼なりの論考であるように思う。謎の報復集団の行動を追ううちに浮かび上がる、弱肉強食や復讐という終わりなきテーマ。ギドクにしては珍しく、セリフが説明的なのが気になるが、不条理に対して一切目をそらさぬ姿勢には圧倒される。答えのないものを探り続ける。その執念は美徳か、不毛か。

  • 映画批評

    萩野亮

    開巻まもなく殺害される少女ミンジュの名は「民主」から採られているという。殺人と私刑の民主主義なき世界。この監督のこれまでの作品にも増して政治的な寓意が色濃く、血なまぐさい復讐を遂行するいくつものコスチュームプレイが喚起させるのは、権力を維持する制服の暴力である。紋切り型の拷問シーンや要らない気がするセックスシーンなど、あえて戯画化しているのはうまくいっているようには思えないが、チープなデジタルの映像から作者の絶叫だけはたしかにつたわるギドク印。

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