或る終焉の映画専門家レビュー一覧
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映像演出、映画評論
荻野洋一
見始めた当初の印象は、カットとカットが有機的に繋がっておらず、一枚一枚の画作りで自足していると感じられた。この監督は映画の呼吸がわかっていないぞと。しかし見進めるうちに、その考えが間違いだと気づいた。ティム・ロスが終末期ケア専門の看護師を演じる本作では、登場人物たちのあり方そのものがカットの孤立を要請するのであり、小気味いいカット割りを自粛させたのだ。映画的快楽を時には自らに禁じる姿勢もまた、映画芸術の魅力だという逆説を教えられた。
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脚本家
北里宇一郎
看護師版「おくりびと」みたいな話で。終末期を迎えた人間がどう安らかに生きられるか、そこに心配りした看護師のケアぶりが淡々と綴られて。この男、どこか自己を殺している風情。どうもそこには、自分の息子の死が影を落としてる。その償いというか、自己に罰を与えるために、死を目前にした者と向かい合っている気がする。いわば死に囚われた男、それゆえの献身ぶりが切ない。T・ロスの抑えた演技。それをじっと観察しているようなM・フランコの脚本と演出。胸に錘がおりた。
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映画ライター
中西愛子
終末期患者の看護をする中年男。家族と疎遠になって以来、ひとり暮らしをし、患者のもとに通う日々を送っている。陽光のふり注ぐどこかの町で、生と死が隣り合わせにある日常。扉の向こうの家族には見えない、ケアを通しての密な対話。繊細かつ人肌が匂うほどの生々しい描写力に唸る。ティム・ロス扮するこの男は、しかし素朴な善人ではない。人間の矛盾を見つめた物語だと思っていると、いつしか世界の矛盾という厄介な問題にねっとり絡みついた映画だとわかり愕然とする。傑作。
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