花、香る歌の映画専門家レビュー一覧

花、香る歌

韓国の伝統芸能“パンソリ”初の女流唄い手をめぐる実話を「建築学概論」のスジ主演で映画化。朝鮮時代末期。母を亡くした少女チェソンは、偶然知ったパンソリの物語に感銘。唄い手になることを決意するが、当時は女性が唄うことは固く禁じられていた。共演は「ポイントブランク 標的にされた男」ののリュ・スンリョン、「私の少女」のソン・セビョク、「パイレーツ」のキム・ナムギル。
  • 映画監督、映画評論

    筒井武文

    実在の女性チン・チェソンを演じるスジが何といっても素晴らしい。近年、銀幕上でこれほど輝くヒロインがいただろうか。最初は男装のコケテッシュな魅惑だったのが、みるみる内から溢れ出る美に、映画自体が驚きながらついていっているという塩梅なのである。恋を知った乙女の唄が人の心を打つ。景福宮の池で、舟から唄う距離感が、周りを魅了する。ロケーションと撮影と編集が見事なリズムを奏でる。終盤、降り出す雪がまた絶妙に美しい。パンソリ初の女流唄い手の悲恋物語である。

  • 映画監督

    内藤誠

    シネマスコープの雪景色に始まり、雪景色で終わる朝鮮王朝時代の物語を見ていると、懐かしいというよりはまだ韓国ではこういう映画が堂々と製作されているのだと驚いてしまう。パンソリは大院君の時代までは女性が歌うことは禁止されていたらしく、その禁忌を犯して大自然の中で大声を張り上げ、歌唱練習に励むヒロインのチン・チェソンがおかしくて可愛い。師匠シン・ジェヒョのシブさもいい。日本映画をまとめて見たあとの鑑賞だったので、映画製作における隣国との隔たりを感じた。

  • 映画系文筆業

    奈々村久生

    「建築学概論」(12)で国民的アイドルとなったスジの次回作としてはあまりに地味な作品選びにも見えたが、男装で化粧っけのない時代劇のいでたちも悪くない。滝の音に負けないように声を張り上げたり、雨の中で木を引きながら腹を鍛える原始的な修行風景も、意外に違和感なく楽しめる。パンソリは独特の節回しや振りが感情豊かな表現なので、伝統芸能の一つとしてこの文化を堪能すると同時に、役者とプロの歌い手の違い、芸をものにする難しさと奥の深さも思い知らされた。

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