神なるオオカミの映画専門家レビュー一覧
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映画監督、映画評論
筒井武文
文革から始まるが、政治性は背景に退く。モンゴルに下放された青年は羊飼いになり、狼と共生している遊牧民として生きる。それにしても、アニメのように、よくこれだけ狼を擬人化して描写できるものだ。狼の瞳のクローズアップ(近接ショット)から、走りの移動撮影まで。CGの助けも借りているだろうけど。こうした演出は、観客の感情移入に効果的だが、物語に安全に着地し、出来事の描写としての映画自体は信じ難くなる。モンゴルの娘を演じるアンヒニヤミ・ラグチャアが魅力的。
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映画監督
内藤誠
文化大革命の時代、北京から下放された知識青年の眼で見たモンゴル内陸部の物語であるが、さすが「薔薇の名前」のアノーだけに、人類学から当時の政治的状況にいたるまで目配りがきいていた。しかし大平原にひとたびオオカミの群が出現すると、その迫力が圧倒的で、主人公のウィリアム・フォンがオオカミの子を飼おうとする挿話さえ吹っ飛んでしまう。「自然界の秩序を乱すことはするな」と諭す遊牧民族長バーサンジャブの風格が優雅。草原で老いの身を静かに葬られるまで美しい。
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映画系文筆業
奈々村久生
オオカミ、馬、羊の群れがてんこ盛りで動物の群れフェチにはたまらない。といってもオオカミは野性の象徴で、馬と羊は人間側の家畜である。足音を轟かせて吹雪の夜を疾走する馬の群れを、オオカミの群れが襲うシークエンスは圧巻だ。文化大革命における知識人の下放を背景に、緑鮮やかなモンゴルの滅びゆく雄大な自然に生きる動物たちと、どんなときでも剥き出しの感情を激しくぶつけ合う中国の人々の押収は、否応なく観る者を画面に引き込む。馬の氷づけに目を奪われる。
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