聖(さとし)の青春の映画専門家レビュー一覧
聖(さとし)の青春
難病と闘いながら将棋に情熱を注ぎ、1998年に29歳で早世した棋士・村山聖の生涯を追った人間ドラマ。幼少の頃からネフローゼという腎臓の病を抱える聖は、将棋に没頭。最高峰の名人位を目指し、周囲に支えられながら、命を削るように将棋を指し続ける。第13回新潮学芸賞、将棋ペンクラブ大賞を受賞した同名ノンフィクションをベースにしている。監督は「宇宙兄弟」の森義隆。主演の松山ケンイチは、役作りのために体重を大幅に増量。また、同世代のライバル・羽生善治に「GONINサーガ」の東出昌大が扮し、七冠独占達成時に羽生が使用していた眼鏡をかけ撮影に臨んだ。劇場公開に先駆け、第29回東京国際映画祭にてクロージング作品として上映。
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映画評論家
北川れい子
将棋の世界に疎いので、29歳で亡くなった村山聖のことは今回初めて知ったのだが、この映画が、将棋盤をフィールドにした一種のスポコン映画になっているのがユニーク。むろん将棋は肉体競技とは異なるが、勝ち負けということではスポーツ競技と同じ、勝負に懸ける意地とプライドも共通する。しかも彼は難病とも闘い、医者の忠告にも耳を貸さず勝負に挑む。まるで「どついたるねん」の将棋版。聖役のために全身に肉を付けた松山ケンイチがみごとで、聖の執念とダブル。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
難病に苦しみ早世したが彼の生と残した業績はその病に由来した。悔やまれる途絶でありながら、熱く濃く生ききったことも間違いない。実在にはこのような矛盾と絡まりがあり、これは掃いて捨てるほどある安直な難病お涙頂戴映画が語りえないもの。本作は悲劇的でありつつ、肯定的で力強い青春映画、伝記映画となっている。俳優が全員強くキャラを作りこんでいるがそれが厭味なく作品世界を厚くした。村山と羽生の友愛を強調した脚色、両者が一分切れ負けを半泣きで戦う演出も良い。
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映画評論家
松崎健夫
本作は、とかく松山ケンイチの肉体改造ぶりばかりが取り上げられがちだが、純粋さと卑屈さが混在した内面的な葛藤を感じさせる演技アプローチもまた評価されるべき点。その演技を受ける東出昌大との衝突を、森義隆監督は双方の〈顔〉を撮ることで実践させている。ふたりの〈顔〉と〈顔〉が導く気迫と熱気。そして、深い部分で繋がっている相互理解のようなもの。映画の中で将棋のルールを提示することを必要としないのは、〈顔〉と〈顔〉によるモンタージュの賜物なのである。
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