無音の叫び声の映画専門家レビュー一覧
無音の叫び声
山形県の小さな村に暮らす79歳の農民詩人・木村迪夫の生き様を追ったドキュメンタリー。戦後を見つめ続けてきた木村の目を通して、日本の今を照らし出す。詩の朗読は「祖谷物語 おくのひと」の田中泯。監督は「天に栄える村」の原村政樹。「人生の約束」の室井滋がナレーションを担当し、地方の豊かな芸術や文化にもスポットを当てる。2016年1月23日よりフォーラム山形にて先行ロードショー。
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評論家
上野昻志
まず、冒頭で読まれる稲の詩に惹かれる。作者は、山形県上山市牧野で農業を営む木村迪夫さん。それは、田の代掻きをし、苗を植え、その生育に心身を砕いてきた農民なればこそ見、かつ詠み得た詩であろう。だが、稲を見つめる迪夫さんの視線は、身近な対象から、遙か遠くにまで及んでいる。三十二歳で戦死した父の時代から、彼自身が生きてきた戦後の現在まで。本作は、そのような農民詩人の歩みを捉えているのだが、ドキュメンタリーとしては、いささか踏み込みが弱い。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
「1000年刻みの日時計」の根本にこのような農民詩人の存在があったことを知らなかった。本作の主人公である農民詩人木村迪夫氏の作品はそれ自体がドキュメンタリーだ。世の下層に置かれることへの抗議、農業を営むゆえに知り得た自然の様相についての報告が木村氏の詩だろう。同人誌『雑木林』のバックナンバーや、農民画家草刈一夫氏の絵画の、映ったときに画面を圧する迫力に感銘を受ける。自分に文章を書く機会があることを有意義に成せていないことも恥じた。
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文筆業
八幡橙
山形の農民詩人、木村迪夫が朴訥と、それでいて痛烈にことばに込め続けてきた思い。叔父と父を戦争で亡くし、農業の傍ら東京に出稼ぎし、ごみの収集をも生業にしながら生き抜いてきた彼が、率直に語る戦争への憤りや社会に投げかける疑問をそのまま、まっすぐに映し出してゆく。タイトル「無音の叫び声」に繋がる、叔父の遺骨を探しに行ったウェーキ島で目にした光景、その燃え尽きて行く累々たる骸(むくろ)の壮絶さが、ラストの牧野村を詠んだ詩とともにしっとりと重く脳裏に残った。
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