ねぼけの映画専門家レビュー一覧
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評論家
上野昻志
大事なことがありながら、目先の楽なことに逃げる。誰にでも多少はある人間の弱さだが、この男は、肝腎の落語はおろそかにして、酒に逃げ、女に逃げる。まったくしょうもない奴だが、どこか憎めないところがある三語郎に友部康志はぴったりだ。こいつが、どこで正面切って落語に向き合うかという話だが、師匠役の入船亭扇遊師匠が、なんとも渋くてカッコいいのだ。対して、三語郎を支える村上真希扮する真海は、優しい佇まいはいいのだが、内心の屈折がいまひとつわかりにくい。
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映画評論家
上島春彦
私は一時期ずっとカセットテープで落語の「替り目」を聞いていた。志ん生バージョンである。この映画もそれを基にしているようだ。また「ファット・シティ」を思わせる話の流れも、まあこれしかないんだろうな、とは思わせてくれる。酒は怖いよ。むしろ思いがけないのは主人公の恋人の方の事情であり、彼女もまた一種の依存症であると分かる作り。ただし、きちんと出来てるわりに星が伸びないのは、ありがちなネタでこしらえている感じがぬぐえないからだ。役者は好演で見応えあり。
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映画評論家
モルモット吉田
ちゃんと正面からクズを描いている。控え気味でも過剰になっても嘘くさくなって監督の人間を視る目が露呈するというのに、彼女に優しくされるほどに露悪ぶってサディスティックに振る舞う主人公のクズぶりから目を逸らさない。人間を描く質が上等なのだ。売れない落語家を演じる友部の奇怪な容貌(失礼)が素晴らしい。喜怒哀楽が全身から噴出して体内を循環して表情に現れた時、物語は大きく動く。それゆえ彼の表情が凝縮されるクライマックスに感動。壱岐紀仁、要注目監督である。
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