偉大なるマルグリットの映画専門家レビュー一覧

偉大なるマルグリット

型破りな歌声で人気を博した実在のソプラノ歌手に着想を得たドラマ。歌が生きがいのマルグリットは、自分が音痴だと気づいていなかった。観客の前で歌う喜びに目覚め、夫の理解を得られぬままに、パリでリサイタルを開こうとするが……。監督・脚本は「情痴/アバンチュール」のグザヴィエ・ジャノリ。無邪気な男爵夫人を「大統領の料理人」のカトリーヌ・フロが、夫を「不機嫌なママにメルシィ!」のアンドレ・マルコンが演じる。
  • 映画・漫画評論家

    小野耕世

    この映画の試写では笑い声も起きていたが、こんな恐ろしい映画は近ごろ初めてだと感じていた私は、とても笑えなかった。自分の音痴に無自覚で歌い続けるこのヒロインは、勝手な文章を書いていい気になっているような自分に重なるのではないかと、冷や水を浴びせられた思い。一九四〇年代に実在したアメリカの〈歌手〉を一九二〇年代のフランスに置きかえたこの映画のなかで、彼女に黙って仕え、最後までその写真を撮り続ける執事役のデニス・ムプンガの演技が最も心に残る。

  • 映画ライター

    中西愛子

    ヘタうまというのは、時に、説明を超えた魅力に富む。本作はそんな才能で人気を博した実在のオペラ歌手をモデルにしているというが、背景は違うし、夫婦愛が裏テーマにあるので、別ものととらえた方がよいだろう。主人公の絶妙な音痴具合、演じるカトリーヌ・フロの何とも言えない無垢と貫禄と謎めいた味わいが素晴らしい。それにしても、自分の実力を正確に認知する方が難しいのだ。人畜無害な人間の勘違いとは罪なのだろうか。ラストの真実の突きつけ方はひどく残酷に思えた。

  • 映画批評

    荻野亮

    にくめない有産階級者の大音痴をおおらかに笑いとばすカーニバル的喜劇かと思いきや、刃の切っ先をもてあそぶような残酷譚である。無垢な存在を前にした人間の悪意についての映画だと気づかされた。喜劇的からの鋭角な急展開はこの作品そのものの「悪意」でもある。合衆国の実在人物に着想しながら、頽廃と人間不信の二〇年代フランスに舞台を置き換えた感性が冴えている。主人公の歌声がもつ秩序破壊的な力をもてはやす前衛詩人、あのモデルは明らかにトリスタン・ツァラ。

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