ラスト・タンゴの映画専門家レビュー一覧
ラスト・タンゴ
ヴィム・ベンダース監督が製作総指揮を務め、アルゼンチン・タンゴの革新者で50年近く組んできたペアに焦点を当てたドキュメンタリー。1997年にコンビ解消した二人の情熱と、栄光の裏にあった愛憎の歴史を、証言やダンスで浮かび上がらせる。監督は「不在の心象」で山形国際ドキュメンタリー映画祭1999大賞を受賞したヘルマン・クラル。劇場公開に先駆け、山形国際ドキュメンタリー映画祭2015インターナショナル・コンペティションにて上映された。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
ヴィム・ヴェンダースが製作総指揮をつとめたドキュ・ドラマ。一九八〇年代までは映画界の次代のエースと目されたヴェンダースも、長いスランプに悩まされてきた。そんなキャリア上の危機を再三にわたり救ったのが、芸術をめぐるドキュ・ドラマというジャンルだ。それは全盛期に作った「ニックス・ムービー」「東京画」の頃から変わらない。今回も砂漠の中の泉のごときこのジャンルで一息つきつつ、ブエノスアイレスという都市の現代史を、一組のカップルの別離を通して洞察する。
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脚本家
北里宇一郎
アルゼンチンの伝説的ダンスペアの記録。彼らの出会いから、引退した現在までが描かれる。が、当人たちの証言はともかく、再現パートの役者たちのコメントはあまり面白くない。その現在の画面が無遠慮にカットインされて、せっかくの過去の踊りの映像が中断されるのが残念。日本における引退のダンス・シーン他、じっくり観たいところがけっこうあるのだが。タンゴ盛衰の歴史を、かの国の政治状況と重ねて描いてほしかったという欲も。十八年前の「タンゴ・バー」は良かったけどなあ。
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映画ライター
中西愛子
アルゼンチン・タンゴはその性質上、女性ダンサーは女であることをことさら強いられるダンスではないか。男に対しての女。決してそこから逃れられない。それは相当しんどいように思うが、こうした緊張感こそが情熱的な官能の芸術を生む。マリアとフアンの半世紀に及ぶタンゴを通しての葛藤が、当人と若いダンサーとの再現によってひもとかれる。焦点は完全にマリア・ニエベスに当てられている。20世紀的かもしれないが、女性芸術家のすべてがある。壮絶で美しい生きざま。ブラボー!
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