人生は小説よりも奇なりの映画専門家レビュー一覧

人生は小説よりも奇なり

ニューヨークを舞台に、長年連れ添い結婚したカップルの生活の変化を、「あぁ、結婚生活」のアイラ・サックス監督が丁寧に紡いだ悲喜劇。出演は、「愛と追憶の日々」のジョン・リスゴー、「スパイダーマン2」のアルフレッド・モリーナ。
  • 映画監督、映画評論

    筒井武文

    これは日本映画のようだ。それは、プロットを「東京物語」から頂いていることだけではない。感情として、ショットが刻まれていく様が、往年の日本映画の間を想起させもする。壮年と老年の男子同士が結婚したことによって、離散する羽目になる悲痛さが、的確な距離で捉えられることで、ショットが変化する瞬間、痛かったり、喜んだり、切なかったりする映画固有の時間運動を刻むのである。NYの風景ショットも映画として生きている。その究極の名人は、わが三隅研次であるのだが。

  • 映画監督

    内藤誠

    ニューヨークの街並みを正装して歩く中高年の画家と音楽教師の同性カップル、ジョン・リスゴーとアルフレッドはいかにも幸せそうで絵になる。二人を取り巻く風景が実にいい。だが、新しい法律に従い、祝福もされて、結婚したばかりに、職を失い、マンションのローンも払えなくなる二人。そのドタバタ騒ぎが喜劇というよりは私小説風にリアルにしんみりと描かれていく。ただ演出の視点がバラバラで落ち着かない。最後をしめくくる少年のクールな目で語ってゆけばよいのにと思った。

  • 映画系文筆業

    奈々村久生

    夫婦別姓でさえまだ法的に認められないこの国では先の長い案件かもしれないが、世界では同性婚が合法化される動きは広まっている。しかしそれが社会的に受け入れられて人間らしい生活を営めるかどうかはまた別の問題だ。「結婚はゴールではない」という命題がここでも重くのしかかってくる。ましてや劇中のカップルはかなり高齢の部類。中年以上の男性二人が互いを愛おしんで抱き合う姿は胸を打つ。控えめな演出や映像の様相とは裏腹に相当にラディカルな一作である。

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