トマトのしずくの映画専門家レビュー一覧
トマトのしずく
劇場未公開作品を上映するお蔵出し映画祭2015のグランプリと観客賞を受賞した人間ドラマ。真と入籍したさくらは、母を亡くした時のことがしこりとなり、父・辰夫と疎遠になっていた。一方娘の幸せを思う不器用な辰夫は、直接会いに行くことにするが……。監督は、俳優として活躍するだけでなく「誘拐ラプソディー」など監督業にも進出する榊英雄。父との関係に葛藤する娘を「のんちゃんのり弁」の小西真奈美が、彼女とヘアサロンを経営する夫を「道~白磁の人~」の吉沢悠が、口下手な父を「団地」の石橋蓮司が演じる。また、劇中の音楽や主題歌を榊監督の妻である榊いずみが手がけている。劇場公開に先駆けお蔵出し映画祭2015にて上映(上映日:2015年11月7日、8日)。
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映画評論家
北川れい子
亡き母親への思いと父親への不信感。映画で何度も描かれてきたし、これからも描かれるに違いない。幼いときの思い込みを、ずっと引きずってることもよくあること。それにしても、使いふるされた設定を、使いふるされたまま、いや、ぐーんと間延びさせて描く描写の甘さ、ゆるさはハンパじゃない。父親が住所を頼りに娘夫婦の美容院を探す、たったそれだけの場面に延々と時間をかけ、しかもドラマは止まったまま。聞けば“お蔵出し映画祭2015”のグランプリ作とか。眠れ、よい子よ。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
小西真奈美ってすごく黒目がちで耳が立ってる。黒目は、あなたを真正面からすごく見てますよ、お耳は、よく聞いてますよ、を示し、そういうサブリミナルが魅力になっている独特美人。そんな彼女と疎遠な父が石橋蓮司。キャスティングがいい。物語は監督の実感に由来するそうだが、離婚家庭ゆえに記憶のある年齢以降は数えることが可能なぐらいしか父親に会ってなかったのに、結婚し子どもが生まれたのをきっかけに年一回くらいは父に会うようになった私にも少しはわかる感じ。
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映画評論家
松崎健夫
本作では、母親との思い出が〈良いもの〉として、娘と母親ふたりの姿がひとつの鏡の中に像を作っている。しかし〈忌むべきもの〉とする父親との思い出を象徴するかのように、娘と父親の像はひとつの鏡の中に映り込まない。つまり、娘にとって理想の形は鏡の中にあるのだ。そのこだわりは、鏡だらけの理容室において、娘と父親の姿がひとつの鏡に映り込まない点に表れている。それゆえ娘と父親が和解する終幕で、ひとつの鏡の中にふたりの姿が映し出されるのは必然といえるのである。
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